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五話 親友
彼女の隣に相応しいのは、きっと彼よりも私。そう、信じたい。
「おはよー!」
「「はよ〜」」
「おはよ。」
また一日が始まる。今日は彼と話せるかなと淡い希望を抱く。少し不安がる私の背中を押してくれるように太陽が笑ってくれている。今日も頑張ると意気込んで青い空を眺める。雲一つない晴天だ。
「今日は眩しいよね。」
私と太陽に壁をつくるように優華がカーテンを物凄い勢いで閉める。明るかった教室は、少し暗くなった。彼女の顔のように。
「え?」
「なに?」
「……いや、今日の体育なにかなーって思って……」
「今日は……バスケだっけ。」
いつもと様子が違う優華に皆心配の目を向ける。なんだかいつもより元気がない。いつもの優華は優しくて傍から見たら少し冷たく見えるけど、友達の前ではよく笑う。
優華はたまに全てが無になったように元気がなくなるときがある。その日はなにをしても調子が悪いみたい。私たちは無理に踏み込まず、優華をそっとサポートする。なんでこうなってしまうのか以前聞いたことがある。
「ねぇ優華、なんでたまに……元気がなくなるっていうか、調子が悪くなるの?」
「……ただの寝不足だよ。」
そのときの優華の顔が忘れられない。疲れきった顔でわずかな気力で笑っていたような顔。
誰にでも元気がでない日だってある。ひとりになりたい日だってある。だからもう、無理に笑わせたくない。もうあんな顔をさせたくなくて、ずっと聞けずにいる。
あのとき、優華はなにを誤魔化したのかな。ただの寝不足だって言ってたけど、優華の睡眠時間が短いのはいつものこと。
私が思うに、優華はストレスを抜くのが苦手なんだと思う。いつもいつも完璧を求めすぎて、気を張りすぎる。だから私が抜くのを手伝ってあげる、そんな友達になりたい。
隠し通さなきゃ。早く、早く、こんな退屈な一日早く終われ。早く、早く、終われ。一刻も早く終われ。めんどくさい。めんどくさい。めんどくさい。疲れた。もう全部疲れた。もう全部
「優華!ご飯食べに行こ!」
「え?」
「今日何食べる?」
「このあいだ食べたたまごパンめっちゃ美味かった!!」
「優華?お腹すいてない?」
「あぁ、ごめん。行こっか。」
疲れが身体と脳を埋め尽くす。が、今は学校。起きていなきゃ、親友でいなきゃ、笑わなきゃ。あぁ、疲れるな。
身体が重い。頭を上げるのにも疲れて俯いたまま、足を引きずるように歩いていく。笑いながら喋る美琴たちの声は聞こえず、ゾンビのように後ろをついていく。横を通る人たちは私を不気味とでもいうような視線で避けていく。そんな私に気づいたのか、気を使ってくれたのか、美琴が手を繋いでくれた。暖かく、小さい手だった。
「優華!ご飯なににする?私は今日なに食べようかな〜」
「……なんでもいい」
「そっかー。私は〜……うどんにしようかな!!優華もうどんにする?」
「……うん」
美琴は気づいてないでしょ。美琴がそうやって私に近づく度、触れる度、私は気が気がじゃない。少し気を許してしまえばこの気持ちが溢れ出てしまうんじゃないか。口に出てしまうんじゃないか。もしそうなったとき、私は私を止められる?
「いっただっきまーす!」
「…………」
「「いただきます」」
味がしない。色もこんなに薄かったっけ。あ、食欲がないんだ。通りで喉を通らないわけだ。
「優華、うちの唐揚げあげる。」
「……いらない」
「卵焼きは?好きでしょ?」
「………」
「ちょっとでも食べないと、このあとの授業もたないよ?」
「今日の部活は休もう!」
「早く帰ってゆっくり寝ようよ。」
卵焼きを食べて、ちょっと、元気がでたかな。疲れてるだろうし、なるべく咀嚼が少なく、喉に通りやすいようにうどんにしたんだけど、食べられなかったか。
いつも髪をセットして、メイクも完璧な優華はいなかった。優華はいつも優しくて、私のわからないこととか色んなことをしてくれる。迷惑をかけてばかりだから、こうして優華が弱いところを見せてくれるのは、信頼されているようで正直嬉しい。本人は本気で苦しんでいるんだから、最低だとはわかってる。
「優華〜帰ろ〜」
「……優華?」
「一人で帰りたい?」
「いやいや、危ないでしょ。」
「英語のノート書いてから帰るから、みんな先に帰って。」
「……気をつけてね、バイバイ。」
「バイバイ!ゆっくり休んでね!!」
「……うん。」
美琴たちが教室を出て、足音が遠のいていく。オレンジ色の日差しが一人きりの教室に差し込んでくる。一人、溶けるように椅子に座る。いつもは真面目で完璧を目指しているが、今はそんなこと考えられず、制服は着崩れ、ただだらけていた。痛くなる目を瞑って、頭痛がする頭に手を置く。しばらく経って、美琴の声で目が覚めた。
「……美琴。」
