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8 - 第8話銀の執事と静かな主

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2026年01月24日

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新しいやつ


ーーーーーーーーーーーー

名門・鷹宮家に仕える執事、ルカは三十歳。

完璧な所作と冷静な判断力で知られているが、彼自身のことを知る者は少ない。


彼の主である鷹宮 恒一は二十七歳。若くして当主となったが、社交の場を好まず、屋敷の書斎で過ごす時間が多かった。


「本日は、少しお疲れのご様子ですね」


ルカが紅茶を差し出すと、恒一はわずかに目を細める。


「……君は、いつも分かっているな」


それは主従としての信頼だった。

しかし、夜が更けるほどに、二人の距離は言葉にならない感情で満ちていく。


ある日、恒一はぽつりと漏らす。


「当主である前に、一人の人間として扱ってくれるのは……君だけだ」


ルカは一瞬だけ沈黙し、それから静かに微笑んだ。


「それは、私の望みでもあります。——恒一様」


名前を呼ぶ声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


主と執事。

立場を越えることは許されない。

それでも、同じ夜を静かに分かち合うこの時間が、二人にとって確かな真実だった。





鷹宮家の朝は、いつも同じ音から始まる。

廊下を進む革靴の足音、カーテンを引くわずかな擦過音、湯気の立つ紅茶の香り。


それらすべての中心にいるのが、執事・ルカだった。


「おはようございます、恒一様」


ベッドサイドで声をかけると、若き当主・鷹宮 恒一はゆっくりと目を開ける。

彼は眠そうにしながらも、ルカの姿を確認すると、どこか安堵したように息をついた。


「……君がいると、朝が現実だと分かる」


「それは光栄です」


淡々と答えながら、ルカはカーテンを開ける。

差し込む朝日が、恒一の髪と、ルカの銀縁の眼鏡を淡く照らした。



恒一が当主になって三年。

親族との確執、会社の重圧、表に出せない孤独。

それらを誰にも見せずに耐える彼の姿を、ルカだけが知っていた。


夜の書斎。

恒一は書類に目を落としたまま、ぽつりと呟く。


「もし、僕が当主でなければ……君は、今もここにいた?」


その問いに、ルカの手が一瞬止まった。


「……分かりかねます」


正直な答えだった。

それでも続ける。


「ですが、今の私は“鷹宮恒一の執事”であることを誇りに思っています」


恒一は顔を上げ、ルカを見つめた。

視線が絡む。

主と執事としては、ほんの少し長すぎる沈黙。


「……ありがとう」


その一言に、ルカの胸が静かに痛んだ。



ある日、恒一は過労で倒れた。

医師の指示で、数日間の静養が決まる。


ルカは寝室に簡易のデスクを運び込み、恒一の代わりに書類を整理した。

夜、熱が下がった恒一が弱々しく声をかける。


「ルカ……そばに、いてくれるか」


「ええ。夜明けまで」


その返事に、恒一は目を閉じる。

その指先が、無意識にルカの袖をつかんだ。


振りほどくことはできなかった。

ただ、そっと覆うように手を重ねる。


「……眠ってください」


それ以上のことは、何もしない。

それでも、確かに心は触れ合っていた。



数日後、恒一は回復し、いつもの冷静な当主に戻った。

だが、別れ際のように、彼は執務室でルカを呼び止める。


「君は……いずれ、ここを去るのか?」


「執事には定年があります」


「……そうか」


沈黙のあと、恒一は小さく笑った。


「その時まで、君を独占してもいい?」


その言葉は命令ではなく、願いだった。


ルカは一礼する。


「それが私の務めです。——そして、私の選択でもあります」


主従という枠の中でしか、共にいられない。

それでも二人は、同じ屋敷で、同じ時間を重ねる。


言葉にしない想いを、静かに胸に抱いたまま

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