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管野アリオ
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駅前まで歩いてきたところで、ふいに朝陽が足を止めた。
繋がれていた手がそっと離れ、朝陽が亜佑美の方へ振り返る。
「……すみませんでした。勝手な真似をしてしまって」
申し訳なさそうに謝られた亜佑美は慌てて首を横に振った。
「ううん、その……すごく助かったから……ありがとう」
「……そうですか。それなら、良かったです」
安心したように微笑む朝陽だけど、その後二人の間にはどこか気まずい沈黙が落ちた。
そんな中、亜佑美は何か言いたげな朝陽の表情に気付いて小さく首を傾げる。
「……何?」
問いかけると朝陽は少し探るように口を開いた。
「あの……さっきの人……」
その言葉で亜佑美は朝陽が何を聞きたいのか察した。
「あ……えっと……」
隠したままにしておくのも違う気がした亜佑美は観念したように事情を話し始める。
「……実はね、今日、合コンに行ってきたの」
「……え?」
「この前断ったんだけど……昨日、友達から連絡が来て……一人来れなくなったから人数が足りないって泣きつかれて……それで、仕方なく……」
説明しているうちに段々と言葉尻が弱くなっていく亜佑美は、まるで言い訳をしているみたいだと内心で苦笑した。
そんな亜佑美の話を聞き終えた朝陽は、「……そうだったんですね」と納得したように呟いて柔らかく目を細めた。
「木葉さんは優しいですね。そういうところ、凄く良いと思います」
「……っ」
けれど、朝陽はそこで言葉を終えなかった。
「……でも」
そう続ける朝陽の表情はいつになく真剣そのもの。
「さっきみたいに言い寄られているところを見てしまうと……少し、心配です」
「……え」
「木葉さん、しっかりしているようで結構隙がありますから」
「そ、そんなこと……」
「あります」
きっぱりと言い切られ、亜佑美は思わず口を閉ざした。
「……だから、出来れば……」
一瞬、迷うように言葉を切った朝陽は改めて亜佑美を真っ直ぐ見つめる。
「もう少し警戒してください。特に男の人と二人きりになる時は。それに、断る時はハッキリ断らないと……勘違いする人もいると思いますよ」
その言い方が妙に引っ掛かって、亜佑美は思わず朝陽の顔を見返した。
真っ直ぐ向けられた視線に鼓動が不自然な程大きく跳ねる。
胸の奥がじわりと熱を帯びて落ち着かない亜佑美。
(……心配とか隙があるとか警戒して欲しいとか……そんな風に言われたら、私……)
まるで自分だけを特別に気にかけてくれているみたいに思ってしまい、亜佑美は逸らすことも出来ないまま、ただ朝陽を見つめ返していた。
すると、ふいに朝陽がはっとしたように目を見開いた。
「……って、そんなこと言ったら俺にも警戒しないとおかしいか……。あの、俺はその……」
途端に歯切れ悪く視線を泳がせ始めた朝陽に亜佑美は思わず吹き出してしまう。
「ふふっ……」
「あ、あの……木葉、さん?」
困ったように名前を呼ばれた亜佑美は肩を揺らしながら笑みを零した。
「ごめん。何だか必死になる藍島くんが可愛くて」
「なっ……っていうか、また可愛いって……」
耳まで赤くしながら抗議する姿がますます可笑しくて、亜佑美はくすくすと笑う。
「ふふ、ごめん」
そのお陰か先程まで張り詰めていた空気は、いつの間にかすっかり和らいでいた。
「それよりも、木葉さん、そろそろ帰りましょう」
「うん。でもその……送ってくれなくても、大丈夫だよ? まだそんなに遅くないし」
「駄目ですよ!」
「っ!」
思った以上に強い声に亜佑美は目を丸くした。
「時間なんて関係ないです! 木葉さんのマンション周辺って住宅街で、この時間は人通りも疎らですよね?」
「まあ、うん……」
「それに、変質者や痴漢に注意っていう看板も立ってたし……」
「そんなの、大体どこにでもあるよ」
「だとしても!」
ぐっと眉を寄せたまま朝陽は真剣な眼差しで亜佑美を見る。
「木葉さんみたいに魅力的な人が、夜十時過ぎに一人でいたら危険過ぎますって」
「……っ」
不意打ちのような言葉に亜佑美の胸がどくりと跳ねた。
そんなことをそんな真っ直ぐな顔で言われたら困ると、熱くなりそうな頬を誤魔化すように俯いた亜佑美を前に朝陽は不安げに表情を曇らせた。
「……それとも、送るの……迷惑ですか?」
それはまるで捨てられた子犬みたいな目だった。
その視線に胸がトクンと高鳴り、キュッと締め付けられる。
心配してくれることが、どうしようもなく嬉しい。
「迷惑なんて、そんなことない…………その、心配してもらえて……嬉しい、です」
亜佑美が小さくそう返すと朝陽は一瞬きょとんと目を瞬かせた後、
「なら良かったです!」
そう言いながらホッとしたように柔らかく笑った。
コメント
1件
うわあ、このエピソードすごく良かったです……! 朝陽くんの「心配」って言葉の裏にある特別な想いが滲み出てて、読んでてこっちまでどきどきしました。特に「さっきみたいに言い寄られているところを見てしまうと……少し、心配です」って台詞、あれはもう完全に亜佑美さんに気がある証拠ですよね(笑)。亜佑美さんが「勘違いしそう」って思う気持ち、すごく共感しました。途中で朝陽くんが自分の矛盾に気づいて慌てるところも可愛くて、思わずにっこり。二人の距離が確実に縮まってる感じがして、この先がすごく楽しみです!