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恋人がいなかったと言われたら、いなかったとは答えない。いたにはいた。でも、俺は、長続きはしなかった。



『朝音さんって、何か彼氏って感じがしないんですよね』

『私が『お願い』って言ったら、何でも聞いてくれて。なんか、パシリみたいに思えてきちゃって、罪悪感というか』

『恋人より、友人の方があってるかなあって』



「――ねさん、朝音さん!」

「わっ、ごめん。ゆず君どうしたの?」

「どうしたって、僕の話し聞いてました?」

「ええっと、デートの途中」

「全然聞いてませんでしたね?」



と、ぷくぅとまた頬を膨らまして怒るゆず君。そんなゆず君を見て、可愛いな、と思うと同時に、話を聞いていなかった罪悪感があとからやってきた。


恋人とは何か、と考えて、俺は、付合ってきた人はいたけど、デートというかただの付き添いみたいになっていたな、と言うことを思い出した。だから、こうやって、誰かにエスコートされたり、あっちに行こうって誘われたりする事なんてなかった。これが、デートの形かって、ゆず君と今日一日過ごしてみて思った。

俺がこれまでしてきたのは、デートじゃなくて、付き添いで。そりゃ、俺から離れていくって。



(でも、パシリみたいって、思えば酷いよなあ……)



そんな風に思われていたんだ。でも、その子はそれを申し訳なく思っていたわけだし、悪い子じゃなかった。俺が、恋人を満足させてあげられなかっただけ。

俺は、優しいってよく言われるが、優しいだけが取り柄の男って、何も良くないだろうと、思う。優しくしようと思えば、皆優しく出来るんだ。だから、優しさって特別じゃない。誰かを堕落させてしまう恐れもあるものだと。

ベンチに座りながら、また考えていれば、ゆず君が缶ジュースを自動販売機から買ってきて、渡してくれる。ドサッとベンチに腰を下ろして、紺色のジャージを纏った足を組む。



「もう少しで、デート終わりますから、そろそろ聞こうかなあって思いまして」

「あ……」

「何ですか?」

「ううん、何でもない。えっと、彼女役……の、感想だよね」



はい! なんて、いい笑顔で返され、俺は頬をかいてしまった。何て答えれば良いか、答えを事前に準備出来ていなかったからだ。ゆず君に振り回され……いや、エスコートされすぎて、こっちが受け身になっていた。もしかしたら、今回のデート演技は、彼女を満足させるスパダリ彼氏っていうシチュエーションを再現したものなのかも知れないと。だから、俺が感じたものは、あながち間違いじゃないのかも知れないと思った。事前に聞かされていたら、まあ、まず俺はマニュアル通りにやろうとして失敗するだろうけど。台本を知っているのはあくまでゆず君だけだった。

あ……と言ったのは、ゆず君の演技がハズレているということに気づいたから。先ほどまでは一人称が『俺』だったので、それが外れて『僕』になったということは、演技はここまで、と言うことなのだろう。

今か、今かと答えを待っているゆず君を前に、俺はどうにか感想を言おうと音を発しない口をパクパクとさせる。



「ええっと、デートってこんなものなんだって思った」

「えー何ですかそれ、ちっとも役に立ちません」

「ぐっ」

「もっとないんですか? ドキドキしたーとか、きゅんきゅんした―とか」

「ええっと……そういう、ゆず君は?」



と、俺は、ゆず君に質問を質問で返してしまった。


まさか、自分に返ってくるとは思わなかったのか、ゆず君は何度か瞬きをする。



「僕?」

「う、うん。ゆず君は、彼氏役……攻め役として何か思ったこととかあった?」

「デートって面倒くさいなあと思いました」

「ゆず君こそダメじゃん!」



サラッと言った答えは、予想外のもので、でも、まあ本来のゆず君からしたら、そんな感想が出るか、そうだよね、という感じだった。

お互いに、失敗した、と言うことだろうか。



「ああ、でも、朝音さんの色んな表情見れたのは、良かったと思いますよ」

「え?」

「何かまだ、朝音さんは付き合いたての彼女で、僕が告白して付合ったみたいな関係で。まあ、簡単に言えば、攻めが受けのこと好きで、あとから受けが攻めのこと好きなる見たいな物語ですかね」

「う、うん」

「だから、何て言うんですかね……僕は、今回のデートで朝音さんの顔よく見るようにしていました……いや、違うな。朝音さんの顔無意識に見ちゃってたんですよ。楽しんでくれているかな、とか。多分、それが好きな人を思う気持ちの現れなんじゃないでしょうか」



と、ゆず君は答えると、誇らしげ笑った。


思わず、ドキッとしてしまう。

好きって本気で言われているのかと勘違いしそうになってしまった。ゆず君はあくまで、彼氏役を演じてみて、彼氏……攻めの心情を答えただけなのに。ゆず君が俺の事好きって言っているように聞えてしまったから。



(そんな、これは、演技で、そういう物語を作るための……)



ゆず君の演技が上手すぎて、現実か演技か見分けがつかなくなっていると、俺は首を横に振って余計な考えをそぎ落とした。

それを見て「何やってるんですか、朝音さん~」と何も知らないゆず君は、年相応の笑顔で俺を見つめていた。



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