ヲズワルド
…好きに呼べばいい
葉菜はオレをヲズワルドと呼んだ。
どこかボロボロのそいつは、壁にもたれかかってだらしなくゆっくりとしゃがみ込み、突如と現れたオレに向けぽつぽつと何かを話しだした。
その日、黒くてウサギっぽいからと、ディズニーにいるキャラクターになぞらえて”ヲズワルド”と名付けられた。
「ねぇ、ヲズワルド…私が全て悪いのかな。友達なんて居ないんだよ…表向きは居ても関係は偽物なんだよ…友達なんて私には居ない…皆偽物だ…」
青い傘の中で葉菜は口元を静かに動かした。目は深く沈んでいる。靴はぐっしょりと沈み、制服のスカートは重そうに地面に付いていた。
「こんな心理テストを知っているか?嫌いな動物がいたとして、そいつの嫌いな所を具体的にあげてみろってやつ。あがった嫌いな所はまさに自身の悪い所である。というのが心理結果さ。つまり…」
「つまり、偽物っていうのは私自身を表しているようなものってことなんだよね。分かってるよ。」
「そうさ。…友達との関係が偽物だなんて一体何処に根拠がある。お前の中にある物差しだけで測るんじゃない。まだ未熟なんだから。それはお前の思い込みみたいなものだ。一部は偽物かもしれないが、全員との関係がそうであるという訳ではない。」
深く傾けられていた傘がゆっくりと動き、オレを両腕で抱きかかえ、立ち上がった。一気に視界が広くなる。ずっと屈んでいた為か、葉菜は軽く太ももをさすった。
「でもさ、私はまだ中学生で子供だから、大人からすれば、下らない考えだって言うんでしょう。暇をもてあそぶからそんな下らない考えをするんだって言うんでしょう。どうして”皆”そんなことを言うのかなぁ。」
「”皆”じゃない。本人達に聞いた訳でもないのに…お前自身の声みたいなものだ…」
「いいや皆そんなこと考えてるよ先生も親も…私を子供っていう括りでみるんだ。物みたいに私をみるんだ。あいつまた泣いてるよっていう目でお母さんは私を見たじゃん。」
辟易とする強い雨の中、葉菜は再びしゃがみ込みうずくまった。
「意味わかんないよ..どうせこんな気持ちもなかったことにされるんだ…私が今つらく考えていることなんていずれ忘れられる…私が大人になったらもう幼い頃の私なんて殺されるんだ…」
強く抱きしめられる。布が水を吸っていて、居心地が悪い…がここは我慢。
「一体私は何処へ行くんだろう…大人になったら私何処へ行っちゃうんだろう…今の私なんて消されるんだろうね。」
葉菜は何かを諦めたかのように軽くはにかんだ。
葉菜は再び立ち上がり歩き出した。
「ねぇ、ゴールデンウィーク始まったね。学校休みで嬉しいな。何処へ行こうか。いや、塾があるんだった。何処にも行けないね。でも別に辛くはないよ…塾。だって行くのが当たり前みたいに日常の一部になってるし。…勉強モードになるから余計なこと…家にいるより考えないし…」
雨音が心地よい。
「ヲズワルド…君がそばに居るのなら私は大丈夫…そんな気がする。私が求めているものは、本当はいたってシンプルで身近にあるものなのかもしれない…」
ふと、見上げると葉菜はこちらを見ていた。
その瞳からは優しさが滲んでいたのだ。
コメント
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す、好きです!!世界観がとっても素敵です!
投稿ありがとうございます🙇♀️🙇♀️ 酷ながらも、前を向かせてくれるお話で、心にジーンと来るものがありました。 最後の一枚の写真で見事に心を掴まれて、このコメントを書いている最中も、余韻が抜けきれていません…😌