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海月
38
ダイエットと訓練の二刀流の日々を暮らしている中、とうとうリガルド帝国から任務指示書が届いた。
「ラウル様~帝国よりお手紙でございます!」
爺やに手渡されたのは金縁の黒の便箋。帝国の封印が押された仰々しいものだ。
俺は執務室で手紙を開くと、そこにはこう記されていた。
『汝、ラウル・グランツ第三王子に告ぐ。
この度、キルキア大陸南西に位置する魔獣防衛壁が決壊しかかっているとの報告あり。魔獣の侵入が現実の脅威となりつつある。これを受け、大国の代表による魔族防衛対策協議会が【城塞都市ブロックス】で開かれることとなった。我がリガルド帝国もまた、この事態に対し責任を負う立場にある。ゆえに、汝にこの会議に出席を命じる。
各国の代表者はいずれもお前と同年代の王族が出席することになっている。汝がこの場に赴き、彼らを纏め上げ、効果的な対策を講じることが急務である。
また、この協議会では、単なる防壁の修復に留まらず、各国の協力体制を確立し、効率的な行動計画を練ることが最重要課題である。
ラウルよ、これはリガルド帝国を背負う者としての試練であり、汝の未来に繋がる大きな一歩となるだろう。
リガルド帝国王子として、怠ることなくその務めを果たせ。』
俺は読み終わった後に一息ついた。
「めちゃくちゃハードル高くね?」
リガルド帝国内の話かと思ってたけど、これ多分国外の軍事任務だよね?
「いかがなさいましたか?」
「えっとね、この大陸の南西にあるダークラインが壊れそうだから直してこいって。魔獣防衛対策会議ってのに出席するみたい」
「ダ、ダークラインですと!? とても危険な場所ですぞ」
「魔獣がいるとか」
確かゲームグローリーナイツでも、このダークラインが崩壊してゲームオーバーってルートがあったはず。
「魔界より現れる、数百万の魔獣を閉じ込めているのが、ダークラインという巨大な防壁なのです。それが決壊すると、魔獣たちは一気に大陸へと流れ込み未曾有の大災害が起きることでしょう」
「それを阻止するために行くんだけど、各国の王子や王女もこの議会に出席するらしい。父上は俺にその会議をまとめてこいって」
「さすがですラウル様、陛下からの期待の大きさが現れておりますな。各国の王族は一癖も二癖もある人間に決まっております。しかし国の規模はリガルド帝国が一番、ラウル様が主導権をとっていきましょう!」
「俺にそんなことできるわけないだろ」
元引きこもりのエロゲーマーやぞ。
◇
出発前日の夜――
俺は会議が行われるという都市、【ブロックス】へと向かう準備を私室で行っていた。
「えーパンツに寝間着に枕、タオル、服、靴、傘、地図、お金、お土産と。あと何がいるんだろ。お菓子も入れとくか、きっと長旅でカロリー消費するもんな」
だから実質この中のお菓子は全部0カロリー。ドーナッツも入れちゃおっかなー。
「おーい、持っていっていいブラシってどこにあるんだー?」
一緒に行くヨハンナが、俺の部屋に顔を出す。彼女も荷造りをしている最中である。
彼女は俺のバッグを見て顔をしかめた。
「おいデブ、なんだその砂糖の瓶は?」
「えっ? ……暇な時砂糖水でも舐めよっかなって」
「お前はカブトムシか。今すぐそのバッグに入ってる糖分を捨てろ」
「そんな……俺に死ねっていうのか?」
「糖質カットダイエットはどうしたんだよ」
「緻密な計算のもとにやってるよ。ここに入ってる糖分は実質糖分0なんだ」
「わけわかんないこと言うな」
ヨハンナは砂糖の瓶とドーナッツが入った袋取り上げる。酷いやつだ。しかしカバンの裏に隠した塩キャラメルには気づかれていない。本命は偽装の下に隠すのが基本だ。
「そんでブラシどこだ?」
「わかんない、爺やかメイドに聞いて。あっ、下着持っていってよ! 会議にノーブラとかダメだからな!」
「えぇ……マジかよ」
「嫌なら下に一枚シャツ着るだけでいいから」
「あたしは胸が自由じゃないと嫌なんだ。海賊は縛られない、海賊は自由だ」
「海賊とノーブラは無関係だ。その自由が許されるのはこの島だけだから。会議中だけでいいからちゃんとしてくれ」
「わーったわーった。娼館で乳首シール貰ってくるわ」
「透けるのはダメだよ! あとハートの奴も! ついでに君の部下のももらってきて!」
