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クリオネ?
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検査結果に異常がなく病理が不明と言われましても、実際脚は
足首から上に向けて色が通常の肌より色濃く変色しており──
時として内部には何かの塊でも育っているのかと思えるような、例えるなら
脂肪の塊のようなものが出現したりするのである。
これで病気の根拠がどこにも見当たらないと言われても到底納得できるわけがない。
しかし、最悪のことはひとまずないということで安心している自分もいる。
肉片を切り取るという手術までしての検査。
良いように受け取ろう。
病気は脚に聞きながら……寄り添いながら……気長に付き合っていこうと私は決めた。
気持ちが落ち着いたところで、ふと浮かんだのはやはり独特の雰囲気を持つ
皮膚科医のことだった。
◇ ◇ ◇ ◇
県立医療センターに皮膚科医として勤務している若き医師大林は、
町医者からの紹介状を手に、自分のところへと尋ねてきた女性のことに
思いを馳せる。
彼女を診たのは二度。
一度目はほとんど相手を見てなくて、顔も朧気だった。
初見で紹介状の医院の名と医師の年齢から、難しい病気ではないかと、
ある程度の予測はついていた。
その女性患者のことは珍しい苗字であることも相まって密かに
若い医療従事者たちの間で『古家さん』と呼ばれて噂されるほどだった。
聞くところによると、とにかく可愛らしい女性で見ているだけで
幸せな気持ちになれるのだとか。
そんな語り草と併せて
『あの大林と古家さんの絵面が見てみたい』
と言われていたことまでは把握し切れていない大林だった。
自覚しているのか、いないのか、大林もまた、人から見て多大に
魅力的な容貌をしている人間のカテゴリに属していた。
大林がその彼女の話題をちらっと小耳に挟んだのは、昼食に出た
院内の食堂で、だった。
自分はいつものようにモニターを見たままで初診を終えていて、
彼女の顔などは一切記憶になかった。
ただ初回の触診で彼女の脚を台の上に乗せてもらい患部を診ただけで。
いろいろと形容の仕方はあろうが簡潔にいうと、プルルンっとした
美しい脚だった。
それほどまでに美しい患部を診たのは、患者を診るようになって初めてのことだった。
そして、だからといって顔も美しいに違いないなどという発想は
出てこなかった。
ただ黒ずんだ色の患部が際立っていることを少し残念に思ったことは
記憶している。
二度目の来院時でも、検査結果と自分の診断を仰ぎに訪れた古家苺佳を、
露骨に見ることはしなかった。
だが、周囲の彼女に対する世評を耳にしていたせいか、いつものように
モニターに視線を向けてはいたものの──
時折看護師との遣り取りで苺佳の視線が自分に向けられていない隙を縫って、大林は
彼女の顔を盗み見していた。
◇ ◇ ◇ ◇
彼女は脚も美しかったが顔の造形も魅力的に整っていた。
きっと見た者の目を惹きつけずにはおれないだろうなと思わせる、
楚々とした黒曜石の瞳を持つ可憐でビューティーな女性だった。
県立など大きな病院は、地方公営企業法を全部適用しており、
病院事業管理者及び病院局を設置している。
そして、地方自治体が電気、工業用水などを販売して得られる収入をもとに
経営を行っている企業となっている。
……なので、最先端の医療機器が揃っていて、難しい症状などの場合、
綿密な検査が受けられるのが利点だ。
だが、配置されている医師はというと、それほどベテランが揃っていると
いうわけでもないのが実情。
特に皮膚科に至っては医大を卒業し研修医として研鑽を積み、
そのまま流れてきているような状況で、いわばぺいぺいの寄せ集めみたいな
科だ。
いうて、自分もその中の1人に過ぎない。
『症例をごまんと診てきた七十代の開業医が手に負えない病気なんて、
たまさか検査で何か判る場合は別として、こちとらごときに
判るはずもなく……』
◇ ◇ ◇ ◇
可憐で美しい古家苺佳の病気を治すことができなかったという心残り。
それが大林の呟きとなって口から零れ落ちた。
◇ 再会
大林は娘の通う幼稚園の入園式で古家苺佳を見かけた時には
息が止まるかと思うほど驚いた。
……と共に何故か『いいなぁ~こういうの』という気持ちが
芽生えてもいた。
しかし、悲しいかな大林にはこのようなシチュエーションで苺佳に対して
どう振舞えばいいのか、声の掛け方が分からなかった。
そこで彼女と近付きになる切っ掛けの欲しかった大林は、苺佳が自分の方を
見ていたのに気づくと積極的に声を掛けた。
だが声の掛け方を間違えてしまったようで、目の前の可憐なその人は
半泣きで自分の言動に抗議している。
あわわわ、どうしようか! 大林は焦った。
彼女は、私が診察の間彼女の事など何一つ見てなかったというようなことを
口にし、責めるのだが……そんなことは断じてない。
『見てなかったという振り、ここに集った時もどのように声を掛ければ
いいのか分からず、ついあんな素気ない言い方をしてしまっただけなんだけどなぁ~』
と声なき声で呟いた。
「参ったなー」
今度こそ、呟きとなって口から言葉が零れ落ちた。
コメント
3件
みぅです🤍🥀 大林先生の視点で苺佳さんを見つめる視線の描写がすごく繊細で、その距離感と少しずつ近づきたくなる気持ちが伝わってきました…「美しい脚」という表現が、医師でありながらも一人の男性として彼女を見ている感じがしてドキドキしました。二人が再会した入園式のシーン、気まずそうなのにちゃんと声をかける先生にキュンとくる…! 「こういうのいいなぁ」って内心で思ってたのが可愛いです。苺佳さんの病気の行方も気になるので続き読みたいです🌙