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竜崎
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起立。礼。着席。
「うわー終わった……」
返却された答案用紙を見つめながら、陽向が机に突っ伏す。
「今回むずくなかった?」
「いや普通に無理」
「それな〜」
あちこちから、似たような声が上がる。
「……」
こはるは、自分の答案をそっと二つ折りにし、机にしまった。
「こはるどうだった?」
紅葉と、絶望した表情の渚がこはるのところに来た。
「あ、えっと……」
特段良くもなければ、悪くもない点数。
「……まぁ、なんとか…って感じです」
「それ…絶対できてるやつじゃん……」
肩を落とす渚。
「まぁ、普段からちゃんとやっておきなってことだね」
渚の肩を叩く紅葉。
「で、でも、そんなにできたわけではないですよ?悪くはなかったって言うだけで」
困ったように笑うこはる。
「一応聞くけど……雪斗は?」
その話を聞いていた陽向が顔を上げて雪斗に聞く。
「いつも通りかな?」
「いつも通り……」
渚がボソッと呟く。
「入学してからずっと学年5位以内をキープしてる人のいつも通り……」
陽向も合わせて呟く。
「今回確かに難しかったのに、いつも通りって……ほんとすごいよね」
素直に褒める紅葉。
「……」
こはるは、雪斗の意外な一面に少し驚いていた。
「昔はサッカーばっかで、こっち寄りだったのに……中学の後半で急に部活をやめたかと思ったら、今度は勉強に走るんだもんな……しかもめっちゃ頭良くなってるし………医者にでもなりたいとか?」
渚が項垂れながら、恨めしそうに雪斗を見る。
「ん〜」
ほんの一瞬、間。
「まぁ、あながち遠くはないかな?」
「え、まじ?」
視線を逸らす雪斗。
「獣医」
小さく答える。
(へぇ……雪斗くん、獣医になりたいんだ)
こはるは、少しだけ目を細めた。
⸻
後日 終業式
校長先生の話は、どこか遠くに聞こえる。
(……)
(春休み……)
こはるは、窓の外をぼんやりと見ていた。
⸻
「終わったー!!」
教室に戻るなり、陽向が声を上げる。
「春休みだー!」
「なにする?なにやる?どこいく?!」
「とりあえず寝る」
「それはいつものことでしょ」
笑い声が広がる。
「あ……でも……」
渚がふと口を開く。
「2年になったらクラス替えもあるのか……」
「……」
少しだけ空気が揺れる。
「バラバラとか普通にありそう」
「えーやだなそれ」
「まぁ……その時はその時でしょ」
紅葉が静かに言う。
「……だね」
「……でも……そうなったら寂しいですね。」
こはるは、小さく頷いた。
(…せっかく、仲良くなれたのに)
「そう言えば、今更だけど」
渚がふっと笑う。
「こはるもやっと少し慣れてきたね(笑)」
「確かに、最初めっちゃオドオドしてたもんね」
「分かる(笑)」
陽向も頷く。
「なんかビクビクしてる小動物みたいな(笑)?」
「え?」
こはるは少しだけ目を丸くする。
「あぁ〜ん!せっかくこはるちゃんと仲良くなれたのにさ〜」
渚がわざとらしく肩を落とす。
「こはるちゃんと離れたくなぁい♡」
そう言いながらこはるに抱きつく渚
「私たちとは離れてもいいんだ」
「きも」
「ひどっ!?」
笑いが広がる。
「……でも確かに」
こはるが小さく呟く。
「え?」
「私、結構人見知りなので……最初は……ちょっとだけ皆さんのことも怖かったですけど……」
少しだけ顔を上げる。
「今は全然大丈夫ですよ」
ほんの少しだけ、照れたように笑った。
「やだ可愛い。こはるちゃん!私と結婚しよう♡」
「や、やめてください!」
小さく足を鳴らす。
「…あ、足ダン」
雪斗がぽつりと呟く。
「うさぎかよ!」
また笑いが広がる。
⸻
ちゅー
「春休みどうしようか?せっかくだし、みんなで何かしたいね」
ジュースを飲みながら言う紅葉。
「花の女子高生活!確かに何かしたいね。ってか、だんだん暖かくなってきたし、その前に服買わないと」
渚が言う。
「春服?」
「そうそう」
「そう言えば俺も新しいスニーカー欲しいんだよね」
「私もちょっと薄手の上着欲しいかも」
「俺は参考書欲しい」
「おい、なんか1人おかしい奴いるぞ。」
「じゃあもうモールでよくない?」
「確かに色々見れるし、みんなで行けるね」
「お、ナイスアイデア」
「じゃ〜決まりで!どうする?もう明日行っちゃう?!」
「……」
こはるは少しだけ遅れて、
「……私も行っていいですか?」
そう言って、小さく頷いた。
「もっちろん♪最初からそのつもりだよ!」
みんなが笑ってこはるを見ていた。
⸻
ショッピングモール。
「うわ、人多っ!」
「春休みだし、親子連れも多いね」
「なんでこう……人混みを見るとテンション上がるんだろうな」
「分かる」
明るい空気とざわめきに包まれる。
「とりあえずどうする?」
「服見たい!」
「私も」
「んじゃ、先に服を見にいくか」
「了解」
「……」
こはるは周りを見回していた。
(……広い)
(人も多いし……)
少しだけ緊張した様子で、紅葉の後ろに自然とつく。
「こはる、大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
「迷子にならないようにね」
「なりませんよ!」
笑いながら、みんなで服屋・靴屋・本屋へと足を運ぶ。
気が付いたら、お腹の空くいい時間に。
