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横浜の海は、新宿の空よりも深く、淀んだ色をしていた。
ベイブリッジを見上げる埠頭の一角。
俺たちは、海風に吹かれながら、漆黒の巨大なシルエットを睨みつけていた。
神崎が主催するパーティー会場——豪華客船『リヴァイアサン号』だ。
「……あの中に、国を売る連中が詰まってるわけか」
山城が、双眼鏡越しにタラップを上がるタキシード姿の男たちを忌々しそうに見つめる。
「ああ。招待客は海外の軍需産業のトップと、三和会から神崎に乗り換えた汚い政治家どもだ」
志摩がタブレットの画面を俺たちに向けた。
そこには、船内の警備配置図が映し出されている。
「警備は三和会の生き残りだけじゃない。神崎が海外から呼び寄せた民間軍事会社のプロだ。新宿の連中とは訳が違うぞ」
「……プロだろうが何だろうが、俺のドスに斬れないもんはねえよ」
俺はジャケットを羽織り、腰の感触を確かめた。
親父のドスが、潮風を吸って静かに震えている気がした。
潜入の合図は、船が領海を出る直前だ。
俺と山城は、海中からボートで接近し、船尾の貨物搬入口から乗り込む手筈になっている。
志摩と松田は、陸上から通信妨害と脱出経路の確保を担当する。
「黒嵜、これを持っていけ」
志摩が手渡してきたのは、コンタクトレンズ型の小型カメラだった。
「大河内は情報を隠した。だが、神崎は情報を『利用』する。奴は今夜、招待客たちの前で、この国を解体するための『鍵』を披露するはずだ。その映像を、俺に送れ」
「……鍵、か」
拓海が死の間際に守ったあの「計画書」。
その続きが、あの中にある。
◆◇◆◇
深夜二時
リヴァイアサン号の汽笛が、重く夜の海に響いた。
俺はウェットスーツの上から黒いシャツを纏い、山城と共にゴムボートへと飛び移った。
「兄貴、行きましょう。地獄のクルージングの始まりです」
山城が不敵に笑い、エンジンを始動させる。
波を切り裂き、巨大な鉄の城へと突き進む。
上空では、カモメの鳴き声に混じって、どこからか不穏な電子音が聞こえていた。