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#夢
凪川 彩絵
『なんで急に誘いの電話をしてきたの?』とか……こちらの事情を聞かれても不思議ではない場面だったはずだ。でも、悦子はそれをしないでいてくれた。
なんでもないことのように〝聞いて欲しいことがある〟と言ってくれた悦子の心遣いが、今の自分にはたまらなくありがたく思えてしまう。
「うん……分かった。たくさん聞かせて?」
『わー、ありがとう! めっちゃ心強い! じゃあお昼前に駅前で待ち合わせにしよ? パスタ食べよ、パスタ』
「うん」
通話を切ると、さっきまで胸に溜まっていた重たいものが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
ふと時計を見遣ると、十時前で……。
(どうしよう?)
晴永が出かけてしまった家の中へ戻るのは何だか気が引けた瑠璃香は、(靴も履いたことだし)と思い直して玄関扉を開けた。
ちょうどスニーカーを履いている。待ち合わせ場所までバスに乗らず歩いて行けば、いい時間になるかな? と思った。
***
約束の時間より少し早く着いてしまって、瑠璃香は駅前の人混みの中で立ち止まった。
休日の街は賑やかで、どこか浮き足立っている。
「お待たせー!」
背後から声をかけられて振り返ると、悦子が手を振っていた。
「ううん、私も今来たとこだよ?」
「絶対嘘でしょ、それ。瑠璃香、早く来るタイプじゃん」
くすっと笑われて、言い返せずに曖昧に笑う。
「じゃ、行こ。めっちゃパスタ食べたい気分」
「うん」
並んで歩き出す。
店に入ると、トマトソースとオリーブオイルの香りがふわりと鼻をくすぐった。
席に案内されてメニューを開きながら、悦子が身を乗り出してくる。
「で、聞いてよ。日下のやつさ――」
軽い口調のまま話し始める内容は、他愛のないようでいて、どこか本気で。
その話に相槌を打ちながら、瑠璃香は少しずつ呼吸を整えていく。
運ばれてきたパスタにフォークを入れて、スプーンの上で一口大にくるくると巻き取る。
パスタを食べるときにはいつもやっている仕草のはずなのに、それだけで少しだけ落ち着いた。
笑って、言葉を返して……普段と変わらない時間を過ごしているはずなのに。
(……よかった)
ふとした隙間にそう思ってしまった自分に、ほんのちょっとだけ引っかかりを覚えた。
悦子は同期の日下に、「好き」だとちゃんと気持ちを伝えたらしい。
でも日下は悦子の気持ちに微塵も気付いていなかったみたいで、すごく驚いていたんだとか――。
「『俺、木嶋のこと、そういう目で見たことがなかった』とか言ってさ、『少しだけ考える時間が欲しい』って言うの。――で、今、日下の返事待ち中」――で、今、日下の返事待ち中」
言って、悦子が吐息を落とす。
「『考えたけどダメでした』って言われたらめっちゃっショックなんだけどぉー!」
グッとフォークを握りしめて眉根を寄せる悦子を宥めながら、瑠璃香は(本当に脈なしならすぐに断ったんじゃないかな?)とか思っていた。
日下仁人は結構思ったことをずけずけと口にするタイプだ。
ダメならその時点でそう言っていただろう。
考えたいってことはきっと――。
悦子から幸せ報告がもらえたら、自分も彼女に晴永との関係を伝えよう……。
そう思いながら、ふと……ほんの一瞬だけ。自分たちの関係を公にできる日は本当にくるのかな? とちょっとだけ不安になった。
晴永は「いつでも公表していい。俺は全然構わない」と言ってくれるけれど、実際問題藤井田令嬢とのことがちゃんとしない限り、それは難しいだろう。
コメント
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悦子ちゃんと日下くんの恋バナも気になる!