テラーノベル
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辻馬車の中は、思った以上に静かだった。
外では蹄が石畳を打つ高めの音が響いているはずなのに、車内に届くのは車輪がごつごつとした凹凸の上を転がるくぐもった揺れだけだ。
先ほど、ダフネは自分がライオール家の養女になったことをリリアンナへ宣言しに行っていたという。
わざとらしいくらいに、「呼ぶな」と釘を刺しておいたはずの「お義父さま」という呼称でランディリックのことを呼んできたことから、聞くまでもなくそのことを察していたランディリックである。
たかだか形式上だけの養女の分際で、可愛いリリアンナへ家族としての祝いを述べに行っていただなんて、白々しいにもほどがある。
(生意気な女だ)
ランディリックにとって、ダフネはリリアンナを自分の手元に置いておくために必要な保険――手駒――に過ぎない。
わざわざ自分の家名を汚すマネまでしてダフネを養女にしたのは、そのために〝必要な措置〟だったからだ。
馬鹿な女を泳がせておくために、友・ウィリアムの手を煩わせる形でペイン邸に置かせてもらい、何不自由ない生活を与えていたのだってそのため――。
(やはり……自由など与えず、どこかへ閉じ込めておくべきだったか?)
ライオール家の養女という肩書だけ与えて、誰の目も届かない場所で、生かさず殺さず幽閉しておけば、少なくともリリアンナの目に触れることはなかった。
(まぁそんなことはウィリアムが許してはくれないだろうが)
自分なんかより数倍人間味にあふれる優しい幼なじみは、恐らくそのような非人道的な行為を許してはくれないだろう。
だからこそグッと本心を抑えて穏便にことを進めていたというのに――。
「……で? 他には? お前がそれだけのためだけにリリーのもとを訪れたとは思えん」
ランディリックが促すと、向かいに座るダフネは、憎々し気な表情でランディリックを睨みつけた。
「私のことは滅多に名前で呼んでも下さらないのに……お姉さまのことはそんな愛称でお呼びになるのね」
養女、という立場を相当に強い立ち位置だと勘違いしているのだろうか。ダフネがそんなことを言ってくるのを冷めた目で見やりながら、ランディリックは無表情を貫く。
「質問の答えになっていない。お前はリリーに何をしたのか、と問うているんだがね?」
頑なな様子のランディリックに、何を言っても無駄と諦めたのだろう。
ダフネは小さく吐息を落とすと、だが次の瞬間には肩をすくめて笑った。
「何を……ってそんなの決まっていますわ。リリアンナお姉さまが大好きなランディリック様の養女になったご縁で、ペイン様のお屋敷でお世話になっていること。そのついでに……同じく客人として同じお屋敷に滞在しているセレン様と懇意になりました、とお伝え申し上げただけです」
くすくす笑うダフネに、ランディリックは耳を疑った。
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