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#もしかしたらグロいかも
海月
38
俺達は壁にあった船内図を見た後、更に奥へと進む。
「おいおい、どこ行くつもりだ?」
ヨハンナが不安げな声で問いかける。彼女は俺の服をガシッと掴んで全く離してくれない。ほぼ密着のレベルでくっついてきて歩きにくい。
「この船、やっぱり何かおかしい。機関室を調べて、本当に壊れてるのか確かめる」
「あたしは行かないぜ」
「ならここで待っててくれてもいいが。とりあえずこの手を離してくれ」
「それはできねぇ」
「じゃあ俺といっしょに来てくれ」
「それもできねぇ」
「うるせぇビビってないで行くぞ!」
俺は彼女を引きずる形で先へと進む。というか腕に絡みついてきて、ほぼ重りである。
俺の腕が褐色のパイに挟まれているが、彼女は目をうずまきにして軽いパニック状態である。
「おっぱいのついた鉄球を引きずってる気分だ」
お化け屋敷みたいな船内を進んでいく。
その時――
「ウゥゥ……」
背後から、不気味な呻き声が聞こえた。
俺とヨハンナは同時に振り向いた。
そこには船員室の6つの扉が並ぶ以外、誰もいない。
けれど、さっきまでそこになかったはずの影が、船の奥からじわりじわりと広がっている気がした。
船内にぬるい風が吹き抜ける。ギィィィっと音をたてて、船員室の扉が開いていく。
暗闇の部屋の中から、青白い顔をした何者かが、のそりと歩み出てきた。
「ウゥゥ……コロサレタ……コロサレタ……」
虚ろな瞳、ボロボロの服を着た船員たちが、ゆらゆらと揺れながら次々に部屋から出てくる。
その数4人。苦悶の表情を浮かべながら、ジリジリとにじり寄ってくる。
「痛い、タスケテクレー」
「おおおおい、とうとう出たんじゃないかぁぁぁ!?」
ヨハンナは顔を引きつらせ脚をガクガクさせながら、腰のホルスターからピストルを抜く。
まさか本当に幽霊船だとは。
俺も聖剣を抜いて、船員ゾンビに構える。
ゾンビはゆらゆらしながら苦悶の声をあげるが、一定距離からは近づいてこない。
「ヨハンナ逃げるぞ!」
「ちょちょ、ちょっと待ってくれ。腰が抜けてる。気づいてなかったと思うが、あたし幽霊が苦手なんだ」
最初から気づいとったわ。
「ウォォォォ、フネカラデテイケー」
「アッチイケー」
「よ、寄るんじゃねぇっ!!」
ヨハンナは目を瞑ったままピストルを発射する。
適当に放たれた弾丸は船内の天井と壁に跳弾して、ゾンビの頬をかすめる。
おしい、もうちょっとでヘッドショットだったのに。
しかし被弾したゾンビは「うわあああああっ!」っと情けない声を上げて尻餅をつく。
「痛ぇ、痛ぇよ! 本当に撃ちやがった!」
「おい、大丈夫か!」
他のゾンビたちが心配する。
「なんだこれ?」
普通ゾンビがかすり傷でピーピー言うか?
確認すると、ゾンビの頬から真っ赤な血が流れている。
「お前ら……」
「う、撃たないでくれ! オレ達は幽霊なんかじゃない、普通の人間なんだ!」
ゾンビたちは慌てて顔を擦って、白いメイクを落とす。
すると普通の肌の、普通のオッサンだった。
「こんなところで何やってるんだ?」
「それは……」
船員達が言い淀んでいると、両手にサンゴとホタテを持ったビアンとポニーが走ってきた。
「マシュマロ王子! これガレス共和国の密漁船だ! 船倉に山のようにサンゴと海産物がある!」
「こいつらクレーンに網つけて、海底さらってやがる! ホタテから真珠も抜いてるぞ!」
「ほほぉ……ウチの島で密猟とは。このリガルド帝国の王子もなめられたものだな」
「えっ!? あんたまさかリガルドの無能豚!?」
「悪逆非道のミニオーク!?」
決めたこいつらは死刑だ。許さん。
「ビアン、ポニー、ふん縛れ」
「「アイアイサー!」」
二人が船員をロープで縛ろうとした時だった。
背後から低い声が響く。
「動くな、手をあげろ」
振り返ると火打石ピストルを持った、髭面の中年男が階段から降りてくる。
他の連中と比べて身なりが良い。恐らくこいつが密漁船の船長か。
「まだいたのか……」
「ガキども、持ってるものを全部床に下ろせ」
ビアンとポニーは、珊瑚とホタテをゆっくり床に置く。
「舐めたマネしやがって」
男はポニーのポニーテールを掴むと、自分の元に抱き寄せて彼女の側頭部に銃口を突きつける。
「テメェら元海賊だな? 政府の犬になるとは、海賊のツラ汚しめ」
「カ、カシラ」
「ポニー!」
「おいやめろ。人質なら俺がなってやる。我王子ぞ!」
「お断りだ。お前みたいな大物人質にしたら、帝国から命狙われるだろうが。武器を全部捨てろ」
俺は聖剣を、ヨハンナはピストルとカトラスを床に落とす。
「おいテメーら、いつまで腑抜けてんだ。ガキもう一匹人質にしろ」
言われて船員達はナイフを取り出し、ビアンも人質にする。
「ムカつくぜ、こんなガキにやられるとは。おいそこの赤髪、お前船長だろ。裸になって土下座しろ。そうすりゃ一人返してやるぜ」
密猟者たちの口がゲヘヘと釣り上がる。
「ヨハンナ、やらなくていい」
