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長きにわたり”人”と”鬼”は敵対してきた。 しかし大戦の末、和平のために結ばれた一つの政略。それが、【人の姫】と【鬼の王】の婚姻だった。


❀❀❀


凛蘭王国りんらんおうこく

海からなる広大な国土を持つ大国だ。

私はそんなこの国の第一王女である。



早朝。

いつもより早く目が覚めてしまった私は自室の窓を開けて、心地良い朝の空気を感じていた。


「気持ちいい風ね」


窓から見える外の風景を見ながら、私は昨日のことを思い出し始める。



『美月、お前には鬼の国の王の元に嫁いでもらう』


凛蘭王国の国王であり、私の父親でもある久遠くおんから呼び出された私が玉座の間に着き、国王久遠が座る席の前へとやって来るなり、私は陛下からそう告げられた。


『鬼の国にですか……?』

『ああ、そうだ』


鬼が住まう鬼の国【神月】かみつき

かつては人と敵対していた鬼であったが、和平の条約として長きに渡り、人の国の姫が鬼の王の元へと嫁ぐ。ということで、平和は保たれていた。


正直、和平の条約であったとしても、嫁ぎたくないと思ってしまう。


だって、私には思いを寄せている人がいるから。というのが私の本音であるが、そんなことは口が裂けても言えないので、私は『わかりました』と頷くしかなかった。



「今日は明日の準備で忙しくなりそうね」


明日、私は鬼が住まう鬼の国【神月】かみつきの王の元へと嫁ぐ為、この凛蘭王国を出る。


不安と恐怖は勿論あるが、この婚姻によって、鬼と人の国の平和は保たれているのだ。

私が王族として生まれてしまった以上、この婚姻を拒否することなど私には出来ない。

私が好きだと思う人とは結ばれることはないのだから。


そんなことを思いながら、私が窓から見える風景を見ていると、朝の心地良い風にやって、そこまで離れていない目に前にあったピンク色に色付いた桜の木が揺れた。


吹いた風によってひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。

「綺麗ね……」


私は舞い落ちる桜の花びらを見つめながら、朝の空気が入り込む部屋で一人呟いた。


❀❀❀


 麗らかな昼過ぎ頃。

 私は王城の中庭を護衛であり、幼い頃からの付き合いである幼なじみである黒髪の青年。

 春日千明かすがちあきと共に歩いていた。


「姫さま、いよいよ明日、行ってしまわれるよですね……」

「ええ、こうして貴方と他愛のない会話をしたりすることも出来なくなると思うと寂しく感じるわ」

「そうですね、私も姫さまと同じ気持ちです」


 千明はそう言い寂しげな笑みを溢す。

 幼い頃から、ずっと、護衛として私のことを守ってくれて、幼なじみとしては側にいてくれた。私の大切な人。


 私はそんな千明のことが好きだった。

 鬼の国の王の元に嫁ぐのはなく、ずっと隣に居てくれた幼なじみであり、私の護衛である千明の元に嫁ぎたかった。


 でも、それは叶うことはない。

 私はこの国の姫であるのだから。


「千明、これまで私のことを守ってくれて、側にいてくれてありがとう」


 隣にいる千明にそう伝えると、千明は真剣な眼差しで私のことを見てくる。


「はい、あの、姫さま。一つ約束して欲しいことがあるんですけど、いいですか?」

「ええ、何かしら?」

「何か辛いことや、逃げ出したくなるようなこと、寂しくなることがあったら、俺のことを思い出すことを約束して欲しく思います。俺は離れていても、姫さまの味方ですから」


 千明から言われた言葉に私は強く頷いた。


「ええ、約束するわ。ありがとう、千明」



 その夜。

 私は中々、寝付けず自室の部屋のベランダに出て、夜風に当たりながら星々が瞬く夜の空を見上げていた。


「綺麗な夜空ね」


 もう、凛蘭王国からこの夜空を見ることもできないのだなと思うと寂しい気持ちが湧き上がってくる。


 鬼の国である【神月】かみつきはどんな国なのだろうか。

 私は鬼の国で上手くやっていけるのだろうか?


 沢山の不安を抱えながら、私は星が瞬く夜空に背を向けて、部屋の中へと入ったのであった。



         ❀❀❀


 翌日の朝。

 私は陛下にお兄様。護衛の千明に見送られて、王城の正門に止まっていた馬車へと乗り込んだ。


 私が馬車へと乗り込んだのを御者の中年の男は確認し、数秒後、馬車はゆっくりと動き始めた。


 ガタン、ガタン、という馬車の車輪の音と共に私を乗せた馬車は王城の正門を潜り、王城を出た。


 私は振り返り、馬車の後ろの窓から見える陛下やお兄様。千明の姿を見つめる。

 徐々に遠くなっていく家族と大切な幼なじみの姿を自身の緑の瞳に映しながら、私は泣きそうになるのを堪えた。



 王城を出てから少し経った頃、私はようやく心の落ち着きを取り戻し、馬車の窓から見える空を見上げた。


「今日は曇りね……」


 空は薄暗く、今にも雨が降りそうである。

 私はそんな曇った空から目を背けた。



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