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四話 死神
死神とは魂の案内人。人は死んだあと魂が抜けてどこかに飛んでいく。それがどこかは、その人次第。
また、死後の行動もその人次第。本来、魂となったときは『あの世への扉』のところまで行かなければならない。そこの扉を開けて天国か地獄か、はたまた転生かは人それぞれ。
でも、自分が死んだことに気づかず、家に戻ったりそのまま家族や友人に会いにいく人もいる。
自分は死んだと気づきながらも、未練があったりすると未練を果たそうとしたりする者もいたり、自分は存在していると知りたくて、人にちょっかいをかけたりすることがある。人々はこれを心霊現象と言う。
だが、自分が死んだことに気づき、扉まで行かなければならないのはわかっているが扉の場所がわからない、という人がほとんど。そのときに俺たち死神が扉まで案内するんだ。
「――なるほど……。じゃあ、ここからは質問していい?どうして扉まで行かなければならないの?未練があるなら未練を果たしてから扉まで行けばいいんじゃない?それもダメ?」
「魂ってものは身体があってこそ成り立つものだ。魂だけが彷徨っている状態だと生の範囲の限界を迎え自然消滅してしまう。天国も地獄も見ることなく転生することもなく、ただ消えてしまう。」
「そうなんだ…………じゃあ別の質問。死神は案内人なんでしょ?なら、大鎌とかじゃなくて、看板を持ってればいいのに。どうして大鎌なの?」
「たまに抵抗したり、言葉だけじゃついてこなかったりする魂がいるんだ。暴れたり見てないうちにどっかいかれちゃったら困るから、大鎌を使って檻をつくるんだ。檻の中に魂を入れて扉まで運ぶ。そのための大鎌だよ。」
「すごいね!……でも、話を聞いてる限りだと、死神って結構苦労人……?」
「……ははっ……他になにか聞きたいことはある?」
虚ろな目をして棒読みで笑う彼をよそに、私は自分も死神だったら、彼と一緒にいれて彼の気持ちを理解できたのに。なんて無謀なことを考えていた。
「……あ!遠山くんはなんで死神になったの?いつからなった?!」
「あー……死神ってのはなりたいって思ってなるもんじゃないんだよね。……俺は……まぁ、成り行き?」
「え??成り行き?成り行きで死神になることあるの?じゃあ私もいつかなっちゃったりして!」
「それはないと思うけどね。」
キッパリと否定されたが、私は特に悲しい気持ちにはならなかった。逆に遠山くんの意見を覆したいなんて考えるようになって、前より成長したことを実感した。
「……じゃあ別の質問。」
「うん。」
「………遠山くんって好きな人いる?」
「あ……えっ……」
「正直に答えて欲しいの。私の人生に影響するから。」
「…………い」
彼が口を開くと、下校のチャイムが彼の言葉を奪う。突然の音にビックリして、私は彼の口元の動きさえ見ていなかった。
「びっくりした……なんて言った?」
「……もう下校しないと、校門しまっちゃうよ。」
「えっ、教えてくれないの!?!?」
「早く帰ろ。先生に怒られちゃう。」
上手いこと逃げられたと悔しさが込み上げるも、彼の言うことはもっともだった。帰るまでに彼の口を割らせたかったのだが、その希望は朽ち果てたようだ。
「遠山くんは自転車?」
「うん。」
「そっか!」
「あ……乗せようか?後ろ。家近いでしょ。」
「え!?い、いや、そんな、そんなことできないよ!!」
「何で?」
階段を降りる彼の顔は、後ろにいた私には見えなかったが、軽く言う彼の背中を見て、私は女の子扱いされていないのか?と疑問二思ってしまった。彼は優しさで言っているのに、私は変な下心を抱いているようだった。
下駄箱前につくと私たち以外に生徒はおらず、みんなもう下校していた。静かな校内で二人きりはとても緊張してしまう。彼は知っているのだろうか、この胸の高鳴りを。
「えっと……一緒に帰る?……俺の事、知りたいんじゃないの?」
「え!?う、うん!もちろん!……えっと、駐輪場まだ空いてるか――」
駐輪場へ足を進めようと外へ出た瞬間、空は暗くなり地面を物凄い勢いで濡らしていった。大きな雨音と共に、私の頭は一瞬でビショ濡れになってしまった。
「うわっ!?!?」
「え、雨?そんな突然!?」
「あちゃ〜!梅雨だもんね〜!遠山くん自転車で帰れる?」
「そっちこそ歩きで帰れる?傘はあるの?」
心配してくれる遠山くんに喜びながら鞄の中を漁ると、いつもあるはずの折り畳み傘がなかった。
「……今日は寝坊して天気予報見忘れてたんだ……いつもは見てるんだよ!?ほんとに!!」
いつもは傘を忘れても優華が貸してくれる。優華はいつも自分の肩を濡らしてまで私の方へ傘を傾ける。彼女が言うには昔からの癖らしい。恐らく、私のせいでついた癖だ。
「……涼介に貸すようにいつも傘を入れてるんだ。ちょっとボロいけど、それでも良かったら貸すよ。俺自転車ですぐ帰れるし。」
「えっ!?」
「あ、澄川さんが傘を持って後ろに乗れば?」
「えぇ!?!?」
拝啓神様。何故私は好きな人と自転車に乗っているのでしょうか。二人きりで話せて?二人で自転車にも乗れて?一緒に帰れて?
