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一話 初恋
青い夏が始まる。窓を開けば風と共に日差しが差し込み、セミの鳴き声が耳を鳴らす。溶けそうなアイスも、滴る汗も、全部雨で流れてしまう。
そう、暑いのに湿気もある、最悪な梅雨真っ只中だ。そんな最悪な気分でも、その曇りを全て取っ払うものがある。その名を、恋と言う。
「はぁ〜今日もかっこいい〜……」
「今日も元気に拝んでますねぇ〜」
「だって好きなんだもん…………ねぇ〜優華どーにかしてー!」
「……うーん、美琴の愛には流石に勝てないかも。」
「え!?あの優華でも!?」
「私は物理しか無理なの。」
澄川 美琴。絶賛片思い中です。片思いというよりも、推し活に近い。
あそこの窓側にいる彼。窓から日差しが差し込んで黒髪が輝いている、その姿に廊下の女子がハートの目をして眺めているのが遠山彼岸くん。
毎日遠山くんがかっこよすぎて心臓が何個あっても足りないと絶叫して親友たちに呆れられる日々。
でも私がこんなにも好きだってことは本人は全く知らない。本人からしたら、女の子から好かれることは当たり前のことなのかもしれない。
この気持ちをどうしたらいいものか。どこにぶつければいいものか。
遠山くんはモテる。すごくモテる。あのカッコ良さでモテないのは無理があるほどだ。クラスのモテ男子と言う話題なら半分以上の人が彼を挙げるだろう。
でも、遠山くんは告白されても承諾したことはないらしい。「今好きな人いるから、ごめんね」と言葉を残して颯爽と逃げてしまうらしい。彼を追う人たちの中には好きな人が誰か探し出そうとする者もいた。
これが事実なのかはわらないけど、私が彼に告白したところでそもそも誰かさえわかってもらえないかもしれない。
気持ちは伝えたい。おこがましいのは百も承知で言うが、もし付き合えるのなら彼と付き合いたいとも思う。でも、告白して関係が変わってしまうのを恐れて逃げてしまいたくなる自分がいる。
なら、いっそ告白なんてせずに、諦めてしまえば良いとも思うが、それでも彼を見かける度に目で追ってしまって、この胸の高まりをずっと抑えていける気がしない。
いっそのこと告白して、振られて、きっぱりと諦めてまた別の人を探してみようかな。でも、それで本当に諦められるの?
「……告白……」
「すんの?いいじゃーん!いっちゃお!」
「いやノリで告白は絶対上手くいかんべ」
「……しようかなって……」
「え、ガチ?マジでいくの?マジ?え?すんの?マジで?」
「……当たって砕けてみて、また別の人探そっかなって。それで諦められるのかな〜……」
「まぁそれが一番諦められるよね」
「モテ男に恋するのはしんどいよね〜。」
「……どうせ振られるんだもん。」
「もーそんなこと言わないの。」
「美琴こんなに可愛いのにね?」
「後から後悔はしたくないの!!」
「あいつ美琴のこと泣かしたら絶対許さねぇかんな。」
「あいつ優華敵に回したな。あいつの命日はもうすぐや。」
「でも、彼岸くんって顔モテするタイプだから優華が顔殴ったら色んな女の子に目つけられそうだねー」
「でも美琴は顔よりも中身で好きになったんだもんね。女子の中では珍しいんじゃない?」
私は親友立ちに背中を押されたこともあり、当たって砕けるため、告白を決意した。部活終わり、遠山くんとは家の方面が一緒なのか帰り道に見かけることがある。帰り道に一人のタイミングで告白しようと思う。私は緊張が高まり、大きく深呼吸する。お腹のふくらみを感じて、彼への想いが多く入るように器を大きくする。
部活が早く終わった日に遠山くんを見かけると私は胸から熱が湧き出て、爪の先まで熱くなり、ドキドキで頭が遠山くんで埋まってしまうような、バカみたいに一人深い恋に落ちていた。
話しかけようとしても、言葉が喉に詰まってしまう。言わなきゃならない言葉でも、言葉を発した先の結果がわかる自分がいて、その自分が、喉の言葉を否定し続ける。喉が焼き切れそうだ。
「……あ、あの遠山くん!!」
「え?あ、え、澄川さん?どうしたの?」
「え!?」
「え?」
まさか遠山くんが私の名前を覚えていたとは思わず、驚きと嬉しさで何度も練習してきた言葉が吹き飛んでしまった。今の私は滑稽だろう。彼はなにもわかっていない様子で、ただ首を傾げるだけだった。
「あの!!……えっと……じ、実は…………遠山くんのこと、……ずっと、前から……す、好きです!!!」
「……え」
「………………」
全ての時が止まったかのようにさっきまで聞こえていたはずの風の音も、セミの声も、公園で遊んでいる子供たちの声も、なにもかも聞こえなくなっていた。その空の空気に、私の心臓の音だけが響いていた。
沈黙が長い。思っていたよりも遥かに長い。予想していなかったわけではない。いきなり普段話さない人から話しかけられて、ただでさえびっくりしてるなか告白されているのだ。私が彼だったとしても、立ち尽くすだけだろう。私は今、わかりきっている答えを待っているのだ。
(引いちゃったかな。嫌われちゃったかな。……そうだとしたら、……いや、それがこの気持ちを諦められていいんだろうけど、やっぱ……悲しいな。)
