テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#らくがき
ゆゆゆゆ
1,332
ゆゆゆゆ
329
262
#FORSAKEN
ゆゆゆゆ
1,170
さっきまで抱き締めていたはずなのに――
気づけば、距離が少しずつ変わっていた。
エリオットの腕はまだチャンスの背中に回っている。
でも今度は、ただの“抱き締める”じゃない。
じわじわと。
距離を詰めている。
「……エリオット?」
チャンスが低く呼ぶ。
けどエリオットは止まらない。
一歩。
また一歩。
押すように。
気づけばチャンスの背中はソファの端に当たっていた。
逃げ場がない。
その状況に気づいたのはチャンスの方が先だった。
「……お前」
少しだけ息を飲む。
その瞬間。
ごくり、と喉が鳴る。
静かな部屋に、やけに響いた。
エリオットの動きが止まる。
その音に反応したみたいに。
視線がチャンスの喉元から、ゆっくり上がる。
目が合う。
さっきまでと違う。
少しだけ――熱を帯びた目。
「……今の」
エリオットが小さく呟く。
チャンスは何も言わない。
ただ見ている。
エリオットは少し首を傾ける。
それから――
手を伸ばした。
チャンスの顔へ。
指先が、そっと唇に触れる。
びく、とチャンスの肩がわずかに揺れる。
エリオットはその反応を見て、少しだけ目を細めた。
「……やっぱり」
小さく笑う。
そして。
ゆっくりと。
指でなぞる。
チャンスの唇の形を確かめるみたいに。
柔らかく。
なぞる。
その感触に、チャンスの呼吸が少し乱れる。
エリオットは、その変化をちゃんと見ていた。
(……あ)
その時。
ふっと、思い出す。
さっき。
自分が同じことをしていた。
自分の唇を、無意識に触っていた時。
チャンスが言った言葉。
『それ誘ってる』
エリオットの指が、一瞬止まる。
「……そっか」
ぽつりと呟く。
チャンスが眉をわずかに動かす。
「何が」
エリオットは少しだけ笑った。
でもその笑い方は、さっきまでと違う。
どこか、理解したような顔。
「こういうことか」
そう言って。
もう一度、指で軽くなぞる。
わざと。
さっきの自分みたいに。
チャンスの視線が揺れる。
今度ははっきりと。
エリオットはそれを見て、確信する。
(……ほんとに)
「誘ってる顔、するんだね」
小さく囁く。
チャンスが息を止める。
次の瞬間――
エリオットの指が、ゆっくり唇から離れる。
そのまま。
距離を詰める。
今度は、迷いがない。
さっきまでの無自覚じゃない。
ちゃんと分かってる。
それでも止まらない。
チャンスの目が、ほんの少し見開かれる。
でも避けない。
エリオットはそのまま――
そっと、唇を重ねた。
静かなキス。
触れるだけのはずなのに。
やけに長く感じる。
エリオットの手が、チャンスの肩にかかる。
逃がさないようにじゃない。
ただ、そこに触れていたいみたいに。
ゆっくり離れる。
ほんの少しだけ。
距離はまだ近いまま。
エリオットが小さく笑う。
「……これ」
息がかかる距離で。
「さっき言ってたやつでしょ」
チャンスは一瞬、言葉を失う。
完全に立場が逆転していた。
さっきまで“煽る側”だったはずなのに。
今は――
押されてる。
エリオットはそんなこと気にしていない。
ただ、少しだけ首を傾けて言う。
「どう?」
無自覚に追い込んだ本人は。
まだ余裕そうに見えた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!