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にゃーにゃ
それからまた更に、佐久間くんの様子が変わった。
仕事が一緒の日は気付いたら俺の側にいる。スキンシップが多いのは元々だけど、こんな風に常に側にくっ付いてることはなかったのに。
あの日の出来事がそんなに怖かったのかな。トラウマにさせてしまったようで申し訳ない。
康二もラウールも何だかにやにやしながら揶揄ってくるけど、そんなんじゃないよ。そんなわけない。
佐久間くんは俺なんて好きじゃないから。
「なぁ、蓮。この後まだ仕事あんのか?」
「アンバサダー企業関連の取材だけかな。それが終われば今日は帰れるよ」
「そっか。…じゃあ、待っててもいいか? ちょっと話したい事あるし」
「いいけど…時間かかるかもしれないよ?」
「仕事の台本読み込んで待ってるから大丈夫。けど…蓮が迷惑なら止める」
そう言って俺を見上げたその顔が思いの外真剣に見えて。断る選択肢が俺の中にないことに気付く。
もしかしたら何か大事な相談かもしれない。
事件のことかもあの人のことかも判別つかないけど、俺に出来ることならしてあげたい。
「迷惑なんかじゃない。佐久間くんが大丈夫なら、俺はいいよ。待っててくれるの嬉しいし」
そう言って安心させるように微笑むと、頬をほんのり赤らめた佐久間くんがほっとしたように笑った。
佐久間くんに「取材頑張ってこいよ」って見送られて予定の部屋に向かう。取材受けるのが同じスタジオ内で良かった。とりあえず急いで、でも誠意を込めてしっかり終わらせようと心に誓った。
何度かお仕事をさせて頂いてるスタッフさんとだったこともあってさくさくと仕事が進み、予定の時間内に終わることが出来た。
佐久間くんをあまり待たせずに済んでほっとする。
メイク落としや着替えをして佐久間くんが待つ部屋へ急いで行くと、ふわっと笑いながら「お疲れ、蓮」と労ってくれた。
それだけで疲れが吹っ飛ぶ気がする。
「ありがとう、佐久間くん。待たせてごめん」
「いいよ、俺が待ってるって言ったんだし。むしろ急がせてたなら俺こそごめん」
「そんなことないよ。大丈夫。仕事はちゃんとしてきたから」
俺の言葉にほっとした表情になる。
佐久間くんが待ってるからって手抜きなんて絶対しない。そんなことしたら佐久間くんを悲しませるだけだし。何よりプロ意識の塊である佐久間くんの側にずっといて、そんなこと出来る筈ない。
「それなら良かった…。でさ、この後なんだけど」
「うん。佐久間くん、話したいことがあるんだよね?」
「ん、だからさ…俺んちでもいい? ゆっくり話せると思うし」
特に断る理由もなかったから「いいよ」って頷く。
今日は俺も佐久間くんもマネージャーの送迎で来てたから、下でタクシーを掴まえて佐久間くんの家の近くまで乗ることにした。
マンションの少し前で降ろして貰って、そこから連れ立って歩いていく。
穏やかで静かな夜だった。空を見上げると、都会とはいえ少しの星と月が見えるくらい晴れてる。
「ここより暗くて静かなとこに行ったら、もっともっと星が見えそうだな」
同じように空を見上げた佐久間くんがそう言って、俺も「そうだね」と同意した。
どこまでも広がる満天の星空を佐久間くんと見てみたいけど、今の俺にはこの星空でも十分過ぎるくらい幸せだなって思う。
好きな人と2人、ただ星空を見上げて歩くこの時間が。
例え相手が俺のことなんて好きじゃなくても。
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