テラーノベル
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噴き出す煙が視界を白く染め上げ、肺の奥を熱く焼く。
意識が遠のく中、俺は山城の体を抱え、壁を伝って出口を探した。
「……逃がしはしないよ。それは君たちの『運命』なのだから」
白仮面の男の声が、頭蓋骨を直接叩くように響く。
倒れ込む寸前、指先に触れたのは冷たい鉄の感触ではなく
ぬるりとした「水」の感覚だった。
床に隠された隠し通路が開き、俺たちは重力に引かれるまま、さらなる深淵へと落下した。
目が覚めたとき、そこは地下刑務所の冷酷な空間とは全く別の、異様な場所だった。
広大な石造りの回廊。壁には「黒い百合」の紋章が等間隔に刻まれ、燭台の火が揺らめいている。
「ここは…どこだ……」
山城が、装置を無理やり引き剥がした額を押さえながら立ち上がる。
「分からねえ。だが、ただの地下施設じゃねえことだけは確かだ」
回廊の壁には、古い写真や絵画が並んでいた。
そこには、明治、大正、昭和……
時代を動かしてきた政治家や軍人たちが、一様に「黒い百合」のピンバッジを胸に付けて写っている。
そして、その最奥。
まだ若く、ぎらついた眼光を放つ親父と
若き日の大河内が、一人の老人の前に膝をついている写真があった。
「……親父」
写真の中の親父は、今にもドスを抜きそうな、殺気立った表情をしていた。
その隣に並ぶ大河内は、すでに怪物の片鱗を見せ、冷酷に微笑んでいる。
『黒い百合は、枯れることで次の一輪を咲かせる。榊原、お前が盗んだのは、ただの資金ではない。この組織の「意志」そのものだ』
背後から響いたのは、録音された親父の声だった。
回廊のスピーカーが、三十年前の「裏切り」の夜の音声を再生し始める。
『……黙れ、大河内!国を守るためだと?笑わせるな。あんたたちがやっているのは、ただの「間引き」だ。俺は、こんな血塗られた種で咲く花なんざ、見たくもねえ!』
親父の怒号。
直後に響く銃声と、肉を断つ音。
「親父さんは……俺たちに言ってたことと、同じことを言ってたんだな」
山城が震える声で呟く。
その時、回廊の先にある重厚な扉が、音もなく開いた。
そこには、白仮面を脱ぎ捨てた男が立っていた。
その素顔を見た瞬間、俺の心臓が凍りついた。
そこにいたのは、志摩でもなく、阿久津でもない。
死んだはずの、そして俺がこの世で最も信頼していた男――。
「……和貴。ようやく、ここまで辿り着いたな」
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