テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#高校生
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第32話 「秋、再び」
2020年 九月。
新チーム始動。
三年生が引退し、柳城高校野球部は新しい代へ変わっていた。
だが――
グラウンドの空気は、以前とは違う。
“福岡優勝校”
その肩書きが、柳城を変えていた。
練習試合。
相手校の視線。
新聞記事。
どこへ行っても、柳城は注目される。
その中心にいるのが――
二年生になった舞だった。
「スコアお願い!」
「はい!」
以前よりも声が大きくなっていた。
小早川啓介たち三年生が残したもの。
それを、舞も感じていた。
放課後。
グラウンドへ、一人の男が来る。
小早川啓介だった。
引退後も、時々グラウンドへ顔を出していた。
一年生たちが少し緊張する。
“福岡優勝世代のキャプテン”
もう学校の中でも有名だった。
「お疲れ様です!」
後輩たちが頭を下げる。
啓介は少し困ったように笑う。
「そんな気使わんでいいって」
その時。
福間監督のノックが始まる。
――カキン!!
鋭い打球。
「遅い!!」
「一歩目!!」
グラウンドに怒号が飛ぶ。
新チームは、まだ未完成だった。
守備ミス。
連携不足。
声も続かない。
去年の完成度には遠い。
だが福間監督は焦っていない。
ノック後。
水を飲む一年生へ言う。
「去年のチームも最初から強かったわけやない」
「積み上げろ」
短い言葉。
その横で、小早川啓介が静かに練習を見ていた。
去年。
自分も同じことを言われた。
積み上げろ。
その意味が、今は分かる。
夕方。
部室前。
舞が啓介へ聞く。
「お兄ちゃん、大学どうするの?」
啓介は少し黙る。
「……まだ決めてない」
本当は、いくつか社会人野球や大学から話も来ていた。
だが、啓介の中には別の想いがあった。
“やらないといけない事がある”
まだ形にはなっていない。
でも、その想いだけは消えていなかった。
その頃。
職員室。
立花理事長と福間監督が話していた。
「今年の一年、かなり良か素材がおるらしいな」
福間監督が頷く。
「来年、面白くなります」
立花理事長は少し笑う。
「小早川の弟たち、やったか」
福間監督は窓の外を見る。
夕暮れのグラウンド。
そこにはまだいない。
だが来春。
柳城高校へ、“新しい小早川”たちがやって来る。
そして柳城は、再び甲子園への道を歩き始める。
**第32話