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しおん
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#阿部亮平
にっこり
2,089
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待って今まで読んできたお話の中で1番好きな話かもしれない…

様々な要素をさりげなく散りばめられていて凄いです…!楽しく読ませていただきました、ありがとうございます!
恵比寿のとある私立大学。
授業終わりのチャイムが鳴り、教授が退室した途端に、教室はざわめきを取り戻す。舜太はひとつ伸びをして、後ろの席に座る勇斗と仁人に声をかけた。
「はやちゃん、じんちゃん、今日ボーリング行かん?負けた人がボーリングのピンお持ち帰りする罰ゲームつきで!!」
授業が始まる前に、両隣に座る柔太朗と太智と話していた内容だった。
しかし、勇斗は早々に荷物をまとめ、トートバッグを逆手に引っ掛けて肩に担いで立ち上がった。
「舜太ごめん今日先帰るわ!」
「どーしたんはやちゃん珍しいやん!
俺より先に帰ろうとするなんて」
いつも誰よりも早く帰ろうとする太智が驚いて声をあげる。
「いや、彼女待たせてるから」
そう言った勇斗の視線の先にいるのは、教室の入口で恥ずかしそうにこちらを見つめるおしとやかな雰囲気の女性。勇斗が手を振ると、顔を赤くしながらも控えめに振り返してきた。
「えー!!彼女できたん!!はよ言ってよー!!」
太智の声に、それとなくイケメン集団の様子を伺っていた周りの女子にどよめきが広がる。柔太朗と共に、学内ツートップと名高い佐野勇斗の交際報道に、悲鳴にも似た声が漏れた。
「あれ、火曜5限で一緒の谷岸さんじゃん」
柔太朗が入口の方を見て言う。
「柔太朗知ってるん?ええ子そうやん!」
「はやちゃんと俺その授業一緒だから。グループワークではやちゃんと一緒になってたから、たまに喋ってるなとは思ってたけど、付き合ったのは知らなかったなー」
「付き合ったの1週間前くらいだし。また今度紹介するよ。じゃ!」
そう言って、彼女の方に向かおうとした勇斗が「あ」と足を止める。一連の話題に一切興味なさそうに黙々と帰り支度をしていた仁人に声を掛けた。
「仁人さ、今日俺んちのご飯作っといてくんね?21時には帰ると思うから」
突然話しかけられた仁人は、威嚇する小型犬のように顔を思いっきりしかめた。
「は?今日は柔太朗とゲームする約束してるから無理」
すげなく断られても、勇人は全く気にする様子がない。
「お願い!!冷蔵庫の肉の消費期限がそろそろやばいんだって!!俺んちの冷蔵庫の中身好きに使っていいし、パソコン使っていいから!!」
「しかも食材に縛りがあんのかよ!!」
「じんちゃんお願い!!じゃ!!」
「あっ、ちょっと待てって!!」
そう一方的に言い残して、勇斗は教室を去って行った。残された教室に仁人の怒りの叫びが響いた。
「ぜってぇ行かねーから!!」
『で、よっしーは結局はやちゃんちでゲームしてんの?』
『……そう』
ヘッドフォン越しから、不服そうな返事が返ってくる。
『マジお人よしだね~。家主は彼女とデートしてんのに』
『しかもアイツ、夜ご飯は煮込みハンバーグが食べたいとかリクエストしてきやがった。あの時間からデートして夜ご飯家で食べるってなに?』
『あ~女子の好きそうなカフェ飯じゃ足りないとかじゃないの?はやちゃんよく食うし』
『知らねーよ!!突然鍵を一方的に押し付けてきてから、マジで召使いだわ』
『よっしーも大変だね~』
ヘッドフォンの向こうから聞こえる仁人の愚痴は絶えることが無い。それに適当に返事をしながら、柔太朗はコントローラーを操作していた。推薦入学の柔太朗と外部受験の舜太と異なり、勇人、仁人、太智の3人は中学からの内部進学組なので、付き合いの長さが違う。特に、勇人と仁人は生徒会の会長と副会長を務めていたこともあり、あうんの呼吸?というか、熟年夫婦のような親密な雰囲気を漂わせていた。(まあ柔太朗にあうんのこきゅう、の意味はわからないのだが。そういう言葉があるらしい)2人の親密さは有名で、校内のファンからは「さのじん」コンビと呼ばれているらしいが、仁人は自分が知らないところで話題になることを嫌っていて、”さのじん”コンビ扱いにも苦い顔をする。一方、生まれた時から人気者で、人からの期待に自然に答えることが無意識に身についている勇人は、さのじんコンビの需要も把握していて、あえてそのように振舞ったりもする。そんな様子を、他の3人は仁ちゃん振り回されて大変だね~と生暖かい目で見ていた。