全く。観光旅行じゃないんだから。
すると聖剣からナハトが具現化する。
「にひひひ、外国楽しみだねぇ」
「遊びじゃないぞ。俺達の会議いかんでは防衛壁が決壊してしまうんだから」
「わかってるよ~」
「そうだ、ナハトは何か思うことあるのか? 俺達恐らく魔獣を倒しに行くけど、同胞倒すようなもんだろ?」
「なんで? 魔族と魔獣は全く別物だよ」
「そうなのか? てっきり仲間かと思ってた」
「確かに魔界から来てるってのは同じだけど、魔族が人間だとしたら魔獣は本能で動く獣だよ。僕らの言うことも聞かないもん」
「なるほど」
「ただ魔獣を操ってる魔族がいたら面倒かな。勝手に魔界門から出てきて、バウバウ言ってる魔獣だけならたいしたことないけど、明確な悪意を持って呼び出してる奴がいるとおっきい戦いになるかも」
「そういう可能性もあるのか……」
ただ倒すだけではなく、ダークラインが破壊されそうな原因を突き止めないとダメなんだろうな。
2時間後――
俺はでかいカバンを無理やり閉じる。
よーし、とりあえずこれで荷造り完了。ナハトは旅立ち前の自家発電の為聖剣に戻った。さて明日に備えよう。
そう思っていると、ママ上が部屋を訪ねてきた。
「ラウルちゃん、明日ね」
「うん、初めてのリガルド以外の遠出だからね。準備は万端にしておきたい」
「……どれくらいで帰ってくるのかしら」
「う~ん、会議が纏まってダークラインの修理が終わったらになるのかな。早くても一ヶ月くらいはかかるんじゃないかな。遅いと半年くらいかかるかも」
遅くなるってことは多分会議で揉めてる、もしくはトラブってるってことだから、もしかしたら終わりの見通しすらたっていないかもしれない。
「は、半年……」
期間を聞いてフラッと倒れそうになるママ上。
彼女は俺の様子を見て、切なそうな表情を浮かべる。
「どうしたのママ上?」
「そんな長い期間会えないなんて……」
「誰が?」
「ママとラウルちゃんに決まってるじゃない」
「なんで?」
「ラウルちゃんはお仕事だし、ママはお留守番だから……」
「留守は爺やに任せてあるけど」
「?」
「?」
なんだかお互いで情報の齟齬があるっぽい。
「ママついて行って大丈夫なの?」
「えっ、最初からそのつもりだったんだけど。残るつもりだった?」
彼女はぶんぶんと首を振る。
「その、ママ多分ついていっても役にたてないから置いていかれるものだと」
「えっ、さみしくない?」
「寂しい」
「じゃあ一緒に行こうよ。ママ上連れていっちゃいけないなんてどこにも書いてないし」
女性を屋敷に残してお仕事に行く貴族や王族は多いが、俺は全員連れていく派である。なぜなら俺の留守中に、変な男がやってきてママ上を攫ったり、押し倒したりするかもしれない。
ママ上と島を歩いていると、男達のギラギラとした視線を何度も浴びたことがある。間違いなく女として狙われている。俺はNTRには敏感なんだ。
「仕事にママ上連れて行くってマザコンかな?」
「そんなことないわ、皆やってる」
そっか、皆やってるなら大丈夫だな。
「ラウルちゃん、その……本当に迷惑じゃない?」
「いや、全然。むしろ俺一人で敵地に行くようなもんだから、仲間は一人でも多く連れていきたい。それに」
「それに?」
「ママ上が甘やかしてくれないと、会議のストレスでこっそり砂糖なめちゃうよ。多分任務が終わる頃には10キロくらい太ってる」
「ママが全力で甘やかすから、それで糖分接種して」
「ありがとう」
すごい母性の出し方だ。
彼女は両手を広げると、「今糖分いる?」と優しく微笑む。
その柔らかな胸にダイブして糖分を貪りたい気持ちはある。
でも
「ママ上……荷造りやった? 出発明日だよ」
「……ど、どうしましょう、何もしてないわ!」
彼女はバタバタと部屋を出て、夜通し荷造りをした。
コメント
1件
第20話、読み終えました! ラウル王子、ついに国外任務か…ハードル高そうだけど、爺やの期待が重い(笑)。でも個人的にツボったのは、砂糖の瓶を没収されつつ塩キャラメルを隠すラウルと、ノーブラ問題で揉めるヨハンナの掛け合い。そしてママ上の「半年?」でフラつくシーンにはほっこりしました。NTR警戒でママ上同行、完全に同意です。甘やかしで糖分チャージするスタイル、最高にほっこり。出発前の慌ただしさが温かくて、次の展開が待ち遠しいです!