テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
松田のバイクが夜の国道を切り裂くように突き進む。
背後へと流れていく北の漁師町は、瞬く間に暗闇に溶けていった。
「兄貴、志摩さんからの追加情報です。三和会の残党を束ねているのは、大河内の隠し子とも噂される若手実業家、神崎です」
「神崎……聞いたことがねえな」
「表向きは投資会社のCEOですが、裏では海外の軍事企業と手を組み、日本の重要インフラを次々と買収しています。奴の目的は、この国を巨大な『実験場』にすることだそうです」
松田の声がヘルメット越しに低く響く。
大河内が「力」で支配しようとしたのに対し、神崎は「金とシステム」でこの国を解体しようとしている。
より狡猾で、血の通わない怪物だ。
◆◇◆◇
数時間後
バイクは東北の山中にある、古びたドライブインの跡地へ滑り込んだ。
そこには、一台の無骨なワゴン車が停まっていた。
「……遅いぞ。北国の女にでも捕まってたか?」
車の中から現れたのは、無精髭を伸ばし、疲れ切った顔をした志摩だった。
だが、その瞳だけは以前よりも鋭く光っている。
「……志摩。あんた、まだクビになってなかったのか」
「半分クビみたいなもんだ。今は『特命事項調査員』なんて肩書きで、厄介払いされてる。だが、そのおかげで自由に動ける」
志摩はワゴン車の後部ドアを開けた。
そこには、最新の通信機器と共に、厳重に保管された「箱」が置かれていた。
志摩がその蓋を開ける。
中には、漆黒の鞘に収まった、あの二振りのドスがあった。
「……新宿に置いてきたはずだろ」
「お前の魂を警視庁の証拠品保管庫に眠らせておくのは、忍びなくてな。…これを持って、再び地獄へ行け。黒嵜」
俺は黙ってその柄を握った。
冷たく、重い感触。
それが俺の手に戻った瞬間、体温が一度上がったような感覚があった。
「神崎の最初の拠点は、横浜だ。明晩、海外の投資家を招いた豪華客船でのパーティーがある。そこで『亡国計画』の第一段階が始動する」
「……横浜か。親父が駆け出しの頃、よく話してくれた街だ」
俺はドスを腰に差し、ワゴン車のシートに深く腰掛けた。
夜明け前の紫色の空が、俺たちの行く手を照らし始める。
極道と汚職警官、そして家を焼かれた弟分。
再び集まった俺たちは、潮風の香る港町へとその牙を向けた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!