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学園祭が終われば、いつもの平穏が戻ってくる。
けど、あの掲示板には、何かしら月曜日に人の堕ちた顔、見られたくない素顔、姿が映し出された写真が悪趣味にも貼られている。あれから、俺の写真が貼られることはなかったが、一度味わった恐怖は、忘れられなくて、月曜日が怖くなってしまった。ただでさえ、月曜日という日はあまり好きではないのに。
「はあ……」
「紡先輩、恋煩いですか?」
「ちぎり君」
「隣失礼しますね。席、空いて無くて」
と、周りを見渡してから、ちぎり君は、フッと柔らかく笑う。トレーには、パンケーキだけがのっていて、揃えられたフォークとナイフがキラリとトレーの上で光っている。
昼食の時間、隣に座ってきたちぎり君に恋煩いなんて言われて、何て返せばいいか考えていた。恋煩いではないけれど、悩んでいるのは事実で、これを、彼に話して良いものなのかと、頭を悩ませる。ちぎり君が、口が軽いとは思っていないし、寧ろ堅い方だって言うのは分かる。秘密主義者でもあるから、ちぎり君が人の秘密やことを話すとは思わないし。そういう面では信頼できるんだけど。
(何というか、値踏みされているような気がするんだよな……)
最近、ちぎり君に対しての警戒心が上がってしまって、彼の目が日や冷ややかで、俺を見下して、値踏みしているんじゃないかって……いや、妄想の行きすぎ、被害妄想かもだけど、何というか、ちぎり君の目は、人を嘲笑っているような値踏みするような目なのだ。説明が難しいけれど、人間は素敵だけど、滑稽で、哀れで、美しい、見たいなそんな俺では到底たどりつけない境地にいたった目というか。よくよく考えれば、俺はちぎり君の事を何も知らない。だからこそ、話して良いものなのか迷ってしまったのだ。
「また、祈夜柚のこと?」
「……何で、それを」
「お見通しですよ。隠せると思う方が、可笑しいです。というか、紡先輩がわかりやす過ぎるだけなんですけどね」
「それは、酷いよ。そんな、分かりやすいって……でも、いやいや……ちぎり君が」
「僕が何です?」
「いや、何でもない」
お見通し、か。と俺は、味のないゴムでも噛むような顔でパンケーキを食べるちぎり君を見る。美味しそうなイチゴや色とりどりのフルーツと、生クリームがのっているパンケーキを、何の感情も無いような顔で食べるちぎり君が少し怖かった。俺だったら、美味しいって、まず写真を撮ってしまうくらいなのに。一葉大学の学食のパンケーキは値段に見合ったおいしさをしているから。時々、アレンジを加えて、SNSにあげる生徒もいるくらいだし。俺も、レシピが欲しいくらい、ここのパンケーキは美味しいと思っている。
「パンケーキ好きなの?」
「珍しいですね。僕に興味あるんですか?」
「うん、そうだね。ちぎり君のことよく知らないし、知りたいかも、とは思う……かな」
「疑問系ですね。僕は別に、先輩のこと分かってるので、聞くことは特別ないですが」
パンケーキは別に好きでも嫌いでもないですよ。とは答えてくれた。でも、わざわざ高いものを頼むってことは、好きよりなのかなあ、とも思う。それか、単なる金持ちか。
辛辣だなあ、と返ってきた返答に対してちっぽけな感想を抱く。
ドライなのかな、と感情や声、そして表情のあっていないちぎり君を見て思う。興味がないって言われたのは、若干悲しくもあるから。
まあ、学年も違うから、そこまで関わらないっていったら、関わらないんだけど。最近はよくあうから、少しくらい知りたいなって好奇心と興味がわいて。可愛い、後輩だとも思ってるし。
俺の片脇でパンケーキを食べ終わったちぎり君は、スマホを確認し、画面に視線を落とした後、フッと笑った。
「何? もしかして、彼女とか、いるの? ちぎり君は」
「そんなんじゃないですね。残念ながら。でも、既読がつくか分からなかった人のメッセージに既読がついたっていうちょっとした、達成感はありますね」
うん? と、俺は、いっている意味が分からなくて、首を傾げるしかなかった。俺には分からなくても良いというように、にこりと笑うちぎり君。
俺が、分からない前提で、話しているんだなって言うのが伝わってきたし、教える気も無い、見たいなその顔に、俺はちぎり君との距離を感じてしまう。明確な壁がそこに存在するというか。ちぎり君って、誰にでも一歩引いている感じがする。それも、それを意識的にやっているという感じだし。ゆず君以上にプライベートがシークレットだなあ、何ても思う。
それから、ちぎり君は俺の尻ポケットを見て指を指した。
「そういえば、先輩スマホ、なってますよ?」
「え、うそ。ほんとだ。気づかなかった」
「バイブなのに?」
「うっ……」
感覚が鈍っているっていう感じではないんだけど、言われるまで気づかなかったのは確かだ。俺は、スマホを抜いて、画面に映し出された名前を見て、目を見開いた。
「ゆず君?」
何だか嫌な予感がしつつ、ボタンを押せば、その瞬間ブチッと電話が切れてしまう。代わりに、数秒経ってから、メッセージが入り、「今夜会えませんか」の一言が、俺の不安をさらに駆り立てた。