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A3or5|本部
「説明しようとして、説明できなくなる」
会議は、
予定通り始まった。
議題も、
いつも通りだった。
・異常行動者の進捗確認
・禁止指標の再発防止
・判断遅延ケースの整理
つまり、
全部同じ問題だ。
1
佐久間は、
ホワイトボードに
大きく二つ書いた。
削除
更新
「我々の対応は、
この二択です」
誰も異議を唱えない。
2
「では、
月影ケースについて」
村瀬が資料を映す。
成果:良好
更新:適用済
削除判断:保留
「……保留?」
誰かが、
前回と同じ疑問を
繰り返す。
3
「削除基準に
該当しない」
「更新は?」
「済んでいます」
「では問題ないのでは」
このやり取りが、
三回繰り返された。
4
四回目で、
佐久間が止めた。
「なぜ保留なのかを
説明してください」
村瀬は、
口を開きかけて、
閉じた。
5
「……判断開始点が
特定できないためです」
「それは異常だろう」
「はい」
「では削除では?」
「成果が出ています」
「更新後なのに?」
「はい」
6
沈黙。
誰も、
次の論理を
出せない。
7
佐久間が言う。
「整理しよう」
彼は、
板書を修正する。
削除:成果を阻害
更新:成果を最大化
「では、
成果に影響しない異常は
どこに入る?」
8
誰も答えられない。
そのカテゴリは、
用意されていない。
9
別の管理職が言う。
「異常は、
成果に影響するものです」
「……定義を変える?」
「はい。
影響しないものは
異常ではない」
10
その瞬間、
村瀬の画面に
警告が出た。
影響なし異常:
過去データに多数存在
会議室が、
ざわつく。
11
「……待て」
佐久間が、
初めて声を荒げる。
「それは
今まで見なかったものだ」
「はい」
「なぜ?」
村瀬は、
正直に答えた。
「説明できなかったからです」
12(破綻)
佐久間は、
何も言えなくなる。
説明できないものを、
異常と呼べない。
だが、
説明できないものを
正常とも呼べない。
二択が、
三つ目を
内包していた
その事実を、
今さら理解した。
13
議事録には、
こう残った。
本件は
判断不能事象として
継続協議とする
「判断不能」という言葉が、
初めて
公式文書に現れた。
B4?|佐伯
「消せなくなった数値」
佐伯は、
自席で
画面を見つめていた。
α-7。
正式には、
もう存在しないはずの数値。
1
消そうと思えば、
消せる。
ワンクリックだ。
誰にも、
気づかれない。
2
佐伯は、
マウスを動かした。
……止まった。
3
「これを消したら、
何が残る?」
自分に向けた問い。
答えは、
すぐに出た。
成果だけ。
4
それは、
正しい。
正しいが――
足りない。
5
佐伯は、
過去ログを開く。
α-7 が出ていた
初期ケース。
そこには、
必ず同じ注釈があった。
判断に
一瞬の余地あり
6
「……これ、
人だ」
口に出して、
佐伯は気づく。
7
システムは、
成果しか評価しない。
だが、
この数値は
成果の外側を
測っている。
8
佐伯は、
評価シートを
一行、書き換えた。
正式項目ではない。
コメント欄だ。
※判断余地が
構造上存在
9
保存。
警告が出る。
禁止指標関連語を
含んでいます
10(破綻)
佐伯は、
削除しなかった。
その代わり、
警告文を
スクリーンショットした。
「……消せない」
それは、
反抗ではない。
理解してしまった
というだけだ。
11
佐伯は、
初めて思う。
「これ、
誰も責任取れない」
12(締め)
本部は、
判断できないことを
公式に認めてしまった。
佐伯は、
消すべき数値を
消さなかった。
どちらも、
正しい手続きを
踏んでいる。
だからこそ――
壊れた。