テラーノベル
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二人で電車に乗り込むと、幸い車内はそれ程混んでおらず並んで席に座ることが出来た。
規則的な揺れに身を任せながら亜佑美はふと隣を見る。
「そういえば藍島くん、どうしてあの時あそこに居たの? 藍島くんの職場って、あの辺りじゃないよね?」
「ああ、少し前まで友達とご飯行ってたんです。別れて駅に向かおうと歩いてたら木葉さんを見つけて」
「そうだったんだ」
どうやら本当に偶然だったらしい。
もし朝陽があの場に居なかったら自分はどうなっていたんだろうと亜佑美が思っていると、隣から穏やかな声が聞こえた。
「本当は、ご飯あんまり乗り気じゃなかったんですけど」
「え?」
「行って良かったです」
そう言って朝陽は照れ臭そうに笑う。
「どうして?」
「だって、そうじゃなかったら木葉さんに会えてなかったし、あの男の人から助けられなかったから。友達に感謝しないとですね!」
屈託なくそんなことを言われてしまった亜佑美の心臓は聞こえてしまうのでは無いかと思う程に騒がしい。
「……そっか」
何とかそれだけ返しながら亜佑美は熱くなりそうな頬を誤魔化すように窓の外へ視線を向けた。
隣にいるだけで落ち着かないのに、こうして真っ直ぐな言葉を向けられると、どうしていいのか分からない亜佑美は電車に揺られている間、終始ドキドキしっぱなしだった。
やがて亜佑美の住むマンション最寄り駅へ到着し、二人は改札を抜ける。
駅前のコンビニへ立ち寄り亜佑美が先に会計を済ませて店の外へ出ると、夜風が火照った頬を少しだけ冷ましてくれた。
そして朝陽がレジを終えるのを待っていると、ふいに背後から声が掛かる。
「ねぇ」
振り返るとそこには酒の入ったコンビニ袋を提げた男が立っていた。
どこか馴れ馴れしい笑みを浮かべ、じろじろと亜佑美を見ている。
「……何か?」
「キミ、ここで結構見掛けるけど、家この辺なの? 可愛いなって思ってたんだよねぇ~。良かったら俺の家来ない? 酒飲もーよ」
酒臭い息と距離感のおかしい態度に亜佑美は反射的に警戒する。
酔っているせいか男は構わず一歩距離を詰めてきたので亜佑美が離れようとした、その時だった。
「お兄さん、彼女に何の用ですか? 俺が代わりに聞きますけど?」
にこやかな声と共に朝陽がスっと二人の間へ割って入り、気づけば自然な動作で亜佑美を庇うように男の前へ立っていた。
しかも、朝陽は笑顔は崩していないのに、その目だけは全く笑っていない。
男は一瞬気圧されたようにたじろいだ後、面倒臭そうに舌打ちする。
「何だよ、男居んのかよ……」
ぶつぶつ文句を零しながら男は二人とは反対方向へふらつくように歩き去って行った。
その背中が完全に見えなくなってから朝陽が振り返る。
「大丈夫でしたか、木葉さん」
「あ、うん……」
「週末のこの時間はああいうのも多いから、くれぐれも気をつけてください。何かされたりしてませんか?」
「うん、それは……。でも」
「でも?」
「あの人、“ここで結構見掛ける”って言ってたから……少し気味悪いなって」
自宅が近所なら見掛けること自体は不思議ではない。
それでも、“見ていた”と言われたようで、背筋がぞわりとした亜佑美が少し怯えたように眉を下げるのを見て、朝陽は困ったようにため息を吐いた。
「だから言ったでしょ? 時間なんて関係ないって」
「……うん」
「これからは帰る時、ちゃんと周りを警戒してください」
「うん……」
「なるべく人通りのあるうちに帰ってください」
「……うん」
「今日みたいに遅くなるなら、タクシーでマンション前まで行くのが一番だと思いますよ」
「……だよね」
まるで言い聞かせるみたいに次々注意を並べる朝陽に亜佑美は申し訳なくなりながら頷く。
「でも、それでも不安だったり怖いなって思うことがあったら、その時は――」
何故かそこで言葉が区切られ、亜佑美は小さく首を傾げる。
「……その時は?」
そして次の瞬間、朝陽はパっと顔を上げた。
「その時は、いつでも俺を頼ってください! すぐに駆けつけるんで!」
それは迷いのない声で、真っ直ぐで力強くて頼もしい。
その言葉だけで亜佑美の中に生まれていた不安が少し薄れていき、ふっと頬を緩めた。
(……本当に、頼れる人だな)
きっと朝陽は、こうやって誰にでも優しく出来る人なんだろう――そう思いつつも、“いつでも頼ってください”なんて、自分だけに向けられたみたいに聞こえてしまった亜佑美は意識せずにはいられなかった。
管野アリオ
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コメント
1件
**はる。だわ。** 第16話、めっちゃ良かった!「行って良かったです」って照れ笑いされたら、そりゃ心臓ドキドキするよね。そしてコンビニ前のナンパ対策、笑顔なのに目が笑ってない朝陽くん、最高にかっこよかった。「いつでも頼ってください」の一言で、亜佑美ちゃんの不安がふっと軽くなった気持ち、すごく分かる。頼れる存在ってまさにこれだよな〜。次も気になる🔥