「テメェは黙ってろ豚野郎!」
敵船長は俺の真横を掠めるようにピストルを発射。背後の壁に穴が開く。
ヨハンナは苦い顔をしながら、ベルトに手をかけるとスカートがストンと落ちる。赤の水着と肉付きの良い太ももを晒しながら、ブラウスのボタンをプチプチと外す。
「ヒュー、ストリップだぜ~」
「いいぞ、早く脱げ~」
彼女の判断は正しい。プライドと仲間を天秤にかけて、仲間をとれる人間は高潔だ。
いくら笑われようと、仲間の命を優先できる誇り高い行いだ。
しかし、ブラウスの前を完全に開いたところで、ヨハンナの手は止まる。
「おい、どうした? 続けろ女」
「…………ビアン、ポニーすまねぇ」
「「カシラ……」」
「やっぱあたしこんな奴らに土下座なんかできねぇ」
「「カシラ~」」
「あたしはレッドシャーク海賊団船長ヨハンナ、ザコに下げる頭はねぇ!」
次の瞬間――
拳を強く握りしめたヨハンナは、船員の顎をアッパーで撃ち抜く。一撃でKOされた船員は「ぐえっ」と白目をむいて後ろに倒れこむ。
「このクソアマ! ぶっ殺すぞ!」
別の船員がナイフを構えてヨハンナに突撃する。だが俺が真横からタックルで吹き飛ばす。
「王子タックル!」
デブの体当たりを受けて、船員は見事に吹き飛ぶ。
「アンド王子プレス!」
俺は倒れた船員にヒップドロップを食らわしてやる。
こうなってしまったものは仕方ない。仲間の為に頭を下げるのも大事だが、悪に折れないことも大事だ。
ヨハンナは両腕を立てたボクシングスタイルで、次々に船員たちをKOしていく。
ビアンも相手が混乱する隙をつき、船員の股間を蹴り上げて脱出。床に転がるカトラスをヨハンナへと放り投げる。
「カシラ!」
カトラスを受け取ったヨハンナは、敵船長に剣先を向ける。
「く、来るんじゃねぇ!」
敵船長は、彼女に向けてピストルを発射。
だが、ヨハンナは凄まじい動体視力で弾丸を剣で弾く。
「バカな!?」
「バカは、このヨハンナ様に喧嘩売ったテメェだよ!! 歯ぁ食いしばれ!!」
ポニーを捕まえている船長の肩をカトラスで突き刺し、更に懇親の右ストレートを顔面に見舞う。
船長の前歯が砕け折れ、体は後方へと吹き飛び、鉄パイプに頭をぶつけて気絶した。
他の船員たちも苦悶に呻き、全員戦意喪失している。
「ヨハンナ様なめんじゃねぇぞ」
「「カシラ~!」」
ビアンとポニーは彼女に泣きつく。
「悪いな、あたしはああいうゲス野郎に頭下げるの嫌いなんだ」
「いいんです、それでこそカシラですから」
「カシラかっこいいっす」
◇
その後、夜が明けてから密猟者達はきっちり騎士団に届けた。
奴らは幽霊船のふりをしてリガルド周辺の海を荒らし回る、タチの悪い外国船連中だった。どこぞのマフィアとも繋がりがあるようで、現在背後関係を調査中。
勿論あの霧も、濃霧発生器《ミストクリエーター》というマジックアイテムを使った人工的なものだった。
「まさか幽霊船が、そんなことしてるなんて思わないもんな」
ってか乗り込んできた俺達に、ゾンビのフリして誤魔化そうとするとは。呆れた肝の太さだ。
そんなもん通じるわけ無いだろと思ったが、ヨハンナは腰砕けになっていたので意外と効果はあるのかもしれない。
執務室で昨日のことを思い出していると、ヨハンナが尋ねてくる。
「お、おい、お前が言った通りサンゴ礁ツアーを開始することになったぞ」
「密猟者のおかげで、海底資源が豊富ってことがわかったしね。観光名所にすれば皆喜ぶ」
「お、おぉ……」
彼女はチラチラとこちらを伺っている。
「どしたの?」
「昨日のこと、誰にも言ってねぇだろうな」
「あぁ、幽霊にビビりすぎて腰砕けになって泣いたって話?」
「泣いてねぇよ! 尾ヒレつけんな!」
「話してないよ」
「お、おぉありがとよ。一応あたしにもキャプテンのメンツってのがあってよ……」
「意外だな、幽霊が怖いって」
「怖ぇだろ。殴っても死なないんだぜ、もう死んでるから」
そりゃ確かに。
「別に苦手なものがあってもよくない? あんなに強いんだしさ」
「ダメだ、キャプテンは全てに強くないといけねぇ。幽霊怖いとか情けなすぎる……」
「俺は昨日のヨハンナ、カッコよかったと思う」
「や、やめろ、そういうこと言うな」
彼女はカッと顔を赤くする。どうやら褒められるのも苦手なようだ。
島の平和は、赤いサメたちによって守られそうで安心だ。
コメント
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おお、第19話も読了! いやー、今回もおもしろかったです。 まず「幽霊船」の正体がまさかの密漁船&ゾンビメイクの生身の人間だった真相には、思わず「あっ!」って声が出ました。伏線としてのゾンビっぷりと、ヨハンナの幽霊恐怖症がしっかり活きてますね。ラストで彼女が「キャプテンのメンツ」を気にしつつも素直になれない様子は、強さとのギャップが可愛くて印象的でした。 それにしても「♡♡♡のついた鉄球」には笑いました(笑)。王子の軽口が物語に程よいユーモアを添えていて、重くなりすぎないのも好きです。 次話も楽しみにしています!