「腹減ってきた」
「確かに、混む前にフードコート行こうか」
そう言いながらみんなでフードコートに向かう。
「うっひょ〜!何食べよう」
「お店が多いと迷うよね〜、私もどうしよう!」
目を輝かせる陽向と渚。
空いている席に荷物を置いた紅葉が2人に目を向ける。
「私ここで席とって待ってるから、先に買ってきていいよ」
そう言って椅子に座った。
「私、ドーナツにしようかなと思うんですけど、何か買ってきましょうか?」
「あ、ほんと?お願いしていい?」
「大丈夫ですよ!」
「俺は久々にハンバーガーでも食べよう」
「俺はラーメンにしよ!中々店のラーメン食べれないしな!!」
「あ、私もラーメンにしよう!」
⸻
各々が食べたいものを買いに行き、再び席に集まった。
「うまっ!」
「やっぱり店のラーメンは美味しいよね!」
「紅葉さんもどうぞ!」
「あ、ありがとう。」
そう言ってドーナツを渡すこはる。
こはるも一口食べて、
「……美味しい」
小さく呟いた。
そうしているとハンバーガーをトレーに乗せた雪斗が席についた。
「めっちゃ混んでた……」
「子連れが多いと混むもんね」
「それを早く言ってくれ……」
「お疲れ様です」
こはるが雪斗にニコッと微笑んだ瞬間——
「……」
こはるの動きが止まった。
「……?」
ゆっくりと立ち上がる。
「どうしたの?」
突然立ち上がるこはるに渚が声をかける。
こはるは、周りを見渡していた。
ざわめきの中で、
何かを探すように。
「……」
ざわめきの中に、
かすかな泣き声が混じっていた。
「……」
目の動きが止まった。
「ごめんなさい……」
そう言ってドーナツをテーブルに置くと……
「ちょっと行ってきます!」
人混みを掻き分け、走っていった。
「え、ちょっ——」
「……なに今の」
「急にどうしたの?」
「……」
雪斗が立ち上がる。
「……見てくる」
「……私も」
紅葉も続く。
「え、ちょ、ラーメン伸びる!」
「2人は食べてていいよ」
そう言って走る雪斗の後を追う紅葉。
2人で目を合わせる陽向と渚。
「とりあえず食べようか……」
「そうだな……」
ラーメンを啜り始めた。
⸻
人混みを掻い潜り、
(……こっち)
音を頼りに進む。
メインの通りから少し外れたところ。
そこに、小さな子供が一人で泣いていた。
「……」
こはるはしゃがみ、目線を合わせる。
「……大丈夫ですか?」
「……ママぁ…………」
「……お母さんとはぐれちゃいましたか…おねえちゃん、お名前は?」
「グスッ……さくら………」
「さくらちゃん。大丈夫ですよ」
子供の頭を撫でながら、こはるは優しく微笑む。
「お姉さんがすぐ、見つけますから!」
そう言うと、こはるは一度ゆっくりと目を閉じる。
ざわめきの中で、音を探す。
(いるはず……)
「……」
(……きっと………)
遠くから、かすかな声。
「……ちゃーん!」
「さくらちゃーん!!」
(………!)
目を開く。
「……おかあさん、あっちにいますよ♪」
微笑みながら子供の手をそっと握った。
「歩けますか?大丈夫ですよ」
2人でゆっくりと歩き出す。
⸻
こはるを探す雪斗と紅葉。
「急にどうしたんだろうな」
「わからないけど、なんかいつもと違う雰囲気だったね」
そう言いながら吹き抜けの2階から下を覗くと…
「……ん?」
紅葉が呟く。
「……あれ、こはるじゃない?」
紅葉が指した先を見る雪斗。
「……あんなところに……」
「……?……子供?」
「迷子かな?」
子供の頭を撫で、そのまま子供と手を繋ぎ歩いていくこはる。
「迷子センターあっちだっけ?」
「いや、反対方向だったと思うけど……」
二人はそのまま後を追う。
⸻
「さくらちゃん!!」
母親が駆け寄る。
「ママ……!」
「よかった……!」
子供を抱きしめる。
「すみません……!本当に……!」
「いえ」
こはるは小さく首を振る。
「見つかってよかったですね!さくらちゃん」
母親は何度も頭を下げて去っていった。
「……」
こはるは、手を振りながらその背中を少しだけ見送る。
⸻
「……よかったね」
後ろから紅葉の声。
ビクッ!!
びっくりして振り向くこはる。
「え!?紅葉さん……と雪斗くん……いつから……」
「今追いついたんだよ」
「迷子?」
「はい。お母さんが無事に見つかってよかったです」
こはるは、にっこりと笑う。
「でも、よくお母さんの場所がわかったね」
「お母さんが子供を呼ぶ声が聞こえたので」
「この人混みの中?」
「え…すごっ」
驚く雪斗と紅葉。
「……じゃ〜………フードコートでは子供の泣き声が聞こえたってこと?」
「……?…そうですけど?」
「………」
「なんかさ」
雪斗が笑う。
「こはるって、ほんとうさぎみたいだよね」
「分かる」
ドキッとするこはる
「流石に耳良すぎでしょ(笑)」
「そ……そうですか?」
小さく首を傾げる。
「一件落着したみたいだし、戻ろ」
「そうだな。バーガーカピカピになってそう」
「その時は、私のドーナツ1つあげますよ♪」
3人で笑いながらフードコートへ戻って行った。
⸻
帰り道。
夕方の空は、少し赤く染まっていた。
「今日は楽しかったね〜」
「また行こうよ」
「いいね」
「……」
こはるは、少しだけ前を歩く。
(こはるって、うさぎみたいだよね)
雪斗の言葉を思い出した。
胸の奥が、ほんの少しあたたかい。
「……元……ですけどね」
小さく、笑う。
夕空に浮かぶ月を眺めながら、
こはるは、そうつぶやいた。