テラーノベル
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藤代雪乃は、白いタキシードの美少女に抱えられたまま、空を飛んでいた。
何も着ていない。風が素肌を撫で、高く、遠くまで街の灯りが見下ろせる。恥ずかしさで顔が熱くなる。腕の中で身をよじっても、抱えている方の力はゆるまない。前に空を運ばれたときと同じ姿勢。お姫様抱っこのまま、マントが風を切る。
「恥ずかしがることはないよ、子猫ちゃん」
白タキシードの美少女が、楽しげに言った。モノクルの奥の目が細められる。雪乃は首を横に振った。
「そんなこと言っても、恥ずかしい……」
返事の代わりに、白い手袋の指が雪乃の腰を支え直すふりをして、おしりの曲線に触れた。下腹部にも、軽く掌が滑る。雪乃は肩をすくめた。
「……セクハラですよ」
「罰を終えた子の検品だよ。悪く思わないで」
軽くあしらわれ、それ以上は抵抗できなかった。ほどなくして、高層のガラスとコンクリートの壁が近づく。窓が内側から開くように空間が歪み、二人はそのまま室内へ降り立った。厚い絨毯。静かな空調。以前、意識を失う直前に見た、あの部屋だ。
そこに、脳内で見た謎の美少女がいた。
薄い金髪。憂いを秘めた大きな瞳。透けるほど薄いワンピースをまとい、あどけなさと、年を経たような静けさを同時に湛えている。この世のものとは思えない整い方をした顔立ち。雪乃は、抱えた腕からおろされ、絨毯の上に膝をついた。立てない。力が、入らない。
「ようこそ。私のコレクションに」
謎の美少女が、歌うように言った。
「貴方は自分の欲望だけに能力を使った。なので、私のコレクションにする」
コレクション——。雪乃は部屋を見渡した。壁際や、窓際の光の中に、全裸の美少女たちが数体、立っている。動かない。呼吸しているのかどうかも、遠くからは判別しにくい。肌の質感は生きている人間のそれで、彫像にしては生々しすぎる。藤原麗華に似た黒髪の長身。ピンク髪のむっちりした体躯。他にも、見たことのない顔が、静物のように並んでいた。
(まさか……これらが、生きている人間なの……?)
恐ろしくなった。自分が学院の中庭で「飾った」子たちと、本質は同じだ。台座や十字架の代わりに、この部屋の空気が彼女たちを固定している。雪乃は逃げようとした。膝に力を込め、立ち上がろうとする。だが、指一本、動かない。見えない手が、全身の自由を奪っていた。謎の美少女が、そっと近づいてくる。顎を軽く摘ままれ、顔を上げさせられる。
「拒否権は、最初からないの」
淡い声。雪乃の頰に、短いキスが落とされた。薔薇の香りではない、別の、冷たくて甘い匂い。次の瞬間、雪乃の関節が、内側から固まっていく感覚がした。立たされる。背筋が伸び、腕が体の脇に沿い、視線だけが自由を残して、部屋の一点を見つめる形になる。コレクションの一体として、並べられる位置へ、静かにスライドしていく。
白タキシードの美少女は、すでに窓の側でマントを整えていた。謎の美少女は、新しい「作品」の前に立ち、満足げに目を細める。雪乃は心の中で叫んだ。大学へ帰りたい。薔薇を切り落としていた朝の鏡の前へ戻りたい。だが声は出ず、唇も開かない。ただ、生きたままの彫像として、塔の最上階に残されるだけだった。
続く。
コメント
1件
第87話、読み終えました。ついに雪乃がコレクションされる側に回る展開、胸に来るものがありましたね…。学院で「飾る」側だった彼女が、同じ構造の原理で今度は「飾られる」側になる。あの対称性が設定として美しく、同時にぞっとします。白タキシードの美少女の「検品」という台詞も、この世界のルールが言葉の端々に滲んでいて、設定好きとしてはたまらなかったです。雪乃の「朝の鏡の前へ戻りたい」という想いが切ない…続きが気になります。
恵
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