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白山小梅
12
「……この絆創膏はなに?」
首に貼られた大きめの絆創膏を指でなぞると、柴崎の肩が微かに揺れた。それに、耳が僅かに赤らんでいる。その反応、普通に可愛いわ。
「柊の噛み跡がまだのこってるから、隠してるの。ていうか、なんでいつも噛むわけ?」
「……美味しそうだから?」
「そうですか。柊にとって、あたしは食用だったのね」
「そういうこと。誰にも食べられんなよ」
「意味わかんない。どういうことよ。はい、わかりました〜って、素直に言うわけないじゃん」
初心なのか、慣れているのか、冗談なのか。ちょっと分かりづらいけれど、この反応を見る限り、どうも本音らしい。
くすくすと微笑んでいれば、口を尖らせた柴崎がこちらを見上げる。
「……それに、柊だって、狙われやすいじゃん」
「は?なにが?」
「さっき、というか……水着選んでる時、ね?」
水着選んでる時、と言われ、瞬時に脳内スクリーンにそのシーンを映し出す。そういや、あのとき、急に機嫌悪くなったな?
水着が原因だと思っていたけれど、その割に買ってくれてるし、柴崎の場合は照れがツンに直結してるってわけか?いや、違うだろ。
「水着選んでる時?」
勝手に推測を立てても埒があかないので、真相を手招く。
理由が判明するのは、意外とすぐだった。
「誰かと、会った?」
そのひと言で、ぼやけていた理由が、はっきりとした輪郭を形作る。
なるほど、あいつを見たっつーこと。それで拗ねたってわけね。
「会ったような…?」
敢えてあやふやな解答を告げると、柴崎は「会ってた!!」と、肩パンしてくる。細いくせに、意外と痛い。
「ほっぺに、こう、ぶちゅーーって、されてましたよね!?」
うん、されたな。
はっきりと覚えているけれど、正直に言うのも味気ないと言うもので。
「あ〜……されたような?」
「されてたでしょ!」
「覗き見?柴崎のえっち」
「ちがう!柊のこと、呼びに行こうと思ったらたまたま女の子と目が合って…それで…」
柴崎の視線が逸れるので「それで?」と催促すればその瞳に力が蘇る。
「というか!店内でほっぺにちゅうなんかされないでよ!周りの迷惑でしょう!?」
いや、そこかよ。言うべきことも、叱るとこも他にあるでしょうに、柴崎にとって今、重要な部分はここなのか。
「聞いてる!?」
や、聞いてるけど。柴崎は論点が別方向に歪んでいることすら気付いていないらしい。
「聞いてる。じゃあ、店内じゃなきゃ良いの?」
「良いわけないでしょ!?あたし以外の誰にも触らせないでよ!」
さらっと聞かされた本音ってやつは、またしても破壊力がえぐいので、「ふは」と笑うと、目の前の女の子はお気に召さなかったらしく、わなわなとくちびるを震わせた。
でも、それも一瞬のうちに消えた。
「やっとホントのこと言った。 柴崎、俺の交友関係何も口出ししてこないし、顔にも出さないし、さすがに心が広すぎだろって思ってたわ」
さっきも、他の女見るなとか言ってたし、実は独占欲発揮してくれてるのね?と、勝手に自己満な解釈をすると、柴崎は濡れた視線をこちらに寄越す。
「……あたし、愛情表現ってやつが苦手らしくて?俺の事、好きじゃないだろって言われて毎回振られるんだけど、全然そんなことないもん」
「まあ、苦手っつうか下手っぽいもんな」
「うん。でも下手なりに、柊にはちゃんとやきもち妬くよ」
嫉妬とか、独占欲とか。
いつも、煩わしいだけで、執着を見せられると逃げたくなっていた。
でも、柴崎から向けられるそれに全く嫌悪感はなくて、むしろ、わりと……いや、かなり嬉しいって思う俺はけっこう単純だ。
……てことは、今日ずーっとモヤモヤを残しながら過ごしていたっていうのか。
柴崎がみたっていう女……と言うか、あのオトコはルイだ。
あいつは今日、女としてデートをしていたらしく、彼氏の水着を選んでいただけである。普通に彼氏と一緒だったのさえ気付かないほどショックだったってわけ?
目が合ったって言うのは、ルイが揶揄っただけだろう。合コン中、ルイと柴崎はベタベタしてたから、ルイには付き合ったこと真っ先に報告した。
しかし、今本当のことを言っても信じてくれないだろうし、さて。
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