『あ、帰ってきた。ちょっと止めるわ。』
ゲームに没頭してしばらく。仁人の声にモニターの時間を見れば21時ちょうど。家主は律儀に時間ぴったりに帰ってきたらしい。柔太朗の耳元からは、ドアの開く音、騒々しい足音と声が聞こえてきた。
『ただいま~。うわ、仁人ほんとにいる!』
『いるだろ!!洗濯物まで押し付けやがって』
『マジでやってくれたの?ほんといい奥さん、ありがとう~。うわ~いい匂いする!腹減った~。カフェ飯じゃ全然食べた気しなくてさあ』
『きめぇこと言うなよ!!ったく……。準備するから手洗って食器の準備しろ』
『は~い。じんちゃんも食べんの?』
『そりゃそうだろ。俺が作ったんだから』
『えぇ~1人で先に食べててもいいのに、待っててくれたんだ。かわい~い~』
『きっしょ!!!!…はぁ。柔太朗、そういう訳で俺ここでオチるわ。ありがとな』
『じゅうたろ、じんちゃんと遊んでくれてありがとね~』
『保護者ヅラすんな!!』
『はいはーい。また明日ー』
ヘッドフォンを外しながら、接続が切れて聞こえなくなった向こうに向かって柔太朗はため息を着く。
新婚夫婦かよ。
「ってことがあってさ~」
「うわ、気持ち悪!!」
「聞きたない!聞きたないわ友達のそんな話!」
翌日、一緒に取っている授業で太智と舜太に会った柔太朗は、昨日のことを話していた。盛大な拒否反応を起こす2人に笑ってしまったが、それも致し方ないと思ってしまうほど、あの2人の距離感は可笑しいことが多々あるのだ。
「ってか、自分は彼女とデートしといて、家でご飯作って待っててねっておかしなない?仁ちゃんは奥さんで、彼女は別にいるってこと?」
「気持ち悪ぅ……」
「オープンマリッジ?」
「?じゅうオープンマリッジって何?」
「いや、なんでもない……」
Xよりもインスタ派の陽キャの2人にはネットミームが伝わらず、柔太朗は薄い声をさらに細くしながら、心の中でネット民吉田を求めた。
「……?はやちゃんは元々人との距離感おかしい人だから、本当にじんちゃんに冷蔵庫の中身を消費して欲しくて、せっかくだから一緒に食べようと思って頼んだのかも……」
「はやちゃんも吉田さんも常識人ぶってるけどナチュラルにぶっ飛んでるところあるから、有り得るよな~」
頭を抱える3人。
「これって、彼女が知ったらどう思うんかなあ……」
舜太が呟く。すると、まるでそれを待っていたかのタイミングで3人の頭上から声が掛けられた。
「あの……」
顔をあげると、女性2人組が立っている。しかも、片方は話題の勇人の彼女である。
「ごめんなさい。3人に佐野くんのことで聞きたいことがあって……。今大丈夫ですか?」
勇人の彼女、ありさの隣に立つ女性が言う。
「あ、え、ええよ!!ここ座ってや!!」
舜太は慌てて椅子に置いた荷物を避けて、2人分の席を空けた。
「ありがとうございます。私はマサ子って言います。この子は知ってると思うんですけど、」
「谷岸さんだよね。勇人の彼女の。どうしたの?」
柔太朗の優しい微笑みに、強ばっていた2人の表情がふっと緩んだ。マサ子が思い切ったように言う。
「単刀直入に言います。吉田くんって佐野くんと付き合ってるんですか?」
ぶふっ!!あまりにもタイムリーすぎる話題に、柔太朗の隣で太智と舜太が同時に噴き出した。
「な、なんでそう思うん?勇人と付き合ってるのは谷岸さんやろ」
舜太が思わず尋ねる。
「そうなんですけど……」
そう答えるありさの顔は暗かった。
「昨日、授業の後に勇人くんと遊んだんですけど、カフェでご飯食べてちょっとお話したら『家で仁人待ってるから!』ってすぐに帰っちゃって……。それだけなら、吉田くんが先に約束してたのに、私との時間をわざわざ作ってくれたのかなって思ったんですけど、付き合ってから何かと吉田くんの話をされることが多くて……。あの、勇人くんってすごく優しくて、誠実で、連絡もすぐに返してくれるし、本当に私にはもったいないくらいなんですけど、どうしても気になっちゃって……。仲良しの3人から見て、あと2人ってどうなんですか?」
