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(――どうしてランディは、ダフネを養女に迎えたことを。私に黙っていたの?)
いずれは必ずリリアンナの耳にも入ることなのに、彼は自分からリリアンナに何も教えてくれてはいなかった。
知れば、リリアンナが嫌がると分かっていたからだろうか?
でも、そうだとしたら余計に……。ランディリックがリリアンナを傷付けることをしていたという事実が、強くリリアンナを打ちのめすのだ。
秘密にされていたことが、確信犯のように思えて我知らず吐息がこぼれる。
(ねぇランディ、何か……どうしてもそうしなくちゃいけない理由があったの?)
でも、それがなんなのか分からないから……リリアンナの胸はジクジクと痛み続けた。
だってあの時――。
ダフネと対峙していた自分を、ランディリックは見ていたはずなのだ。
リリアンナがショックを受けていたことにも、絶対に気付いていたと思う。
それでも、どこか慌てたように、ランディリックが選んだのは、養女にしたというダフネの方だった。
大人として、当主として、後見人を務めているよその伯爵令嬢であるリリアンナより、自分と家門を同じくする養女を優先しただけ。
そう考えれば、納得できるはずだった。
それなのに。
胸に残った小さな感覚が、どうしても消えてくれない。
(ねぇランディ。私より、ダフネの方が大事になっちゃったの?)
そんな考えを抱いてしまう自分が、嫌だった。
砂利を踏む音が、やけに大きく響く。
歩調は自然と遅くなり、視線は地面に落ちたままだ。
(帰らなきゃ……)
ランディリックもリリアンナも不在では、きっとウールウォード邸のみんなが困っている。
リリアンナはギュッと拳を握りしめると、ウールウォード邸へ向けてふらり、ふらりと歩き出した。
***
「――リリアンナ様!」
門扉を潜ったと同時、切羽詰まった声が投げかけられて……リリアンナはハッとして顔を上げた。
屋敷の中から、スカートの裾を押さえながら駆け出てくるナディエルの姿が見えた。
息を切らし、リリアンナを見つけるなり、表情を大きく崩す。
「よ、よかった……! すぐに戻るとおっしゃたとお聞きしたのに、全然戻っていらっしゃらないから……! 私、危うくラウ様に捜索隊の結成をお願いするところでした!」
その声音には、安堵と、隠しきれない焦りが滲んでいた。
そして一拍置いて、ナディエルは周囲を見回す。
その視線が、リリアンナの背後――門の外へと向けられた。
「……旦那さまは、ご一緒ではないのですか?」
責める調子ではなかった。
ただ、事実を確かめるような、静かな問いだった。
リリアンナはナディエルをじっと見つめると、ゆるゆると首を横に振った。
「ごめんなさい。私、一人なの……」
それ以上、言葉が続かなかった。
説明してしまえば、形になってしまう気がしたから。
ナディエルは一瞬、何かを尋ねかけるように唇を開きかけ――、けれど、リリアンナの様子を見て、静かに息を整えた。
「……とりあえず中に入りましょう? みんな、心配しております」
そう言って、そっと歩調を合わせてくる。
二人並んで屋敷へ向かいながら、リリアンナは視線を上げた。
もうすぐ始まる、デビュタント。
本来なら、胸を高鳴らせて迎えるはずの日。
けれど今は――、どうしても、心がそこへ向かわない。
胸の奥に残る、この感覚に。
まだ、名前をつけられないまま。
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