「……ごめん、えっと…………俺……」
「……そうだよね、ごめんね!本当に!……いきなりこんなこと言われてさ、本当ごめん!気にしないで!!忘れてくれて良いから!!ごめんねー!バイバイ!」
「……え、……あ、いや………」
ずっと動かなかった足が嘘みたいに私は全速力で走っていた。涙なのか汗なのか、私にはもうわからない。視界はおぼろげになっていて、真っ直ぐ走れているのかさえわからない。私は今どこに向かっている?そんなこと考えられる余裕なんてなかった。
(あれ、私ちゃんと笑えてた?あれ、おっかしいな、わかってた答えなのに、悲しいなぁ。やっぱり、どんだけ予想できてても、分かりきってても、悲しいものは悲しいな。)
涙は止まらず、足も止まらず、ただ走り続けた。このままどこか遠くへ行ってしまいたい。もう顔も見れないかもしれない。避けられてしまうかもしれない。
「あはは……あー笑っちゃうなぁ。……笑えたら、良かったなぁ……」
自分の馬鹿さと愚かさを実感して嘆く度、弱いくせに調子に乗ってしまった代償を抱えられずにいた。
今の私の顔は誰よりも醜いことだろう。私はどうして、こんなにも彼を深く好きになってしまったんだろう。でも、こんなに悲しくても、「なら好きになんてならなきゃ良かった」なんて言いたくない自分は大バカ者なんだろうか。
私は彼と初めて出会った小さな公園のブランコに座った。入学式の日に、緊張と恐怖心で吐き気が止まらなかった私は登校途中に公園によった。
高校に入学すると、大きく環境が変わる。私はそれに適応できる自信がなかった。ベンチで吐き気と戦っていた私は、いきなり首に冷たいものがあたり、私は反射的に頭を上げた。
そこに映ったのは太陽で美しく輝く黒髪と、七三分けの前髪の間から見えるツリ目だけだ優しい瞳。そして、目の前に差し出された水とハンカチが目に映った。
「大丈夫ですか?顔色悪かったので、水買ってきました。」
救世主だと思った。苦しんできた私の中に、ただ一つの光が現れた。私は安心と嬉しさと、希望が見えたことで涙が止まらなかった。涙がこぼれる私を前に、慌てふためく彼の姿は優しさが全面に現れていた。
それから私はずっと彼を追い続けてきたのだ。
震える手で親友たちにメッセージを送る。涙で視界は見えない。涙でスマホが濡れている。電源を切ると醜く泣く私が映っていた。
彼のためにメイクも勉強し、ヘアセットして、ダイエットして、可愛い服もいっぱい買った。
頑張ったメイクは全部崩れていて、改めて自分の弱さと、醜くさを知った。
「「美琴!!」」
「みーこ大丈夫!?」
「これ!美琴のためのホットミルクティー買ってきたよ!」
「…………わかってた、のになぁ……」
「好きなやつに振られて悲しくないわけないじゃん!」
「もう大丈夫だよ。」
涙は抑えようとしても溢れてしまった。「大丈夫」と声をかけられる度、私は涙が溢れてしまう。私はなんて良い親友を持てたんだろう。なんていう幸せ者なんだろう。私が馬鹿すぎて本当にいやになる。
それから私は親友を抱き締めながらしばらく泣き続けた。彼への思いをこぼして行くように声を上げて泣いていた。私と親友たちしかいない古びた小さな公園で。
「まぁ〜次いこ次!」
「鬱憤晴らすためにカラオケ行こうよ〜!」
「確かに!絶対恋愛系の歌歌うなよ!」
「……ありがと、みんな……」
「なーに言ってんの!親友慰めるのなんて朝飯前よ!」
家について、ぐちゃぐちゃなベッドに寝転がる。制服を脱ぐ余裕もないほど、俺の頭はパンク寸前だ。額から冷や汗が流れ落ち、耳は赤く熱くなっている。
(どうしようどうしようどうしよう!振ってしまった……どうしよう!?明日も学校はあるが………)
澄川美琴さん。いつも笑ってて友達と仲が良い。真面目で努力家。俺とは違う人なんだってどこかで思ってて、俺なんかが関わっちゃダメだと思ってた。
泣かせてしまったことに罪悪感が止まらない。勇気を出してくれた彼女に応えられなかったことがなによりも悔しい。それでも、彼女の涙さえ愛おしいと思う自分を許せなかった。
見事に振られてしまった。本当に予想通り。振られたらキッパリ諦めて新しい恋をしようと思ってたけど。
(……振られてもまだ諦めきれないなんて。どーしよぉ〜……誰か良い人いないかなぁー )
「美琴〜部活行くよー」
「あ待って待って!!シューズロッカーだった!」
「はぁーやぁーくぅー」
「あ」
「ん?どしたん?」
「部活で頭埋めればいいんだ!恋愛から離れれば、想いも自然に冷めていくかも……!」
「おー!!いいじゃん!!……てか、来月には大会あるんだから埋めてもらわなきゃダメなの!!」
「あ〜嫌だな〜大会」
「なんで?」
「絶対勝てないもん……」
「やる前からそんなこと言わない、のっ!」
「イテッ」
「やってみなきゃわかんないっしょ!」
そう来月には大会がある。失恋に心をやられてる時間なんてない。そう考えると憂鬱な気持ちが道を塞いでいく。泣いても嘆いても道は変わらない。なら考えないようにすればいいだけだ。
そう考えないように。……考えないように。
コンコンッ
「……美琴さん。今あいてる?」
「え!?あ、え、神崎くん!?」