ほら、こうなる。3人は内心で頭を抱えて、ここにはいない勇人を恨んだ。
「俺は中学からあの2人を知ってるけど、付き合ってるかとは絶対ないで。吉田さんそういうの嫌いやし」
「勇ちゃんって、男兄弟の中で育ったから男友達との距離感が近いだけだと思うよ。よっしーもなんだかんだ世話焼きだから、相性が良くてそう見えちゃうだけだと思う」
「不安ならちゃんと勇ちゃんに言った方がいいと思うで!勇ちゃんなら絶対聞いてくれるって!」
3人の励ましに、ありさは目を潤ませた。
「ありがとうございます。安心しました」
「頑張ってな~!」
2人がペコペコお辞儀をして去っていった後、3人は顔を見合わせる。ありさにはああ言ったが、すでに嫌な予感しかしなかった。
そして、その予感通り、ありさとマサ子からの「勇人と仁人の距離が近すぎる」相談は数回に渡り、その度に3人の「大丈夫、2人はただの友達」という励ましは少しずつ弱々しく自信なさげになっていった。
3週間後。
「フラれた………」
そこには、机の上で頭を抱える勇人の姿があった。
「私と仁人くんどっちが大事なのって………」
太智、柔太朗、舜太は疲れきった顔を見合わせる。全員「だから言わんこっちゃない……」という顔をしていたが、勇人はもちろん3人がありさから相談を受けていたことを知らない。
「……一応聞くけど、何があったの?」
優しさの塊こと柔太朗が尋ねる。その横では、太智と舜太が「聞かんでええのに……」とでも言いたげに、げんなりした顔をしていた。
「ありさとのデート中に、仁人から『部屋に蝉が入ってきたから追い出して』って電話が来て……」
「それで行ってもうたんか……」
太智は遠い目をした。
自分だったら、仁人からそんな電話がかかってきたところで、「知らんがな」と即切りしている。ましてや、デート中に呼び出されてわざわざ駆けつけるなど、到底理解できない。
「蝉が怖い仁ちゃんかぁいいなと思って……」
「それ絶対谷岸さんにも言ったでしょ……」
「いや、ありさも連れていったよ?そりゃデート中に置いていくなんて申し訳ないだろ。んで、仁人んちで3人で仁人の作った飯食ったし」
最悪である。そこで彼女は仁人に溶けたアイスクリームよりもでれでれにメロつく彼氏を見てしまったのだろう。人生において勝利しか掴んでこなかった男が、ここに来てすべての選択で間違いを選んでいるのは最早面白い。誰よりも佐野勇斗の失敗を喜ぶ男、吉田仁人が知れば手を叩いて地獄の魔王のような大笑いをするにちがいない。
いや、全てお前のせいなんだが。
「もう吉田さんと付き合えばええやん」
半ば投げやりに太智が言う。
「えっ仁人と?」
「なんやねんその考えたこともなかったって顔。あんだけいちゃいちゃしくさって」
「太智なんかキレてね?俺なんかした?」
この三週間、ありさから散々「さのじん」の話を聞かされてきたことなど知る由もない勇人は、吐き捨てるような太智の言葉に困惑していた。
「でもまあ、結構ありなんじゃない?よっしーと付き合うの」
「そうやで!実際どうなん?仁ちゃんの顔好き?」
これ以上被害を受けたくない柔太朗と舜太の必死の後押しに、勇人は真面目な顔で答えた。
「かなり好き。デカすぎるきゅるきゅるな目も可愛いし、鼻も彫刻みたいにスっと通って綺麗だし、肌ももちもちすべすべだし。俺ああいう海外風のハッキリした顔立ち好きなのよ」
即答だった。常にそう思ってないと出てこない速さである。
「でもな~付き合うってなるとまた違う気が……仁人は友達だし……」
なおも考え込む勇人に柔太朗が問いかけた。
「じゃあ、よっしーが誰かと付き合ったらって考えてみたらどう?」
その言葉を聞いた瞬間、勇人は固まった。
「え、仁人が……?」
そう呟いて、それきり黙り込んだ。
その後、授業が始まってからも勇人は眉間に皺を寄せて、ずっと難しい顔をしていた。授業が終わり、4人が解散するまでその表情は変わることはなかった。
その翌日。
空きコマの時間、太智、柔太朗、舜太の三人は、勇人に呼び出されて近くのカラオケに集まっていた。
勇人は指を顔の前で組み、まるで国家機密でも打ち明けるかのような深刻な面持ちで口を開く。
「俺、仁人のこと好きかもしれない」
「え、今さら?」
太智がスマホからちらりと顔をあげていう。
