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それから手掛けていたプロジェクトも順調に進んで行って、樹に会えないまましばらく過ぎたある日。
麻弥ちゃんからメッセージが届いた。
あの報告された日から特に連絡も取らず、樹と気持ちを確かめ合っただけに麻弥ちゃんと連絡はどちらかというと避けたい状況だったのだけれど。
麻弥ちゃんからまた話があるから時間を取ってほしいとお願いされた。
樹は麻弥ちゃんとは結婚する気はないと言った。
麻弥ちゃんにはどこまでちゃんと伝えたのかはわからないけど、自分は樹を信じるしかなくて。
話したとしても麻弥ちゃんがそれを受け入れたのだろうか。
今、麻弥ちゃんからわざわざ私に話なんて・・少し嫌な予感がする。
だけど。
樹と何があっても離れないと決めた。
麻弥ちゃんに何を言われたとしても、樹を信じて気持ちを貫くしかない。
その日の夜。
麻弥ちゃんから伝えられた待ち合わせのカフェへ、少し気持ちが重いまま向かった。
「麻弥ちゃん。ごめんね。またお待たせして。なかなか仕事抜けられなくて」
「いえ。私がお忙しいのに急に無理言って呼び出しちゃったから。すいません」
「ちょっとまだ仕事残っててすぐ戻らなきゃいけないんだけど」
「あっ、はい。用件すぐ終わるんで大丈夫です」
「あっ、そうなんだ」
報告ではなく用件。
その言葉が少し気になりつつ、レジでドリンクを注文してそれを片手に麻弥ちゃんの前に座る。
「透子さん。お忙しいんで、用件手短に済ませますね」
「あっ、うん・・」
この前の麻弥ちゃんでもなく、今までの麻弥ちゃんでもなく、私が知ってる朗らかないつもの麻弥ちゃんの雰囲気はなく、少し麻弥ちゃんの顔も強張ってて空気が重く感じる。
「単刀直入に言います」
麻弥ちゃんの真剣な眼差しと共に言われるその後の言葉に悪い予感を感じて急に心臓が早まりだす。
「早瀬 樹と別れて下さい」
やっぱり。
なんかそんな気がした。
これが女の第六感ってやつかな・・。
女同士だから感じ取る同じ男性を想うことで生まれるこの独特の雰囲気。
私はこの空気が嫌い。
大体自分が身を引かなければいけないことがほとんどだから。
現にもうすでに露骨にドストレートにその結論を突きつけられた。
「なん・・のこと?」
麻弥ちゃんがどこまで知ってるのかわからなくて、とりあえず一旦認めずに誤魔化してみる。
「誤魔化さなくて大丈夫です。全部いっくんから聞きました」
やっぱり全部知ってるんだ・・・。
「あっ、そっか・・」
麻弥ちゃんが知ってることに、少し動揺しつつも樹との約束を思い出して心を静める。
「麻弥ちゃん・・ごめん。それは・・出来ない・・」
麻弥ちゃんに悲しい思いをしてほしくはないけど、だけど今は自分の気持ちと樹の気持ちを何より優先したい。
「私といっくん婚約してるんですよ?別れないとかなくないですか?」
麻弥ちゃんから今まで見たことない強い意思を感じられる。
私と会ってた時はいつも笑顔で穏やかだったのに。
好きな人のことを想うと、こんなにも強くなってこんなにも変われるんだ。
「樹から聞いたよ・・・? 樹は承諾してないって。親や麻弥ちゃんが今の状況見て進め始めたって」
「なるほど・・そこまで聞いてるんですね。確かに。いっくんは一度も承諾してくれてないです」
「だったら・・」
「でも。私はずっと昔から・・ずっと小さい頃から、いっくんだけずっと好きで想ってきたんです。いっくんは、私を今まで誰よりも大事にしてくれてました。だけど・・・ある時から、いっくんの大切な人は私から別の人になった。・・・それが透子さんだったんですね」
静かに樹との昔と気持ちを語る麻弥ちゃんの言葉が重くのしかかってくる。
麻弥ちゃんにとってはずっと樹と二人で過ごして来た時間。
樹はずっと麻弥ちゃんを大切にしていた。
だけど、いつからか私が現れて、きっと樹の気持ちが私へと変わってしまった。
麻弥ちゃんにしたら、当然私は完全な邪魔者だ・・・。
「ごめん。正直、麻弥ちゃんの存在全然知らなかった。樹のお父さんのことも今回こういうことになって初めて知った」
「ですよね。知ってたらこんな酷いこと出来ないですよね?」
「麻弥ちゃんにとっては私の存在は邪魔だろうし、ホントに申し訳ないとは思うけど。でも、どうしても樹は麻弥ちゃんには譲れない」
正直出会った時間、過ごした時間は、とても麻弥ちゃんには適わない。
つい数か月前に樹の存在を知って、樹との歴史だって全然短い。
だけど樹と出会って自分もこんな風に好きになれたのは、きっとどんな時でもなく、この今というタイミングだから。
きっとすべてが意味あることなんだと思うから。
そして今自分の気持ちがこんなにも確かで強いモノである以上、絶対この気持ちを変えることは出来ない。