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刑務所の冷たい壁に囲まれた直樹の元に、ある一通の「外部情報」がもたらされた。
それは、直樹をさらに深い奈落へ突き落とそうと画策する、九条の元秘書───
加賀による仕掛けだった。
『詩織さんが、若くて有能な実業家と再婚するらしいぞ。陽太君も、その男を「パパ」と呼んで懐いているそうだ。……お前の席は、もうどこにもないんだよ』
加賀が差し入れた偽の週刊誌記事。
そこには、私が仕事仲間と談笑している写真を
巧妙に切り貼りした「再婚間近」の捏造レポートが躍っていた。
直樹にとって、それは致命的な一撃だった。
自分がどれほど罪を犯そうとも
自分を憎むことで「自分に執着している」と思い込んでいた。
だが、私が別の男の隣で笑い
陽太が他人の男を父親と呼ぶ……
そのイメージは、彼の傲慢な自尊心を根本から破壊した。
「……嘘だ……。詩織が、あいつが俺以外の男を選ぶはずがない! 俺が、俺が育てた女なんだぞ!」
直樹の叫びが、独居房の狭い空間に反響する。
嫉妬。執着。
そして、自分が完全に「過去」の遺物になったという恐怖。
狂ったように壁に頭を打ち付け、彼は看守の手を振り払って暴れ出した。
その報告を、私はオフィスのデスクで受け取った。
「直樹被告が刑務所内で暴行事件を起こし、懲罰房送りになったそうです。……再婚の噂を聞いて、自暴自棄になったとか」
報告する秘書の言葉に、私は書類をめくる手を止めなかった。
「……そう。勝手に踊っていればいいわ。一円の価値もないデマに踊らされるなんて、あの人らしい最期ね」
私は、再婚など考えてもいない。
今の私にとって、誰かの「妻」という肩書きに戻ることは、再び自分を他人の帳簿に書き込むようなもの。
私はもう、自分だけの純資産で、陽太と二人、どこまでも高く飛べる。
しかし、この「デマ」は思わぬ方向へ火を噴いた。
懲罰房の中で精神を病んだ直樹が、朦朧とする意識の中で、看守にある「独り言」を漏らしたのだ。
『……九条…あいつが隠した……本物の「金」の在り処……。詩織に渡すくらいなら……焼き払ってやる……』
看守を通じてその情報が九条の残党に漏れ
塀の外では「消えた隠し財産」を巡るハイエナたちの動きが加速し始める。
私は、手元にある1円の誤差もない資産表を見つめた。
直樹が最後に握りしめている「毒入りの果実」。
それが私の周りに、再び不穏な影を呼び寄せようとしている。
「……陽太、今日はママと一緒に、少し遠いところへお出かけしましょうか」
私は、陽太の安全を第一に考え
自らこの「最後の火種」を消し去るための計算を開始した。
復讐は終わったはずなのに、男たちの醜い執念が、まだ私の帳簿を汚そうとしている。
ならば、その火種ごと、一滴の水も残さず鎮火させなければ。
【残り47日】