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9年前、時の国付近砂漠の洞穴にて。
「言い残すことは?」
兵とは思えない程の軽装の女は剣を相手の首筋に、当て問う。
「これは何回目だと思う?」
男は剣を鷲掴み、女に問う。
女「訳の分からないことを…」
女が男から剣を奪い返し、男の首に振りかぶる。
男「ーおやすみ、おはよう。」
男がそう言ったのと同時に、男の頭が胴体と切り離された。
男「これは何回目だと思う?」
先程と全く同じ様子のやり取りが続く。
ノア「おかしいな…。失敗したのか、ループしてる…?」
ノアは注意深く、2人の様子を観察する。
ノア「あ…違う。」
(僅かに、仕草が。出す足の左右が。そうか、これは…)
ノア「ジハードが…夢に埋め込んだはずの現実…。」
(ということは…これは…この人は…)
ノアの瞳が揺れる。
ノア(ジハードの記憶だとこの人は、ローズといって、この国の王女様らしい…。…ここで、何度もローズに殺されてたんだ。)
また男の首が落ちる。
ノア(正気の沙汰とは言えないね。…視覚を共有してるボクも正直何度も殺されるのはキツイ…。)
ジハード「くそっ…冗談じゃない…!何度も何度も!」
ジハードはローズが起きる前に起き上がり、走り出す。
ローズ「つれないわね。」
また男の首が落ちる。
また男の首が落ちる。
また男の首が落ちる。
また男の首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が首が
ー落ちる。
何度目だろうか。変化が起きた。
ローズ「…一体何したの?」
ジハード「は?」
ローズはジハードの首に剣を突き立てたまま問う。
ローズ「とぼけないで。魔法を使ったでしょう。」
ジハード(確かに使った。けれど…何故)
「なんでお前がそれを知ってる…?」
ローズ「…白状する気はない…と。なら無理やり吐かせるだけ。」
ローズはジハードの顎を掴み、自身の瞳でジハードの瞳を見つめる。剣をそのままに。
ローズ「愛する私の為に、さぁ、正直に全て答えなさい。」
ジハード「…確かに魔法を使った。だが、普通は気付くはずがない魔法だ。」
ローズ「へぇ?どんな魔法なのか聞いても?」
ジハード「あったはずの現実を、夢に嵌め込んで無理やりなかったことにする魔法。」
ローズの目の色が変わり、ジハードの顎から手を外し、剣を遠ざける。
ジハード「今何を…」
ローズ「…気が変わったわ。見逃してあげる。ただし、私に全面的に協力してくれるならね。」
ジハード(ここで何度やり直しても、結果は同じ。この変化は大切にしないと…)
ジハード「呑もう。」
遠くから、バラバラなヒトの声が聞こえる。
ローズ「そこに居なさい。」
移動しようとしたジハードをローズは止める。
若い男「でっ、殿下〜…早すぎですってぇ…!」
ローズ「遅い。分かってるの?私が王位を継ぐ可能性だってある。そうなったら、団長の職位に就くのは貴方なのよ。ゲティア。」
ゲティア「よっ容赦ない…!」
ローズ「訓練メニューを見直すわ。」
ゲティア「そ、それはいいんですけどその…」
ローズ「その足の怪我が治ったらね。引き際位見極めなさい。」
ゲティア「はい!…まじで怖ぇ…。」
ゲティアはそう小声でぼやく。
ローズ「聞こえてるわよ。叩きのめされたくなきゃ、さっさと家に帰りなさい。諸々の手続きはこっちでするから。」
ゲティア「すんません!」
ゲティアはそうしてそそくさと、歩いて去っていく。
ローズ「ゲティアは追っ払ったけど…タイミングが悪いわね。また後で会いましょう。月の登る2時に。…どこに逃げても無駄だから。」
ジハードの背中に悪寒が走る。
ジハード「首の皮一枚で繋がるってこういう事だな…。」
ローズ「こんな遅くなってごめんなさいね。今かなり立て込んでで、抜け出すのも一苦労なのよ。」
ジハード「…あ、ああ…。その…お前極端だな。」
ローズ「何よ。悪い?」
ジハード「悪くないけど…あまりにもこもこだから、誰かと思った…。」
ローズ「貴方ねぇ…。ま、いいわ。改めて話すけど、私は貴方の魔法を使いたい。だから詳細を教えて欲しいんだけど…」
ジハード「なぁ1つ勘違いしてないか?確かに、俺の魔法はやり直せるけど…全部が全部って訳じゃないんだぞ。」
ローズ「というと?」
ジハード「あったはずの現実を無理やり夢に嵌め込む。それだけ。なんで気づいたのかと思ってたけどお前も気づいただろ?移動したことは変わらない。その場で夢は見るけど。」
ローズ「…そうなの?それは気づかなかったけど。」
ジハード「…一体どうやって気づいたんだ…まぁでも確かに殺風景な砂漠しかないなら、誤魔化しようはあるが…この魔法の対象はあくまでヒトだ。液体とか食べ物とかは正直そこまで精度が高くない。時を遡るわけじゃないし…それに何もかもなかったことにできる訳じゃないんだ。1つは絶対に夢にはめ込めないで余るんだ。」
ローズ「意外と不便なのね。…その余りが何かは決められるの?」
ジハード「ああ。俺の命が余り扱いされたら困るし…。」
ローズ「ふうん。…そうねぇ。この国全体に、魔法を使うことって出来る?」
ジハード「全体!?それをすれば俺は死ぬぞ。お前の命令は聞いてやる。でもそれは俺の命の保証があっての事だ。」
ローズ「悪かったわよ。なら、この国の平民とかその辺パクッと行ってきなさいよ。」
ジハード「…お前殿下って呼ばれてたし、仮にもこの国の偉い人だろ?…何を考えて…」
ローズ「そうね。私はこんなことを言って許される立場じゃない。でも知られなければ問題ない。」
ジハード「いや、そうじゃなくて…」
ローズ「倫理観とかそんなくだらないものを悪魔が考えてるわけ?」
ジハード「どっちが悪魔だ…」
ローズ「そんなに気になるわけ?…いいわ、話してあげる。」
ジハード(こいつは…何を考えてるんだ…?)
ローズ「私は、この国を守りたい。でもそれはこの国の民のためじゃない。この国は、何度も悪魔に襲撃されてる。何度もね。そうなれば、当たり前だけど国民の不満は募る。不満が限界まで達した時、何が起こるか分かる?」
ジハード「…内戦とか。」
ローズ「ご名答。勝手に民達でやってくれるなら別にいいわ。でも王政国家では違う。王族がその不満の受け皿になる。私に手を出す愚者は居ないでしょうね。私は王室直属の兵団の団長の肩書きがあるし。父上は常に、見張られてる立場だし即お縄。なら1番手を出しやすいのは…クリウス。第1王子になるわけ。まだあの子は13だし、格好の的。私は正直国民なんかどうでもいいの。ただあの子を守りたいだけ。…それに、あの子が王になった時のことも考えてね。」
ジーク「お前は王位を継がないのか?もし継ぐならみたいな話を部下にしてただろ?」
ローズ「もしって言ったでしょ。確かに継げるならそれが理想だけど…私は継がないんじゃない。継げないの。別に性別が限定される訳じゃないけど…だって私1、2年後には死ぬもの。」
ジハード「…は…?」