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最早、只の崩壊した肉槐(にくかい)となったラマシュトゥは一旦放置する事に決めて、コユキはパズスに視線を戻した。
「よし、あと一人! っ!!」
コユキの目に飛び込んできた物は、崩壊し掛けた背中全体の、破損部位全てにピンポイントで張り付いた、ピンクのオーラの中で、超回復するパズスの姿であった。
元々の肉体を取り戻すに留まらず、聞いていた改癒の効果だろうか、破損された部位が大きく盛り上がり、背中一面が歪(いびつ)な角で覆われている様にも見える。
コユキはふんすっと鼻息荒く向き直ると、瞳に力を取り戻したパズスに向かって言った。
「それが、改癒ね、鉄壁が更に硬くなったって訳だね? ただ、生憎(あいにく)とさっきのサポで打ち止めみたいだよ…… 残念だった、っわね!」
フッと姿を消したコユキは、再びパズスの背後に回り込むと同時に、コンティショットを叩き込むのだった。
だが、
「ば、馬鹿な…… 全く通用しない、だと……!?」
左右のパンチを数発づつ打ち込んだだけで、拳に鋭い痛みを感じたコユキは、腹肉の動きを強引に後方へと変える事で、無理やりパズスから距離を取った。
呟いた両手の拳は、皮が裂け、自らの流した血で赤く染まり、それだけではなく、何本かの指は本来曲がっちゃイケない方向へ、統一感無くへし折られていた。
当然、痛い、それどころかトラウマレベルの激痛が襲って来ていたが、こと、戦いの中に身を置いた時のコユキのガッツは凄い、石松以上と言っても良いだろう。
パズスがコユキの両手を見て、ニヤリと口元を歪ませるのと、コユキが両腕を胸の前でクロスさせ、パズスに体当たりをぶちかますのは、全く同時であった。
両拳から鮮血を滴らせながらも、パズスを数メートル押し込んでラマシュトゥとの距離を取らせる事に成功した。
背後の肉槐と化したラマシュトゥから微(かす)かな声が聞こえた。
『え、強靭治癒(エニシァシ)……』
ラマシュトゥだった物を淡いピンクの光りが包むが、コユキは一瞥(いちべつ)もくれずにパズスの前面に回り込み大声で叫んだ。
「蠍毒棘針(デス・ニードル)」
それは、ショットを成功させる前日までの二日の間に、モラクスと共に編み出した打撃技の名前であった。
モラクスのロングホーンランスの様な、貫通系の破壊技として生み出されたこの攻撃は、全身の肉という肉を同時に回転させる事で、一撃の威力を極限まで高めたフックである。
コユキが長年、せっせと溜め込んだ贅肉パワーを一点に集束させた破壊力は、当然繰り出す本人の拳、腕、肩の筋肉、骨、関節まで徹底的に崩壊させる、諸刃の剣(もろはのつるぎ)でもあった。
左右合わせて二回しか使えない大技をであったが、コユキは躊躇する事無く、再び叫んだ。
「蠍毒棘針(デス・ニードル)」
連続してパズスの左右の胸に命中したフックの衝撃は、胸部の破壊のみならず、体内を通過して、強靭(きょうじん)化された背中をも内側から爆発したように吹き飛ばしたのであった。
もちろん、コユキの方も無事では無い、どころか、右腕は肘から先が完全に潰れ露出した骨が真っ赤な血によって染められていた。
左腕は、爆散したのか肩までしか残ってはいなかった。
それ程のダメージを負って尚、コユキは体を後ろに反らしてから、加速しつつパズスの顔面に向けてヘッドバット、いわゆるチョーパンをめり込ませる。
グラァッっと体を揺らした後、ドウッと両膝を落としたパズスに対して、両腕と額を血塗(まみ)れにしたままコユキが告げる。
「これで、仕舞いだ! 弾けて消えろ!」
そう言い終えて、再び体を反り始めた時、ラマシュトゥが慌てたように叫び返した。
『させない! 強靭治癒(エニシァシ)!』 「アクセル」
その声を耳にしたコユキは、クラクラしているパズスをそのまま放置して、彼とラマシュトゥの直線上へと移動していたが、その表情は、ニヤリ、であった。
コユキの体がラマシュトゥから発せられた、淡いピンクのオーラに包まれる。
数瞬後、光りが消えた場所には、全身の損傷が消え、あまつさえ両腕と拳を、凶悪なまでに肥大化させたコユキの姿があった。
「さんきゅっ! ラマシュトゥちゃん♪」
にっこりと微笑むコユキの残虐そうな双眸(そうぼう)を目にしたラマシュトゥはジリジリと二、三歩後退(あとずさ)るが、カバ舎の鉄柵に当たってそれ以上は進めなかった。