通されたのは個室で、そこにはすでに風磨さんと彼女――エミリさんがいた。
「初めまして」
彼女は私たちの姿を見て、サッと立ちあがった。
「初めまして。商品開発部、企画三課の上村朱里です」
私はエミリさんにペコリと頭を下げ、風磨さんにも会釈した。
エミリさんはロングヘアにパーマをかけた、華やかな印象の美女だ。
身長は百六十五センチ以上はありそうで、スラッとしてスタイルがいい。
ぱっちりと目が大きくて芸能人みたいなオーラがあり、素材を生かしたナチュラルメイクを施している。
彼女は明るくて社交的なオーラを醸し出し、滅多にお目にかかれない美人だけど、親しみやすさを感じる。
加えて、第一印象で「やな感じ」がまったくしなかった。
「容姿に恵まれて仕事ができて、性格までいいなんて……」と思いがちだけれど、世界にはそれらを備えた人がいる。
(完璧だなぁ……)
これなら副社長が惹かれてもおかしくないし、こんな秘書が側にいたら誰だって恋に落ちるだろう。
(尊さんはこんな美女とお見合いするはずだったのか……)
チラッと彼を盗み見するとバチッと目が合ってしまい、尊さんはニヤッと笑って私の頭を撫でてきた。
(……考えてる事、筒抜けだったかもしれない)
尊さんには『心配するな』って言われた上、エミリさんは風磨さんとラブラブなのに、私だけ嫉妬して……って、普通に恥ずかしい。
「とりあえず座って。今日は来てくれてありがとう」
風磨さんに言われ、私は赤面しながらテーブルにつく事にした。
飲み物をオーダーしたあと、風磨さんが切りだした。
「二人とも、先日はすまなかった」
「いいえ、終わった事ですし」
「いつもの事だろ」
風磨さんは私たちの返事を聞き、安堵した表情になる。
そのあと、尊さんはエミリさんに尋ねた。
「俺たちの縁談? は破談でいいな? 当人同士の合意だ」
彼は「縁談」を半笑いで言う。
「勿論です。私は風磨さんしか愛しませんから」
エミリさんも〝分かっている〟表情で頷く。
すると尊さんは私の背中に手をやり、エミリさんに提案した。
「朱里、俺がエミリの事を気にしているかも……って心配してるんだけど、ちょっと励ましてくれる?」
「ちょっ……っ、何言ってるんですか! あの、そ、そうじゃなくて……!」
いきなり爆弾をぶっ込まれ、私は慌てて彼のジャケットの袖を引っ張った。
すると風磨さんとエミリさんにクスクス笑われてしまう。
「尊さんは相変わらず意地悪ですね」
エミリさんの言葉を聞き、私はキョトンとして尋ねた。
「この人の性格が悪いって知ってるんですか?」
「朱里、言い方」
尊さんがボソッと突っ込む。
何回も「俺は性格悪い」って言ってるくせに、こういう時、いっちょまえに気にするんだな……。
エミリさんはまったく動じずに微笑む。
「良かった。朱里さんは尊さんの性格が悪いって、ちゃんと知ってたんですね」
エミリさん、分かってる……。
彼女にシンパシーを感じてコクリと頷くと、エミリさんは明るく言った。
「『〝知ってる〟感を出す女』と感じて不快に思ったらごめんなさい。私、風磨さんとは入社してすぐに付き合って、もう六年になるの」
「六年は凄いですね。むしろ今までどうして結婚しなかったのか……、あっ」
言ってから、私は失言したと気づいて冷や汗をかく。
結婚できるならとっくにしていただろう。あの母親がいたからできなかった訳で……。
けれど風磨さんもエミリさんも、気を悪くした様子はなく笑っている。
「だから私は尊さんとも相応の付き合いがあるの。少し訳アリの兄弟だけれど、風磨さんはいい人だし、尊さんもひねくれているけれど悪い人じゃない。彼は私たちの仲に気づいても、お母様には言わずにいてくれた。その干渉しすぎない対応には、本当に感謝しているの」
確かに尊さんなら、あまり関わらずに放置していそうだな。
むしろ、関わって面倒になるのを避けた……とも言えるけど。
エミリさんの言葉のあと、風磨さんが続ける。
「母は僕が二十四歳の頃から、頻繁に見合い話を持ってくるようになった。由緒正しい家の令嬢や、大企業の社長の娘……。見せられた見合い写真は数え切れない」
彼はアンニュイに言い、水を一口飲む。
コメント
2件
どちらのカップルもお似合いで素敵😍💖✨
美男美女カップル💖💖 これを機にエミリさんと仲良しになれる!!!未来の姉妹✨