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メガネを掛けた貴仁さんとソファーへ戻って、いざ腰を下ろそうとしたら、
先に座った彼の足につまずいて、前のめりに倒れ込みそうになった。
「大丈夫か?」
すかさず身体を支えられて、「だ、大丈夫です!」と、体勢を立て直そうとしたものの足がもつれてしまい、彼の膝の上に座るかっこうになって、
「ひゃー! ごっ、ごめんなさい!」
慌てふためいて悲鳴に近い声を上げ、反射的に立ち上がろうとした。
その浮かせかけた私の身体が、スッと伸ばされた彼の腕に抱えられて、
「……いいだろう。このままでも……」
低く抑えたトーンで告げられると、フッと身体から力が抜けたようにもなって、「は……はい」としか返せないまま、トスンとまた膝の上に腰を落とした。
太腿にじんと感じる彼の体温に、意識がつぶさに持って行かれそうになっていると、目の前でハードカバーの表紙がパタンと開かれた。
「見てごらん。旧い広告アートは、絵画のようにも見えるだろう?」
そう彼に促されて、恥ずかしさにうろうろと泳がせていた視線を、めくられたページに落とすと、
「うわぁー……、本当にポップでステキで」
海外のアーティスティックなレトロ広告に、一瞬で目が奪われた。
「あの、これって、どんな商品の広告なんですか?」
英語にはあんまり強くなくて、彼に説明書きを読んでもらう。
「先に見た香水瓶もそうだったが、これは、君に関係のあるものだな」
「えっ、私にですか?」関係があるって、どんな広告だろうと考える。──そのポスターは、色とりどりなバラに囲まれ、ドレス姿の女性が男性の首に抱きついている、華やかでよく目を引くイラストだった。
「ほら、ここに、書いてあるだろう。『男性を魅了する、バラのパフューム』と」
彼に言われて見ると、確かに”Perfume”と書いてあって、「あっ、パフュームはわかります。香水の宣伝だったんですね」と、納得をした。
「それに、ここをよく見ると、男性の首筋に巻きつけた女性の手に、香水の瓶が握られている」
「本当に。すごくおしゃれな広告ですね……」
イラストの一点を示す長くしなやかな彼の指先を見つめ、気もそぞろに答える。
私の身体を抱えた貴仁さんが背後から眺めつつページをめくると、メガネを掛けた魅惑的な顔が頬のすぐ間近に寄せられて、知らず知らずのうちに胸がときめいた。