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#異世界
あのち
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#探偵
橘靖竜
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炎の向こうから、さらに二隻の船影が現れた。
夜の海を裂くように近づいてくるその船は、やがて味方の旗を翻した。
二番艦《デッセゼニー》、三番艦《ホワイトボアー》。
艦を預かるのは、若き航海士ネルソンと、老獪な私掠船乗りドレイクだった。
エンドア周辺の偵察に出していた船である。
二隻は焼け落ちる船の明かりを目印に、カルド艦隊へと合流した。
エスカリオの港を出たカルド艦隊は、わずか三隻、総勢百名。
兵の多くは農民あがりか、没落しかけた下級貴族の子弟だった。
だが、皆若かった。
最年長でも二十二。
負け癖のついた老兵はいない。
若い連中のいいところは、失うものが少ないことだ。
そして、奪える未来だけは山ほどあることだった。
あるのは、行き場のない怒りと、向こう見ずな野心ばかりだった。
カルドは脱出の混乱の中で、もともとリチャードが建造させていた艦と、
戦争のために集められていた傭兵たちを丸ごとかすめ取った。
いや、かすめ取ったというより――口説き落とした、というほうが近い。
王は死んだ。
ならば、次に賭ける相手を選べ。
そう言って、若い兵たちを船に乗せたのだ。
さらに書類を偽装し、残っていた軍資金も処分した。
のちに港へ踏み込んだ役人たちは、
「リチャードの金は戦争ですでにほとんど尽きていた」
と判断するほかなかった。
領地も財産も、大きなところはヘンリーに接収された。
カルドにも一応、横領と逃亡の罪はかかった。
だが、しょせんは身分の低い小僧の仕業。
新政権にとっては、わざわざ追うほどの獲物ではなかった。
カルドは一度、目を伏せた。
炎の揺らぎが、その顔を赤く染めている。
「……成り行きだ」
ぽつりとそう言ってから、顔を上げた。
「悪かったな」
誰に向けた謝罪か、自分でも分かっていないような声だった。
だが、次の瞬間には、もう別人のように言い切る。
「カルド商会を立ち上げる」
一拍、置く。
「――だがその前に、あの町から東エンドア株式会社の連中を追い出す」
甲板に、ざわめきが走る。
「親分……」
ドレイクが低く言った。
「相手は従業員三千人の大商会ですぜ」
「軍艦だって持ってやす」
現実を並べる声だった。
脅しでもなく、ただの事実だ。
カルドは肩をすくめた。
「でもやるよ」
軽く言った。
あまりにも軽く。
「お前だって、あの子見たらそう思うよ」
その一言で、空気が変わる。
ドレイクは何も言わない。
言えなかった。
カルドは笑った。
「偽善だよ」
そして、静かに言い切る。
「――戦争だ」
翌日――
カルドたちは街に踏み込んだ。
拍子抜けするほど、あっけなかった。
エンドア株式会社の駐在員たちは、
三隻の船影を見た瞬間に動揺し、
戦うこともなく逃げ出したのだ。
もともと、彼らは商人だ。
戦う理由も、命を懸ける覚悟もない。
街は、ほとんど無血で解放された。
だが――
占拠を終えたカルドの前に、
今度は街の有力者たちが現れた。
「どうか……乱暴はおやめください」
彼らは頭を下げ、懇願した。
誰に従えばいいのか分からない目だった。
カルドはしばらく黙っていたが、
やがて一つ命じる。
「村の女の子たちの証文、全部集めろ」
ざわめきが走る。
借金の証文、売買の契約書、
逃げられないよう縛り付けるための紙切れだ。
それらは広場に積み上げられ、
火がつけられた。
炎が立ち上る。
誰も声を出せなかった。
カルドはそれを見ながら、ぼそりと言った。
「工場も燃やしちまうか」
「もったいねーんじゃないですかい」
ドレイクが即座に返す。
「……そだな」
あっさり引いた。
その軽さに、誰もが戸惑う。
やがて、有力者のひとりが恐る恐る口を開いた。
「これから……私たちは、どうすればよろしいのでしょうか」
カルドは振り向きもせず言った。
「好きにすればいいんじゃねーの」
「みんなで決めろよ」
沈黙。
誰も動かない。
決める、ということが
彼らには一番難しかった。
その様子を見て、カルドは少しだけ眉をひそめた。
そのとき――
マルコスがそっと耳打ちする。
「旦那……ここ、ずっとエンドアに支配されてた町でさぁ」
カルドはようやく、振り返った。
この国の“現状”を、初めて知ることになる。
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