テラーノベル
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夜。
スマホの画面が、やけに明るい。
らんは自分で書いた文章を、何回も読み返している。
まだ教室に入るのはむずかしいです。
でも、保健室なら行ける日があるかもしれません。
たったこれだけ。
なのに、指が止まる。
「……こわ」
小さな本音。
ソファの向こう側から、いるまの声。
「送るだけだ」
「その“だけ”が重いの」
「分かる」
即答。
からかいじゃない。
本当に分かってる声。
らんは深呼吸する。
「送ったら、現実になるじゃん」
「ならなきゃ進まない」
「うわ」
正論。
でも突き放してない。
数秒の沈黙。
らんの親指が、画面の上で震える。
「……いるま」
「いる」
「もし返信きて、無理って言われたら」
「その時考える」
即答。
「今は送るかどうかだけだ」
思考を一段階にする。
それだけで、少し楽になる。
らんは目をぎゅっと閉じる。
「いく」
そして。
送信。
画面が切り替わる。
既読はつかない。
何も起きない。
それなのに。
「……送っちゃった」
声がかすれる。
いるまは立ち上がらない。
拍手もしない。
ただ言う。
「よくやった」
短い言葉。
でも、重さがある。
らんはその場にへなっと崩れる。
「心臓うるさい」
「生きてる証拠」
「便利すぎるその返し」
「使いやすい」
らんが少し笑う。
緊張が、少しだけ抜ける。
数分後。
ピコン。
通知音。
二人とも固まる。
「……来た」
らんの手がまた震える。
「読むぞ」
「待って待って待って」
「どっちだ」
「心の準備が」
「さっき送っただろ」
らんが息を整える。
「……読む」
画面を開く。
先生からの返信。
連絡ありがとう。
無理のない形で大丈夫です。
来られそうな日があれば、保健室で待っています。
らんの目が止まる。
もう一度読む。
もう一度。
「……だいじょうぶ、だって」
声が小さく震える。
いるまは静かにうなずく。
「だろ」
「ほんとに?」
「嘘ついてどうする」
らんの目に涙が浮かぶ。
泣き崩れる感じじゃない。
じわっと、こぼれるやつ。
「拒否されるって思ってた」
「お前が思ってただけだ」
でもその言い方は優しい。
らんはスマホを胸に抱える。
「保健室、行ける日あるかも」
「あるな」
「行けなかったら?」
「また考える」
いつもの答え。
でも今は、それが安心。
少しして。
らんが小さく言う。
「いるま」
「ん」
「ぼくさ」
「うん」
「外出た日より、今のほうがこわかったかも」
いるまは少し笑う。
「見えない方が怖いからな」
窓の外はもう暗い。
でも部屋の中は、少し明るい。
送信ボタン一つ。
それだけで、世界は少し動く。
「ねえ」
らんが言う。
「初日、一緒に来る?」
いるまは一瞬だけ考える。
「校門までなら」
らんの顔がやわらぐ。
「それでいい」
今日、家からは出ていない。
でも確実に、学校へ一歩近づいた。
怖さは消えない。
それでも。
進むことはできる。
二人はそれを、ちゃんと体で覚え始めている。
コメント
2件
…僕やっぱりゅ~せ~くんがかくしょ〜せつすきです((