「柔太朗に言われて、あれから色々考えたんだよ。仁人の性格上、誰かと付き合うって考えられなかったけど、もし、そんな相手ができたとして、キスとか、その先とか、絶対に他の奴に触らせたくない。全部俺がいい」
「ごめんそこまでは聞きたくなかった」
友達二人のそんなん聞きたない……聞きたない……と両耳を塞ぐ舜太と、その手を更に上から抑えてしっかりチャイルドフィルターをする柔太朗。太智に至っては、虚空を見つめながらストローでジュースを吸っている。少女漫画の主人公みたいな顔と性格をしといて、そんな事を考えないで欲しい。
「だから今から仁人を呼び出して告白しようと思う」
「俺たち帰っていい?」
「いや、あいつ絶対逃げようとするから捕まえて欲しい。あと後から『やっぱ無し』とかいいそうだから証人になって欲しい。実はもう呼び出してる。もうすぐ着くって」
とんだ少女漫画の主人公がいたものだ。やっていることはほとんど悪徳商人である。
それからまもなく、仁人はドリンクバーのオレンジジュース片手にやってきた。
「なんだよ勇人、絶対に来いって。今日俺1日休みなのに……ってなんだこの空気」
勇人の気迫に怯える大型犬のような舜太と、舜太にガッチリ腕を掴まれてすぎて動けなくなっている柔太朗、虚無顔の太智、そして覚悟を決めた顔をしている勇人。ここだけ誘拐犯との取引現場のような緊迫した空気が漂っている。
「とりあえず座って」
そう促され、困惑しつつも勇人の隣に腰を下ろす。向かいには太智、柔太朗、舜太の三人。どうにも重苦しい空気に、仁人は落ち着かない様子で三人を見回した。
「来てくれてありがとう。今日はお前に言いたいことがあって来てもらった」
改まった勇人の口調に、仁人の眉が寄る。
「え、何?俺なんかした?勇人、目が据わってて怖いんだけど」
柔太朗に助けを求めるように視線を送るが、気の毒そうな眼差しで諦めろ、とでも言いたげに首を横に振られただけだった。
「俺さ、彼女と別れた」
「あ、そうなの」
思いの外あっさりした報告に、仁人は一度瞬きをする。それから、三人の浮かない顔を見て、ようやく合点がいった。
「あ、それを慰める会? だからこんなみんな暗いの?」
「それでさ……」
勇人が小さく息を吐き、机に視線を落とす。
「言われたんだよ。『吉田くんと私、どっちが大事なの?』って」
「え?」
仁人の顔が引きつった。
「え、原因俺?なんでえ?え、もしかして俺をボコる会?」
仁人は尻を半分浮かせて、念のため扉までの動線を確認し、いつでも逃げられる体勢を密かに整えた。
「でさ、俺、普通に凹んでたんだけど……」
勇人はそんな仁人の様子など気にも留めず、話を続ける。
「柔太朗に言われて、考えたんだよ」
仁人は柔太朗へ顔を向けた。何を言ってくれたんだ、お前は。言葉にせず目だけで問い詰めると、柔太朗は表情で『マジでごめん』と返してきた。
「え、ちょっと待って」
嫌な予感がして身を引こうとした、その瞬間だった。
両手をガシッと掴まれる。
「ヒィッ!」
思わず情けない悲鳴が漏れた。
同じ成人男性とは思えないほど一回り大きく、分厚い勇人の手のひらに両手を包み込まれ、仁人の顔が引きつる。
「吉田仁人」
勇人が真っ直ぐに仁人を見つめた。
「あなたのことが好きです。付き合ってください」
「ハァ!?!?ハァ!?!?」
あまりにも予想外の言葉に、仁人は目を見開いた。頭が追いつかない。
「俺のこと嫌い?」
勇人が不安そうに尋ねる。
「いや……」
仁人は握られた手を見下ろし、それから勇人の顔を見る。
「こんなに嫌いな要素があるのによく好きでいられるなってくらいには好きだけど……」
「え、じゃあ好きじゃん」
「そういうことじゃなくて!」
勇人のあざとい笑顔に、仁人はう、と言葉を詰まらせる。
茶番である。
その様子を見ていた三人は、揃って遠い目をしていた。
「俺たち何を見せつけられてるん……?」
「帰りたい」
「ゲームしたい」
三人のぼやきなど聞こえていないのか、勇人は満面の笑みを浮かべる。
「やったー!!じゃあ両思いね!!」
「いや、待って、そういう――」
「お前ら聞いてたよな!!俺たち、今日から付き合いまーーーす!!」
言い終わるより早く、勇人は仁人の肩を抱き、握った手を高々と掲げた。
「はぁぁあ!?!?」
仁人の絶叫が、カラオケ中に響き渡った。