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「……最悪」
翌朝、私は鏡の前で絶望していた。
ワイシャツの襟元から覗く首筋に、はっきりと残る赤い痕。
冬馬先生に深く噛みつかれた場所が、まるで彼に所有されている証のように、熱を持って主張している。
私は絆創膏を貼り、その上からスカーフをきつく巻いて医局へ向かった。
(もし誰かにバレたら……。特に、昨日の佐々木先生に。ううん、それより冬馬先生にどんな顔をして会えばいいの?)
心臓が落ち着かないままデスクに座ると、背後から音もなくあの男が現れた。
「……海老名。おはよう」
低く、少しだけ愉悦を孕んだ声。
振り返ると、冬馬先生がコーヒーカップを片手に、私の首元をじっと見つめていた。
「お、おはようございます、冬馬先生。本日の外来患者数は……」
「今はそんなものはいい。……そのスカーフ、昨日はしていなかったな」
先生は私のデスクの端に腰掛け、至近距離まで顔を寄せてきた。
周囲には他の事務員もいる。
私は必死に、平静を装ってタブレットを掲げた。
「あの、少し喉が痛くて……冷えないように、してるんです」
「ふうん。……診てやろうか?」
先生の手が、私のスカーフの結び目に伸びる。
その指先が、わざとらしく絆創膏の上を掠めた。
「ひゃっ……! い、いいです。お忙しいでしょうし!」
「……遠慮するな、あとで俺の部屋に来い。その『喉の痛み』に効く薬を処方してやる」
意地悪く目を細めてそう言い残し、彼は外来へと向かっていった。
残された私は、同僚からの「冬馬先生、海老名さんにだけは当たりが強いよね」という言葉を
適当に受け流しながらも、一日中生きた心地がしなかった。
夕方、指示通りに研究室のドアをノックする。
入った瞬間、私は腕を引かれ、ソファに押し倒された。
「っ……、先生!」
「喉が痛いのは、嘘だろう?」
冬馬先生は私の膝の間に割り込み、手際よくスカーフと絆創膏を剥ぎ取った。
剥き出しになった痕を、彼は満足げに親指でなぞる。
「……綺麗だ。俺がつけたものだけで、お前を埋め尽くしたくなる」
「……先生、変です。ドSなのは噂で知ってましたけど、こんな……」
「変? そうかもしれないな。お前のことになると、冷静な外科医ではいられなくなる」
先生はそう言って、今度は昨日よりも優しく、その痕に唇を落とした。
お仕置きのような激しさと、熱烈な愛撫。
その両極端な体温に、私はもう、彼の手から逃げ出す方法を忘れてしまっていた。
「海老名……。今夜は、帰さないと言ったらどうする?」
そこには、眼鏡を外し、熱い瞳で私を見下ろす冬馬先生がいた。