あれからしばらく莉犬と名乗る謎の少年には出会わなかった。
昨日朝礼があったのであいつが居ないかと見渡してみたが彼らしき人は見つけられず、あの日の出来事が夢なのではとすら思う。
けど練習再開に間に合わず1人清掃をさせられたことは紛れもない事実だ。
あれは夢なんかじゃない。
「あれ生徒じゃね?」
「屋上って立ち入り禁止だよな、」
次の授業が移動教室の為教科書片手に廊下を歩いていた。
盗み聞きするつもりはなかったがふと入ってきたその言葉に隣の校舎の屋上へと目を向けた。
「….は莉犬?」
そこに居たのは遠くからでも目立つ赤髪で俺は屋上へと足を走らせた。
次の授業はさっき居た校舎の2階だ。
こんな隣の校舎の屋上まで来てしまえば次の授業には確実に間に合わないがそんな事より俺はあいつに聞かなければいけないことがあるんだ。
前回の続き。少しなら話してあげると言ったまま終わった会話。
サボりの挙句立ち入り禁止の屋上に侵入だなんてバレたら反省文だなこれと思いながら俺は屋上のドアノブを捻った。
「あれ、奇遇だねー」
「君もサボりかい?」
俺に気がついた莉犬が言う。
「ちげーよ。いや違わないけど、」
「向こうの廊下からお前が見えたから」
「あれ俺に会いたくなっちゃった?」
「違うわあほか」
まぁそうだよねーと言いながらくるくると回るそいつ。
落ち着きねぇな。
「なにしてんだよこんなとこで。立ち入り禁止だろここ」
莉犬は目を2回ほど瞬きさせた後ポケットに手を突っ込んで鍵を取りだした。
「ふっふっふ俺にはこの合鍵があるのです。こうちょーせんせーの持ってるマスターキーの合鍵♡」
「どこでも入りほうだーい!!」
「いやそういうことじゃなくて」
掴みどころが無さすぎる。
なんなんだこいつは。
「…うーんそうだね、けどまぁそんなことはどうでもいいんだ」
「君がここに来た理由を当ててあげよう」
「前回の話の続き。だろう?」
「まぁ…そうだけど」
得意気な顔。
「…生憎俺には時間が無くてね。何度か来ようとはしたんだけど難しかったんだ」
「まずは何から聞きたい?全てを答えられるわけではないけれど、答えられる範囲でなら答えてあげよう」
改めて何をと聞かれるとむずかしい。
望んでいるのはすべてだ。
出会ってからこいつが俺に放った言葉の全て。分からないことも聞きたいことも多すぎる。
「…困っているみたいだね。まぁ無理もない」
「じゃあ君が聞きたいことの整理がつくまで少し違う話をしよう」
「…君は輪廻転生を信じているかい?」
輪廻転生?
「人は何度も生死を繰り返し生まれ変わると言われている。人は死ねば六道と言われる6つの世界のいずれかに生まれ落ちる。」
「生前の記憶を持った人間は何度か発見されている。地獄、餓鬼、畜生この3つが三悪道と言われているけけど人間界から人間界へと再び生まれ落ちた時生前の記憶を持ったまま生まれ落ちてしまった人間は何を思うのだろうね。」
「もし俺がその立場であればこの目に映る世界は三悪道の世界と大差ないと思うんだ。」
「この輪廻転生の枠から外れる為の教えはいくつかあるけれど死んだ後のことなんて誰にも分かりやしない。教えを守ったとしてこの苦しみのループから外れられるとは限らない」
「何が言いたいんださっきから」
なぜ今俺は世界史で習った覚えのうっすらある宗教の話をされている。
「信じたいものを信じればいいということだよ。この国で死ねば人はその大半が燃やされて灰になる。土に還るだけなんだ。」
「100年生きた人間はいるけれど200年生きた人間は存在しない」
「…それとお前の存在になにか関係があるのか」
「あるかもしれないしないかもしれない」
「俺は君を知っているけれど君のことをあまり知らない。」
「君は君だけれど君じゃない」
「もしこの輪廻転生が本当だとしたら君はそれを素敵だと思う。」
頭がこんがらがってくる。さっきからこいつは一体なんの話をしている。
「整理が着くまでとは言ったけれど余計混乱させてしまったみたいだね」
「君に会えたのが嬉しくてつい話しすぎてしまったみたいだ」
まただ。
前回あった時もそうだった。恋人になる人だと言った時も今話をしている時も。
何かに怒りと悲しみを覚えているようなそんな表情を覗かせている。
誰に対して。
俺に対して?
「なぁもう1回聞いていいか。俺とお前は前回が初対面だよな」
「そうだよ」
当たり前と言った顔で即答をする。じゃあ俺が思っていること顔に出やすいという話は一体どこから来たんだ。
「君は何も悪くないんだ。ただね。俺は約束を破られてしまったみたいだから」
「はぁ、」
「その意趣返しを君にしているだけだ」
「とんだとばっちりじゃねぇか」
「そうだね、。」
「……無理なら構わないがひとつお願いを聞いてくれないか」
「なんだよ」
「俺に膝枕をされてくれないか」
「はぁ?なんで」
「お願い。1度でいいんだ。」
「…いいけど、なんで」
「理由はまだ聞かないでくれ」
地べたへと座り両手を広げ俺を待つ莉犬。
仕方ねぇなとその膝へ頭をのせた。
優しく頭を触られる。
何を考えているのか気になって目線だけを彼へと向けた。瞳が揺れている。どこか懐かしむような顔で俺をみていた。
なにか見てはいけないものを見てしまった気がして目線を外し目を閉じた。
俺はそのまま眠ってしまった。
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こういう話も書くの楽しいです(՞ ܸ. .ܸ՞)︎
あと3話くらいで完結したいな。