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恵
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#連載小説
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星キラリ

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藤代雪乃の、新しい生活が始まった。
裸のまま、彫像のように立ち続ける。関節は固定され、視線だけが自由に動く。最初はすぐに疲れると思っていた。足が痺れ、腰が痛むはずだった。だが不思議な浮遊感が全身を包み、立っていても疲れない。重力から半分だけ解放されたような、奇妙に軽い感覚。時間の感覚も曖昧になる。窓の外の光が移ろい、夜が来て、また朝が来る。その繰り返しの中で、雪乃は「作品」として在り続けた。
世話をしてくれるのは、少しふっくらしたピンク髪の女の子だった。
斎藤みおん——以前、学院で下着を集めていた子と、髪の色と体型が重なる。透明化の力を持っていたはずの彼女は、今は雪乃と同じ部屋で、コレクションの世話係として動いている。時間になると、静かに近づいてきて、口元に柔らかいものを運ぶ。噛むことも、飲み込むことも、なぜかできる。排泄の世話も、恥ずかしさの残る丁寧さで行われる。お風呂の時間には、身体を支えられ、湯船に沈められる。湯の温度が、固定された神経にゆっくり染みる。みおんは時々、ぶひぃ、と小さな声を漏らしながら働いていた。彼女自身も、ここが「家」になっているらしい。
そして、たまに、謎の美少女の愛を受ける。
薄い金髪の主が、静かに近づいてくる。頰にキスを落とされ、髪を梳かされ、額に額を寄せられる。言葉は少ない。「綺麗」「いい子」——そんな短い肯定だけが、雪乃の固定された胸の奥に落ちる。憎むべき相手なのに、拒絶する力がない。愛されるたびに、逃げたい気持ちと、受け入れてしまいそうな気持ちが混ざる。それが、この生活の一番の罰なのかもしれない、と雪乃は思った。
——そんなある日。
青い髪をした美少女が、部屋にやってきた。
豊満な体躯。胸元が深く開いた青いドレス。以前、上野で母乳を爆破に使っていたあの女——爆殺魔と呼ばれた女が、若返った姿のまま、興奮した足取りで踏み込んでくる。いつの間にか、トレンチコートを着た銀髪の美少女も窓辺に立っていた。プロフェッサーM。杖は持たず、腕を組んで青髪を見ている。
「また爆破テロを起こしたいの! 今度こそ大きく!」
青髪が、身を乗り出して言った。銀髪が眉をひそめる。
「ユーは血の気が多くて困ります! 前回の上野だって、収束に手間がかかったでshow」
「でもね、政府は能力者を施設に軟禁して、生体実験をしてるって噂があるの。早く解放しないと! 要求を飲んでもらわないと!」
青髪の声が高まる。部屋の空気が、少し熱を帯びる。謎の美少女が、それまで黙って聞いたあと、ようやく口を開いた。
「その噂は、本当?」
「噂だけど……奥多摩の、誰も入れない施設に、能力者が捕まってるらしいわ」
青髪が答える。謎の美少女は、細い指で自分の金髪を軽く巻いた。
「ふーん。探ってみる価値はありそうね」
視線が、部屋の隅で黙って控えていた白いタキシードの美少女へ向く。
「探ってきて」
「仰せのままに。我が主よ」
白タキシードが短く一礼し、マントを翻して窓から飛び立った。残された青髪は、まだ不満げに唇を尖らせ、銀髪は「血の気は抑えなさい」と低く釘を刺している。謎の美少女は、コレクションの並ぶ部屋を一望し、雪乃の前で一瞬だけ足を止めた。何も言わず、通り過ぎる。
雪乃は、動けないまま思った。
何かが、起きようとしている。奥多摩。能力者の施設。生体実験。自分をここへ連れてきた力と、学院で薔薇を咲かせていた欲望と、今、別の大きな歯車が噛み合い始めている気配。視線だけを窓の外へ向け、飛び去った白い影を追った。答えは、まだどこにもない。
続く。
コメント
3件
第88話、読み終わりました。雪乃が「作品」として固定され、時間すら曖昧になる描写、すごく重くて美しかったです。みおんが世話係として同じ空間にいるのも切ないけれど、彼女自身もここを「家」にしてしまっているのが胸に刺さりました。 そして謎の美少女の「綺麗」「いい子」という短い肯定が、憎むべき相手からのものだからこそ、雪乃の心にどう響くんだろうと考えてしまいました。感情が麻痺するような閉じ込められた世界で、皮肉にも「愛」だけが唯一の刺激で、それが罰になる——そういう構造が本当に巧みだなと思います。 最後、青髪の爆殺魔が奥多摩の施設について持ち出して、白タキシードが偵察に向かう流れ。物語がまた大きく動き出しそうで続きが気になります。静かな緊張感のある88話、素敵でした。次も楽しみにしています🌙