テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
さっきまで抱き締めていたはずなのに――
気づけば、距離が少しずつ変わっていた。
エリオットの腕はまだチャンスの背中に回っている。
でも今度は、ただの“抱き締める”じゃない。
じわじわと。
距離を詰めている。
「……エリオット?」
チャンスが低く呼ぶ。
けどエリオットは止まらない。
一歩。
また一歩。
押すように。
気づけばチャンスの背中はソファの端に当たっていた。
逃げ場がない。
その状況に気づいたのはチャンスの方が先だった。
「……お前」
少しだけ息を飲む。
その瞬間。
ごくり、と喉が鳴る。
静かな部屋に、やけに響いた。
エリオットの動きが止まる。
その音に反応したみたいに。
視線がチャンスの喉元から、ゆっくり上がる。
目が合う。
さっきまでと違う。
少しだけ――熱を帯びた目。
「……今の」
エリオットが小さく呟く。
チャンスは何も言わない。
ただ見ている。
エリオットは少し首を傾ける。
それから――
手を伸ばした。
チャンスの顔へ。
指先が、そっと唇に触れる。
びく、とチャンスの肩がわずかに揺れる。
エリオットはその反応を見て、少しだけ目を細めた。
「……やっぱり」
小さく笑う。
そして。
ゆっくりと。
指でなぞる。
チャンスの唇の形を確かめるみたいに。
柔らかく。
なぞる。
その感触に、チャンスの呼吸が少し乱れる。
エリオットは、その変化をちゃんと見ていた。
(……あ)
その時。
ふっと、思い出す。
さっき。
自分が同じことをしていた。
自分の唇を、無意識に触っていた時。
チャンスが言った言葉。
『それ誘ってる』
エリオットの指が、一瞬止まる。
「……そっか」
ぽつりと呟く。
チャンスが眉をわずかに動かす。
「何が」
エリオットは少しだけ笑った。
でもその笑い方は、さっきまでと違う。
どこか、理解したような顔。
「こういうことか」
そう言って。
もう一度、指で軽くなぞる。
わざと。
さっきの自分みたいに。
チャンスの視線が揺れる。
今度ははっきりと。
エリオットはそれを見て、確信する。
(……ほんとに)
「誘ってる顔、するんだね」
小さく囁く。
チャンスが息を止める。
次の瞬間――
エリオットの指が、ゆっくり唇から離れる。
そのまま。
距離を詰める。
今度は、迷いがない。
さっきまでの無自覚じゃない。
ちゃんと分かってる。
それでも止まらない。
チャンスの目が、ほんの少し見開かれる。
でも避けない。
エリオットはそのまま――
そっと、唇を重ねた。
静かなキス。
触れるだけのはずなのに。
やけに長く感じる。
エリオットの手が、チャンスの肩にかかる。
逃がさないようにじゃない。
ただ、そこに触れていたいみたいに。
ゆっくり離れる。
ほんの少しだけ。
距離はまだ近いまま。
エリオットが小さく笑う。
「……これ」
息がかかる距離で。
「さっき言ってたやつでしょ」
チャンスは一瞬、言葉を失う。
完全に立場が逆転していた。
さっきまで“煽る側”だったはずなのに。
今は――
押されてる。
エリオットはそんなこと気にしていない。
ただ、少しだけ首を傾けて言う。
「どう?」
無自覚に追い込んだ本人は。
まだ余裕そうに見えた。
#Paycheck
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