『約束だよ?』
チリンと風鈴がなった。
幼い声と夕焼けの空。ふわりと吹く夏風。どこか懐かしいような…そんな…
「なんだっけ」
そんな言葉で目が覚めた。夢でみたあの子供を、自分は知ってる。そんな気がした。真夏の朝、汗ばむような暑さだ。早朝、五時回る少し前。それでも太陽はもう昇り始めている。窓際には風鈴が吊るされている。
ここは小さな村。山の近く。中ニの自分はいつも電車にのって町の学校まで通学してる。
「葵、早く行かないと遅刻するよー‼」
一階から母の声がした。聞きなれた母の声。今行く、そうそっけなく返して、一階へ降りた。
「いってきます」
林の近くの道を自転車でこぐ。さあさあと風になびく木の葉が木漏れ日を揺らす。言ってみれば幻想的。けれど現実は物語のようにキラキラとはしていない。
駅は海の目の前で、朝一番の電車には自分以外に乗客はいない。村の住民は男は林業や農業、それか畜産。女は専業主婦のことが多い。故に朝の電車を使う村の人間などいないに等しかった。
今日も一人、プラットホームで電車を待った。蝉の声が、海鳥の声が、波のさざめきが夏を思わせた。
ー チリン ー
ふと、耳元で風鈴のような、鈴の音のようなそんな音が耳に入った。音が聞こえた方を見てみると、夏の半袖の制服を着た少女が駅のプラットホームに立っていた。目があった。普段なら、知らない人と目が合うと、直ぐにそらしてしまうのに、なぜだか目が離せない。
「こんにちは」
そう声をかけられた。びくっとして、こちらも挨拶を返した。
「電車に乗るの?」
それに頷くと、少女は私もだと言う。若干茶色っぽい髪はセミロングで、緩くカーブしている。手元には青と赤の金魚が装飾された風鈴があった。
「名前は?」
ふとそう聞いてみた。この村は小さい。自分が知らない村の人間はそこまでいない筈だ。
「…私の名前は、凪」
ふと間をおいて少女は言った。
「凪ちゃん?」
そう聞き返すと、呼び捨てで良い、とそっけなく返された。そして、君は?、と聞き返された。
「自分は葵。よろしく」
「葵かぁ…良い名前だね」
凪はそう笑った。見たところ、自分とおなじ学校ではないらしい。
『電車が到着します。黄色い線の内側でお待ちください』
しばらく世間話をしていた頃に、そんなアナウンスが流れた。自分と凪はこの電車で町の方まで行く。
電車で揺られている途中、1駅越えた所くらいから凪は一言もしゃべらずに風鈴を見つめていた。そしてさらに1駅を越えて、先に席を立ったのは凪だった。
なにも話さず、またねとも言わず扉の向こうに消えていった。
自分の降りる駅はその一つ先で、少し不思議な子だな、と言う印象を抱いてその日は登校した。
それからも、朝は凪と一緒に登校した。プラットホームで会って、他愛の無い世間話に花を咲かせ、電車に乗り、1駅越えると一言も話さない。
それが2ヶ月ほど立った頃だろうか、本を呼んでいて1つの話に目が止まった。
『丑三つ時』
なぜだか、この単語に惹かれた。目が離せなかった。真夜中、午前二時位。霊の出やすい時間帯だと言う。
自分は、霊などそんな馬鹿げたことを信じるような人間ではない。でも、なぜかそのことばが頭からはなれない。気になったらやめられない性格だ。だから、徹底的に調べあげた。
深夜、日も完全に落ちて夏のむわりのした風が頬にあたった。まさに丑三つ時と言う時間帯。ふらふらと村のなかを歩いていた。街灯は少なく、虫の声が五月蝿く感じる。霊などと言う、非現実的にも関わらず心を惹かれるそれをもしかして見られるかもしれないと思ってしまっている。
ー チリン ー
聞き覚えのある、風鈴の音。見えないが、なんとなく、そこにいるのはわかった。
凪だ。
「な…ぎ?」
声がかすれた。信じたくなかった。なにか聞こえる前に、風が吹く前に、逃げるようにして家に帰った。
大切な友達、凪はそんな存在で…
コメント
9件
なんでこんなに美味いんだよねーさんは!!!!ずるい!!