「あ、優華、その、やっぱり心配だから、一緒に帰りたいなって……でも嫌なら本当にすぐ帰るし……」
「……来ないで」
「……え?」
私の声が聞こえなかったのか、私を心配しながら美琴の足は私のもとまでやってくる。
私は美琴の腕を引っ張り机の上に押し倒してしまった。私は一体なにをしているんだろう。美琴のなにも分かっていない顔に腹が立ってしまう。
美琴はいつもずるいよ。誰にでも優しい、そんな美琴の優しさが私にはすごく痛い。あのとき美琴が振られて、美琴が諦めて一人でいてくれるなら私がずっと傍にいれたのに。なんでまだ追いかけてんの。あんな男より私でいいじゃん。
私の方が美琴のこと知ってるよ、優しいよ、毎日話すよ、たくさん遊ぶよ、ノートだって見せるよ、傘だっていくらでも貸すよ。美琴のほしいもん全部あげるよ。
美琴が望むなら人だって殺せるんだよ。美琴のこと、誰よりも愛してるんだよ。
期待させないで。優しくしないで。触らないで。こんなに苦しいのはあなたのせいなのに、あなたはそんなことも知らずにまた私に笑いかける。わかってる。わかってるつもりだった。
もしこの気持ちが溢れ出ても美琴はきっと受け止めてくれる。でもそれは親友だから受け止めてくれるんだろう。
「美琴。」
やめろ。
「なに?」
やめておけ。
「……好きだよ。」
「?私も好きだよ!」
「……違う……」
一度蓋を開けてしまえば、もう閉めることはできない。溢れ出したらもう止まらない。自分を、止められない。
「愛してる。誰よりも。」
「……?私も愛してるよ……?」
「私は……貴女に恋してるの。」
「……え?」
違う。こんなこと言うな。美琴を困らせるな。止まれ。止まれ。止まれ。もうやめて。もうなにも喋るな。
今の関係を壊したくなくて、ずっと蓋をしてきたのに。ずっと押し殺してきたのに。
あぁ、もう無理。この関係も終わり。これからどうしたらいい?どうすれば良かった?どうすれば、壊れなかった?
美琴、早く逃げて。私を押し返して。抵抗して。どうか、私を嫌って。
「……優華」
「……」
「……ごめんね、気づけなくて。」
暖かい手が私の頬を撫でる。また心が痛くなる。そんな優しい顔で微笑まないで。笑わないで。こんなにも愛しているのに、絶対に届かない。でも美琴を幸せにできるのはきっとあいつ。私はあいつに勝てない。それがどうしようもなく悲しくて、悔しくて、嬉しい。
幼稚園の時。人見知りで目つきが悪かった私は友達がいなかった。一人部屋のすみで本をめくる。そんな毎日で、先生たちも親も心配していた。
クラスのみんなで鬼ごっこをすることになって、私は頑張って走ったけど誰も私を追いかけてこなかった。それ以前に私を避けていた。目つきが悪いから怒っているように見えるのか、みんな怖がって私と関わろうとしなかった。
小学校に入学して人は増えて、私は人見知りが悪化した。毎日学校に行くことがめんどくさくなった。きっと私は心のどこかで全部諦めてたんだろう。全部どうでも良かった。きっと隣の席のあの子もみんなと同じだと思ってた。
でも、あなたは私に話しかけてきた。
「はじめまして!私はすみかわみこと!よろしくね!!」
太陽だと思った。こんな私に話しかけてくれた女の子。初めて私の手を握ってくれたのはあなただった。でもそんなあなたは元気で、明るくて、可愛くて、向こう側の人たちに属する人。私とは違う世界の人。
私はあなたに釣り合わない。わかってた。あなたはみんなに優しいから私にも優しかったこと。あなたはきっと私に構うべきじゃない。あなたならクラスのみんなと仲良くなれて人気者になれたはずなのに。きっとその方があなたはもっと生きやすくて、人脈がもっと広がってたはず。
ただ私の寂しい気持ちがあなたを縛り付けて足枷になっていた。後悔ばかりつのっていく、そんな私を抱き締めてくれる、そんなあなたの優しさに漬け込んでしまう私がいる。そんな自分が誰よりも大嫌い。
「私は――」
「私は優華のことが好きだよ!」
「………………」
「……大好きだよ。……でも、優華とは違う大好きなんだと思う。……ごめんね、優華。」
「………ごめん……なさい。」
大好きなんて言わないで。あなたが大好きなのは親友である私。それがなによりも苦しい。
私はただ泣いていた。泣くことしか出来なかった。暮れる夕日が私たちの横顔を照らす。ぼやける視界にうつるのは眩しい笑顔の貴女だけだった。
貴女が太陽なら、私は月。貴女の光なしじゃ、生きられない。輝くこともできず、存在すらわからない。
「……美琴。」
「ん?」
「…………幸せになってね。」
鳥が止まった木の葉が風に揺られ舞ってゆく。教室の窓から風と共に枯れ葉が入ってくる。その枯れ葉を誰かが窓の外に飛ばす。枯れ葉と共に飛んでゆく小さく鳴く鳥の目には夕日と影がうつっていた。
――――――
「……死神は死神らしく。手遅れになったら嫌でしょ?遠山彼岸くん。」