テラーノベル
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若干の寒気を感じて目を開けた。
流石に夏とはいえこんなむき出しで外で寝ていたらそりゃ寒気もする。
今何時だと腕時計をみた。
あれから1時間ほど眠ってしまっていたらしい。
今は昼休みの時間になっている。
そして俺を膝枕したまま眠りこけているこいつ。
「起こすか、」
こんなところに放置して風邪でも引かれたら目覚めが悪い。
「おーい起きろ」
「….んぅ、」
なかなか起きないなこいつ。
先程よりも強く肩を揺らすとその目が控えめに開かれた。
「もう…なぁに、、、」
「風邪ひくぞ」
開かれた目と目が合い何度か瞬きを繰り返す莉犬。
「……..ん、さとみくん、、」
「は?」
「…あれ、ここどこ。なんでさとみくん髪黒い…、」
辺りをキョロキョロと見回している。
「何言ってんださっきから。学校だろここ、」
「あとさとみくんって誰だよ」
本当に何を言っているのか分からないという顔で俺を見る。
「…..あ、そうか、君か。」
何かに気がついた様な莉犬が小さく声をもらした。
なんだよそのがっかりしたような反応。
「さとみくんって誰?友達?」
「….」
初めて誰かを名前で呼んでいるのを聞いてふと思う
「ていうか莉犬お前俺のこと名前で呼ばないよな」
「….そうだね。」
その場を立ち上がり莉犬は歩き出す。
「君はそろそろ教室へ帰った方がいい。」
「あ、おいっ」
「またすぐ来るよ」
そういい屋上を去っていった。
さとみくん….
そう呼ばれてなんだか少し懐かしい気がしたのは気のせいだったのだろうか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「また来たよ」
すぐ来ると言った翌日あいつは本当にすぐに来た。
「なんでお前家知ってるんだよ」
今日は休日だったので一日中ゲームでもしようと早起きをしたらこれだ。
「言っただろうすぐに来るって」
「だとしてもだろ」
「まぁまぁそんなことはいいんだ。ほら早く出かける準備をしてくれ。」
「おいなんだよ急に。俺には今日大事な予定があるんだよ」
「一日中ゲームをするっていう予定だろう?そんなものとは思わないが俺には時間が無くてね。いいから早く着替えてきてくれ」
なんだよ昨日から時間が無い時間がないって。
これは折れてくれそうにないと仕方なく出かける支度をした。
「はぁ…お待たせしました」
「よしじゃあ行こう」
彼に引かれバスに乗り電車を乗り継ぎ着いた場所は家から遠く離れた場所だった。
「は、?ここどこだよ」
「思い出の場所だよ。もうすぐ着くから」
そういい連れて行かれた場所は海が綺麗に見える砂浜だった。
年季の入った2人がけのベンチ。
薄ピンク色のペンキで着色されていたような後があるがほぼ剥がれかけている。
なんだか懐かしい。
「どうしたんだい急に足を止めてって、、」
「なぁ俺ここ来たことある気がするんだけど」
「そうか」
「でもいつなんで来たのか、」
「…そうか」
「もう少し海に近づいてみようか」
そう差し出された手を握り返した。
その姿が誰かと重なる。
「なぁ俺らってあの日俺が部活で休憩中の時が初対面だよな。」
「そうだと言っているだろう。何故君は何度も同じ質問をする」
前を歩く莉犬の顔は見えない。
その赤い髪が風に吹かれ揺れている。
「わかんねぇよ。ただ初対面な感じがしないっていうか…」
「そうか、」
海に近づいていく。
だんだん音が大きくなって行った。
「なぁなんで俺の名前を呼ばないんだ」
足が止まる。
握られた手が解かれ離れていく。
「さぁなんでろう。けれどそんなこと今はどうでもいいんじゃないかい」
「また逃げるのか」
「逃げていない。君と違ってね。」
「だから」
「だから?なんだい。」
力強い物言いに反論する気が失せる。
莉犬はそのまま続けた。
「君は君だけど君じゃない」
「…以前輪廻転生の話をしたね。覚えているかい?」
「あれは魂の容器だけが移り変わり魂自体は変わらない。消滅しないという原理だ」
「200年以上生きた人間は居ないと言ったけれど魂換算すれば200年などという月日はとっくにすぎている。それは君も例外じゃない」
「なんの話を」
「何故名前を呼ばないのかと君は言ったね。そもそもの質問だが君は何故俺が君の名前を知っている前提で話をしている。知らないという線は考えなかったのかい?」
確かにそうだ。
けれどあんな登場の仕方をして名前を知らない事なんて考えにくいだろ。
「なんでって、」
言葉に詰まる俺に 莉犬はため息を1つこぼした。
「….いや。今のは意地悪がすぎたね。君の名前はもちろん知っているよ。ただ呼ばないのは俺の心の問題だ」
「1人の人間に固執するほど俺は弱くなってしまったらしい」
「遠くまで来たんだ。せっかくだからもう少し歩こう」
俺の方へと1度も目を向けないままで再び彼は歩き出した。
その手は繋がれないまま。
「風が気持ちいね。夏の風だ。夏が始まってしまったね。また春に会えるのは半年も向こうだ」
「海は夏のイメージが強いけれど冬に来る海もなかなかいいものだよ。けれど1番好きなのは冬の終わりごろ。春の始まりの海だ。」
「君髪をピンクに染める予定は無いのかい?君は顔が綺麗だからきっとよく似合う。」
俺の返答を聞かぬまま次々と紡がれる言葉。
どれほど歩いたのだろうか。きっと相当な距離を歩いている。
最初見たベンチが見えなくなる程に。
「君を見つけるのに時間がかかってしまった。俺にはもう時間が無い。」
空を見あげている。一体何を見ているのだろうか。
彼はくるりとこちらを向いた。その左右色違いの双眸と目が合う。
「今日でさよならだ」
「今日は散々振り回して悪かったね。と言っても海に来ただけだけれど」
「…帰りの電車賃はちゃんとだすよ。ただ1人で帰ってくれ。生憎1人分しか残っていなくてね」
「は?何言って」
「今どきスマホがあれば帰れるだろう。行きに辿ったルートを逆向きに辿ればいい」
1人分しか残って無いって。行く時散々お金は俺が出すから安心してくれと言っていたくせに。
こんな海に1人置いていける筈がないだろう。
時期に日は落ちる。
「俺は帰んねぇからな」
「何故?君は明日今日俺のせいでできなかったゲームをするべきだ。もうここをでないと今日中に家に帰られなくなる」
「見知らぬ場所に連れて行かれて1人で帰ってくださいは鬼畜だろ」
「大丈夫君は帰り方を知っている。」
「そういう問題じゃねぇよ」
「ほら行くぞ」
腕をつかんで駅へと向かう。
「お金が無いと言っているだろう」
「信用ならなかったんでね一応持ってきてんだよこっちは。黙ってこい」
「君は相変わらず強引だね」
「あんなやり方で俺が1人で帰ると思ってるのが馬鹿だろ」
「…そうだね」
いつも回り続けるその口が、帰りの電車内では1度も動かなかった。
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