神様、今日は私の命日なのですか?落ちるからちゃんと掴んでと言われましても、好きな人の服を掴めるほど、私はまだ恋愛に慣れていないのです。それに湿気で髪の毛がベタついていますし、ちょっとうねってるしで最悪です……梅雨なんて嫌い……でも二人で帰れる口実を作れた点は嬉しい。なんとも複雑。
「ねぇ、澄川さん」
「なっなに!?どうしたの!?」
「俺たちが初めて会った時のこと覚えてる?」
「そりゃもちろん!高校の入学式の日、公園で助けてくれたよね。……本当に、嬉しかったんだよ。」
「…………澄川さんは、俺のどこが好きなの?」
「へ!?そ、それは――――」
好きなところがありすぎて、長文になってしまった上に焦って早口になってしまった。この豪雨にかき消されるのも無理はない。
「……雨の音でよく聞こえない。」
「……そうだね。」
雨の音だけが聞こえる沈黙の中、制服越しに伝わる彼の体温は冷たいままだった。それが少し寂しくて、彼の頭を見ようとすると、彼の耳は赤い果実のように染まっていた。
「澄川さんの家ってここ?」
「……」
「……?澄川さん?」
「あ!そう!ありがとう家まで送ってくれて!」
「いや別に。風邪ひかないようにね。」
「う、うん!遠山くんもね!」
「……じゃあ、また明日。」
「うん。バイバイ!」
彼女が座っていたところが、彼女が掴んでいたところが、俺の背中が、まだ暖かい。本当はもっと彼女といたい。もっと喋りたい。もっと触りたい。もっと彼女に近づきたいのに、俺にはそんなことできない。
彼女のためにも俺は、離れた方が良い。離れなきゃいけないのに、諦めきれない。
俺は彼女が、美琴さんが好きだ。
でも俺には、気持ちを伝えるなんて勇気はない。たとえ伝えられても、離れなきゃいけない。それがとてつもなく、辛い。
俺は死神という名に縋ってる臆病者。彼女の横に立つ資格さえ、持っていないのだ。
「ただいまー」
「ねーちゃん!おかえり!このドーナツ食べていい!?」
「ただいまー食べていいよー」
「美琴!あんた傘忘れてったでしょ!!梅雨なんだから、折り畳み傘は常にカバンに入れときなさいって言ったでしょ!」
「寝坊して忘れてたんだよ……ごめんなさーい……」
「全くもう……あら?肩は濡れてないのね?背中はびっしょりなのに?」
「と、友達に自転車乗せてもらって、友達の傘は差してたんだけど、どうしても友達側に傾けちゃうというか、なんとか、色々あって、それで、背中が濡れて……」
「落ち着きなさいよ……まぁ、いい友達を持ったのね。傘を忘れたあんたが悪いけど!」
「はい……」
好きな人に振り向いてもらうには、どうしたらいいのだろうか。名前で読んでみる?短いメッセージを送る、素直になる、聞き上手だとか。
そういえば名前で呼んだこともないし、連絡先も知らないし、部活も違う。彼とはただのクラスメイトでそれ以外に接点はない。私が思っているよりも、まだまだ彼の壁は高かった。
最初の関門は、話しかけること。話しかけられなかったら何も始まらない。明日から頑張ってみようかなと思ったけど、遠山くんの周りはいつも他の男子がいるから話しかけられないことを忘れていた。
スマホで見る片思い向けの恋愛サイトは、私に実践できるものなどないに等しかった。画面を見てはため息をつくことの繰り返しだったが、ピコンという可愛らしい音と共に新着メッセージが届いた。
「澄川さん。」
「えっ遠山くん!?なんで連絡先!?」
「勝手にごめん。クラスメンバーのとこから追加した。」
「あっ!その手があったか!!えっと、ありがとう!!」
「明日、いつなら話せる?」
「えっ!?いつでも大丈夫だけど、遠山くんこそ話せるの……?」
「俺は全然大丈夫。……こんなこと言って悪いけど、俺のこと好きならもうやめた方がいいよ。」
彼から来たメッセージは、背筋が凍るほど冷たかった。何故そんなことを言うのか、どうしてそんなに私を否定するのか。私が気持ち悪いのはわかってる。だが、好きな人から刺される釘が、何よりも奥に突き刺さって抜けない。涙が止まらず、痛みも止まらない。
「……私は絶対にやめません。できるだけ遠山くんに迷惑はかけないから、遠山くんは何も気にしないで。私がただ勝手に好きでいるだけだから。」
「……」
私はボヤける視界で頑張ってメッセージを打った。遠山くんがどれだけ言おうと、私はもう諦めたくない。
「……遠山くん。私だって自分が気持ち悪いことはわかってる。自分の気持ちを押し付けてるのもわかってる。……でも、それでも遠山くんに好きになってもらえるように頑張ってもいいかな?」
既読だけが彼の目を表している。彼の口がどう動くかは全く分からない。
「……うん。」
「!」
「頑張って。」
彼の顔はわからない。でも、まだ希望があることは明確だった。
私がどれだけ頑張ったとして、好きになって貰えるとは思ってない。ただ諦めきれないから、彼と一緒に許されることをして、彼といる時間を少しでも増やして幸せを感じたい。これはただ私のわがままを押し付けてるだけ。たとえ死神の彼に殺されたとして、彼といられるならそれでいい。私は引き戻せないほど盲目の恋になってしまっているのかもしれない。
――――――――――――――――――
那須川優華。澄川美琴の親友でなければならない女。そうでなければきっとこの関係は壊れてしまう。だから親友でいることにした。
きっとそれがみんなにとって良いことで、正しいこと。だから、この関係を続けなければ。美琴に嫌われないように。
淡い恋心など、もう黒く濁ってしまった。
遠山彼岸なんて男、いなけりゃ良かったのに。
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