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「――はあ、はあ……ゆず君」

「スッキリしましたね。こういうのも、たまにはいいかもです」



ウィッグを脱ぎ捨てて、いつものクソダサジャージに着替えた、ゆず君は一仕事終えたというように、ふうと、額の汗を拭っていた。俺は、ゆず君に抱かれて、指一本も動かないんだけど。

普段使われていない校舎に連れ込まれて、物置部屋になっている教室でゆず君と身体を重ねてしまった。女装しているゆず君に、俺は身体を委ねて、それから……

今思い出したら、通常の脳で考え直したら、沸騰しそうなほど恥ずかしいことをしたのだと、そんな自覚があって、俺は穴があったら入りたい気持ちだった。けれど、ゆず君は満足そうな笑みを浮べているので、たまにはこういうのも良いか、なんて思ってしまう自分もいて。とことん、ゆず君に甘いなあ、と自分の甘さを自覚してしまう。

ゆず君が可愛いからいけないんだ! なんて、心の中で言いつつ、いつもの格好に戻ったゆず君を見る。



「コンテスト……もう、終わってるかなあ」

「まあ、僕の足下にも及びませんけど、それなりに上手いなあ~って人いたんで、その人が優勝とかで良くないですか?」

「適当だなあ……でも、ゆず君より可愛い感じの人、いなかったからなあ」

「ふふん、矢っ張り僕が一番でしょ」



と、どや顔でいうゆず君。


自分の容姿に自信が持てる人っていいな、なんて感想を抱きつつ、俺は、先ほどから外を気にしているゆず君に引っかかりを覚えた。

行為の最中、というか、最後にパシャリとシャッター音が聞えた気がしたけれど、気のせいだよね、ってそう自分に言い聞かせたかった。けれど、この間の掲示板のこともあって、信じられなくて、誰かにストーキングされているのではないかという被害妄想に駆られる。もしそうなら、そのストーキングしている人を捕まえて、これ以上被害者を出さないように、そして、もし撮られていたのならその写真のデータを消すようにいいたいんだけど。



(そんな訳無いよね……)



一瞬頭の中をよぎった、赤色の瞳。蛇みたいに、俺の脳内を這い回って、思考の幅を狭めて締め付けてくる。

シャッター音が、頭の中で繰り返し再生される。何度も何度も写真を撮られているような感覚になって、少し吐き気が込み上げてきた。

考えないようにしようと思って、ゆず君の方を見れば、珍しく顎に手を当てて何かを考えているようだった。



「ゆず君どうしたの?」

「……」

「ゆず君?」

「あっ、はい。何ですか♡ 紡さん」



珍しく、眉間に皺を寄せて、険しい顔をしていたゆず君は俺の声なんて聞えなかったとでも言うように、肩を大きく上下させた後、俺の方を見た。驚いているところを見ていると、意識が別の方向に行っていたのではないかと察する。ゆず君ももしかして、シャッター音を? そう聞きたかったが、掲示板のことはゆず君に言っていないし、ゆず君を困らせたくないっていう気持ちも働いてしまって、中々言い出せずにいた。

すると、ゆず君が、くしゃりと前髪を掴んで、何やらブツブツ言い出した。先ほどの甘い雰囲気から一変して、深刻そうに、ギリッと奥歯をならして、「あークソ」なんて、いつもいわない汚い言葉を吐いて。



「ゆず君!」

「紡さん」

「う、うん。何、ゆず君」

「ちょっとの間、距離を置きましょう」

「え……、いきなり、何で。唐突に……」



さっきのがお気に召さなかった? それとも、飽きた? なんて、最悪な想像が頭の中に広がっていく。

ゆず君って飽き性だしね、なんて何処か自分を納得させて、この後いわれるかも知れない言葉に供えている自分もいた。けれど、ゆず君は、思い詰めたような顔を一掃すると、パッと顔を明るくさせた。



「いや~さっき思い出したんですけど、もう少しで映画クランクアップなんですよね。それまで、頑張って走りたいっていうか、真剣にやりたいっていうか。『俺』こうみえて、真面目なんで。良いもの作りたいですし。それに、紡さんと一緒にいるときは、僕……紡さんだけのこと考えたいので。他のことに気が散って、恋人のこと、そぞろにしちゃダメだなって思って」

「……え、あ」

「だから、ちょーっとだけ、距離置きましょ? 連絡は大丈夫ですけど、実際あうのを控えたいっていうか」



映画のためなんです、といきなりいいだしたゆず君の言葉が理解できなかった。でも、いいたいことは分かったし、必死なのも伝わってきて、俺は縦に首を振るしかないな、なんて自分を納得させる。

何でいきなり、ってその衝撃が強くて、他の言葉が何も入ってこなかったけど。

俺が、返事をすれば、ゆず君はよかった、というように胸をほっとなで下ろしていた。いつにもまして、表情がころころ変わる。何かを隠しているのではないかと感くぐってしまう。



「ありがとうございます。紡さん」

「う、うん……」



ギュッと捕んだ手が、少し震えていたのは、気のせいであって欲しいと、俺は思ってにこりと笑顔を向けるゆず君の顔を見つめるしかなかった。

突然ですが、BL小説のモデルになってください!!

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