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都築七美
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#深澤辰哉
クリオネ?
132
ほとんどの子供と保護者たちが出揃ったところで
『良かった』とひとりごちた大林。
入園式が平日だったせいか母親だけの参加がほとんどだったからだ。
比奈に寂しい思いをさせずに済んだ。
式そのものは小一時間で終わり、子どもは各クラスに集められ、保護者にはちょっとした
説明会が行われた。
ご近所さんと一緒らしく話に花を咲かせている母親たちが散見される。
園のほうから、父兄が園に集った折には交流を深める場にしてほしいと
スピーチがあった。
母親同士のというか女性同士の付き合い方も分からないし、少しこの場で積極的に
話に混ざったからとて、この先自分たち親子にそれが何かしら作用するとも思えず、
大林は比奈を連れてとっとと帰ることにした。
多くの母親たちがまだこの場に留まっている中、もう一組、知り合いというほどの
知り合いなのか何なのか適当に周囲に軽く会釈しつつ、そそくさと帰ろうとしている
人物がいた。
先ほど言葉を交わした古家苺佳だった。
少し間合いをとって彼女の後ろに付いて歩いていると、門を出たところで
迎えに来ていた車と遭遇した。
彼女の夫らしき人物が窓から顔を出し、彼女と二言三言葉を交わしたあと、
彼はふたりを乗せて走り去った。
ちらりと上半身を見ただけだが、なかなかの洒落者と見た。
美男美女カップルかぁ~。
目の前で見た絵面で、すぐにかわいい妻と子を溺愛する構図が浮かんだ。
診察に来た時に彼女が既婚者であることは分かっていたのだし、そもそも
この場で会うということは既婚者前提なのだ。
そして自分だけが、そういう意味では異邦人なのかもしれない。
それなのに自分はさきほどの光景を目の当たりにし、モヤモヤしてしまった。
何なのだろう、このモヤモヤの正体は?
比奈が側にいたので声にこそ出さなかったが、『チッ』という言葉が
出そうになるくらいは嫌な感情に囚われた。
「瑤ちゃん、さっきの子ねぇ~」
「うん? 車に乗って帰ってった子?」
「うん、そうだよ」
「どうしたの?」
「お話して『仲良くしてね』って言ってもらったー」
「そうなんだ。もうお友達、できたのかー、良かったな」
「むふふふ。うんっ」
母親は私に冷たく……なのに娘同士は友達かぁ~。
心中複雑だが比奈がいいなら、よしとしよう。
娘に仲良くしてくれる友だちができたことは喜ばしいことだ。
◇ ◇ ◇ ◇
気分が上昇したため、先ほどのモヤモヤした気持ちの深層に
分け入ってみようとした気持ちも薄れていった。
「忙しいのにありがとう。助かっちゃった」
「お疲れ様、君も疲れたろ?」
「慣れないから、少しね」
「眞奈、保育園どうだった?」
「友達、できたよ」
「そりゃあよかった」
話をしてるうちにあっという間に家に着いた。
「また、仕事に戻るよ」
「うん、気をつけて」
「パパ、いってらっしゃい」
夫は眞奈に手を振り、職場に戻って行った。
◇ ◇ ◇ ◇
入園式からの帰りはタクシーを呼ぼうかなんて考えてたんだけど、
仕事を抜け出して英介さんが迎えに来てくれた。
バス通園の保育園で、徒歩での家までの距離は超微妙。
眞奈にはちょっとキツイ距離。
できれば来てくれるという話だったけれど、あまり当てにはしてなかった。
なので、やっぱり英介さんの顔を見たらほっとした。
カッコ良くてやさしい自慢の夫。
ちょっぴり残念なのは、仕事が忙しくてなかなか家族一緒の時間が
取れないこと。
私は幼少期より親が仲良くしていた家の男児と婚約していた。
それが夫の英介さん、って言いたいけど、それは英介さんの実弟で
俊介くんだった。
影山俊介。
紆余曲折あってその俊介くんの兄である英介さんと結婚したんだよね。
世の中には結婚相手が見つからなくて困っている人たちも大勢いるのに、
物心ついた時には未来の伴侶が決まってたなんて、なかなか運に恵まれてるんだと
思う。
で、ちょっと、俊介くんには申し訳なかったけれど、中学生ぐらいになると
彼のお兄さんである英介さんが許婚ならなおよかったかも、なんて考えが
チラホラ浮かぶようになっちゃって。
少し罪悪感なんかもあったんだけど、あらぬ展開で本当に英介さんと
結婚することになって、ほんとにびっくりした。
私ってどんだけ強運なんだろうって思ったわ。
きっとご先祖さまのお蔭なんじゃないかと思う。
◇ ◇ ◇ ◇
ハイスペックで素敵な夫と可愛い愛娘に恵まれ幸せ一杯の古家苺佳は、
帰宅後、明日から通園の始まる眞奈の新しい生活のことや週末家族3人で
ゆっくり過ごせるかどうかなどに思いを馳せながら夕飯作りに精を出した。
◇ ◇ ◇ ◇
子供たちのお迎えの手段は距離的なこともあり、各家庭でマチマチだった。
下の子をバギーに乗せて、歩いて連れ帰るお家もあれば、自転車に乗せて
帰る人もいて。
ただし、車での送迎は禁止されている。
……というか、送迎そのものが禁止なのではなく、園の近隣に
駐車することが禁止なのだ。
苺佳は園から徒歩5~6分の場所にちょうど上手い具合に車を置ける場所を
知っていてそこを利用している。
途中まで徒歩、そののち車で帰るという体だ。
その場所は前方向に道を1つ挟んで幼稚園が、そして
左側にある道を1つ挟んで神社が建っていて、お参りに訪れる人たちや
園のお迎えに来る人たち、といった具合に皆が利用する場所になっている。
◇ ◇ ◇ ◇
時間の差でちょうど保育園のお迎え時にはほどよく空いているので
助かっている。
コメント
1件
第3話読みました〜! 大林さんが、苺佳さんとその旦那さんの美男美女カップルを見て「チッ」ってなる気持ち、すごく生々しかったです。 「自分だけ異邦人」という感覚、重くて苦しくて、でも共感してしまいました。 一方で苺佳さんの「自慢の夫」エピソードは、ちょっとした罪悪感もあって複雑なのに、語り口が軽やかで読んでて切なくもありました。 このふたりの視線がいつ交錯するのか、気になります。 続きも静かに読みにきますね🌙