テラーノベル
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第三話 「立ち上がるもの」
大きなモンスターの足が、ゆっくりと持ち上がった。
地面が低く唸る。
ズンッ。
架は、瓦礫の上に倒れた小さなモンスターを見つめていた。
どうして逃げなかった。
何度倒されても、どうして立ち上がろうとした。
自分なんかを守るために。
大きな影が、小さな身体を覆っていく。
足が、再び地面へ向かう。
架の心臓が跳ねた。
「……なんで……」
声が震える。
「どうして、そこまでして俺を……」
返事はない。
小さなモンスターは、瓦礫の上で動かない。
その背中が、ひどく小さく見えた。
大きなモンスターが、さらに迫る。
巨大な腕が、ゆっくりと持ち上がった。
「……っ」
架の身体が強張る。
このままじゃ――。
「……やめろ」
かすかな声は、届かない。
腕は、なおも高く上がっていく。
「やめろ……!」
架は足元の瓦礫を掴んだ。
考えるより先に、腕が動く。
投げた。
ガッ!
瓦礫がモンスターの肩に当たった。
動きが止まる。
ゆっくりと、頭がこちらを向いた。
敵の視線が、架を捉える。
「……」
息が詰まった。
怖い。
足が、勝手に後ずさる。
架は小さなモンスターから離れるように、じりじりと下がった。
敵の視線が、完全に自分へ移った。
大きなモンスターが、身体ごと架へ向き直った。
架は動けなかった。
足の裏が、地面に縫いつけられたようだった。
目の前の巨体を見上げる。
さっきまで小さなモンスターへ向いていた視線が、今は自分だけを捉えている。
「……俺でいい」
声が震えた。
「……こっちだ」
架はさらに後ろへ下がる。
靴底が小石を踏んだ。
ジャリッ。
大きなモンスターが、その音を追う。
巨体が動き、地面が揺れた。
ズンッ。
架の心臓が跳ねる。
「……そうだ。こっちに来い」
言葉とは裏腹に、声はかすれていた。
小さなモンスターとの距離が、少しずつ開いていく。
架は、ちらりと後ろを見た。
まだ動かない。
「……もう少し」
背後から、重い気配が迫る。
身体は逃げろと叫んでいた。
それでも、架は退かなかった。
小さなモンスターから、視線を外さない。
あと少し。
あと少しだけ。
「……来い!」
架は叫んだ。
踵を返し、走り出す。
背後で、地面を踏み砕く音が響いた。
ズンッ!
続いて、瓦礫が弾ける。
ズガンッ!
架は必死に走った。
振り返る。
大きなモンスターが、追ってきている。
完全に、自分を狙っている。
「……よし……」
小さなモンスターから、十分に離れた。
そう思った直後、背後から轟音が響く。
ズドンッ!
「……っ!」
架は反射的に振り返った。
大きなモンスターが、さらに距離を詰めていた。
速い。
さっきまでの、ゆっくりとした歩みとは違う。
巨体が瓦礫を蹴散らしながら迫ってくる。
「……嘘だろ……」
架は前を向き、再び走った。
息が苦しい。
足が重い。
それでも止まれない。
「……まだ……」
自分に言い聞かせる。
架は走りながら、周囲を見回した。
何かないか。
逃げられる場所は。
隠れられる場所は。
崩れた建物。
倒れた柱。
散らばった瓦礫。
けれど、使えそうなものは見つからない。
背後で、地面が砕けた。
ズガンッ!
「……近い……!」
架は歯を食いしばる。
足が止まりそうになる。
それでも、前へ踏み出した。
「……考えろ」
息を切らしながら、必死に頭を働かせる。
どうすればいい。
どうすれば、こいつを引き離せる。
何も思いつかない。
「……くそ……」
その瞬間。
大きなモンスターが、突然足を止めた。
ズ……。
架は数歩走ってから、異変に気づく。
「……え?」
振り返る。
さっきまで追ってきた大きなモンスターが、そこに立っていた。
こちらを見ている。
けれど、追ってこない。
「……?」
架は息を切らしながら、立ち止まった。
大きなモンスターが、ゆっくりと周囲を見回す。
何かを探しているようだった。
「……何……?」
架も周囲を見回す。
崩れた街並みが広がっているだけだ。
大きなモンスターが、ふと顔を上げた。
その視線が、架の後ろへ向く。
「……?」
架は振り返る。
何もない。
もう一度、モンスターを見る。
その視線は、まだ遠くを見つめていた。
やがて、大きなモンスターが架から目を逸らす。
「……え……?」
ゆっくりと、身体の向きを変える。
そのまま、架から離れるように歩き出した。
重い足音が、遠ざかっていく。
架は、その場に立ち尽くした。
さっきまで、あれほど追ってきたのに。
「……なんで……」
声が漏れる。
けれど、答えはない。
大きなモンスターの巨体が、崩れた建物の陰へ消えていく。
最後まで、こちらを振り返ることはなかった。
「……」
架は、しばらくその場から動けなかった。
何が起きたのか、分からない。
けれど――。
「……!」
ふと、頭に浮かぶ。
小さなモンスター。
架は、すぐに振り返った。
「……!」
そして、走り出す。
瓦礫を踏み越える。
足を取られながらも、止まらない。
「……頼む」
小さく呟く。
「……まだ……」
その先の言葉を飲み込み、架は必死に走った。
倒れた小さな身体のもとへ――。
コメント
1件
第3話、読み終えました……! 「俺でいい」って声に出したところ、架くんの震えと覚悟が同時に伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。身体は逃げろって叫んでるのに、小さなモンスターから目を離さない。その葛藤の描き方がすごく丁寧で、編集者としても「ここ、好きだな」って思いました。 ラストで大きなモンスターが突然逸れていったのも、何か理由があるんでしょうか……。続きが気になります!
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