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洗面所を出て左に進み、階段を登って右に行く。そして次の角を右に曲がったところでリアムにぶつかった。反動で倒れそうになった僕の腕をリアムが掴み、後ろにいたラズールが僕の身体を受け止める。
「フィー!大丈夫かっ」
「ごめん…急いでたし前をよく見てなかった」
「ゆっくりとは言ったものの、遅かったから心配で迎えに行こうとしていた」
「第二王…リアム様。俺がついてますので大丈夫です」
「今は…だろ。結婚式が終わればおまえはイヴァルに帰れよ」
「帰りません」
「なんでだよ。おまえはイヴァルでは必要な人材だと思うぞ」
「他国の王子に指図される謂れはありません」
「ラズール!失礼だよっ」
僕は慌てて体勢を直して、ラズールを睨む。リアムと仲良くしてほしいのに、ラズールはどうしてこうも嫌な言い方ばかりするのかな。
「リアム、ごめん」
「気にするな。ラズールがフィー以外の命令を聞かないことはわかっている」
「よくおわかりで」
「ラズール!」
ラズールが僕から離れ、目をそらす。
今からリアムの伯父上に会うのに、その方にも失礼な態度を取らないかと心配になる。
でも…大丈夫か。ラズールがこのような態度を取るのはリアムにだけだ。たぶん僕を取られて悔しいからだ。普段のラズールは完璧な人物だから、安心して傍にいてもらえる。
僕は小さく息を吐くと「行こう」とリアムの隣に並んだ。
「ここだ」とリアムが足を止めた部屋の扉は、四隅に複雑な模様が掘られた、趣味の良い白い扉だ。イヴァルの王城は簡素ではあるけれど、扉や壁の模様に様々な色が塗られていた。僕はよく、その模様をぼんやりと眺めて呪われた自分のことを考えていた。
「フィー?」
「あ…うん。この城は全体に白くてキレイだね」
「伯父上の趣味だ。俺はもう少し派手にしてもいいと思ってるんだが」
「ええ?すごくいいと思うよ。僕は好き」
「そうか。フィーが好きならこれでいいか」
「ふふっ」
ボソボソと二人で話していると、中から「入って来なさい」と声がした。低いけど、とても穏やかな声だ。
リアムが「失礼します」と声をかけて中に入る。
僕もリアムの後に続き、立ち止まったリアムの隣に並んで顔を上げる。
部屋の中央に、茶色の髪に紫の瞳の、リアムによく似た壮年の男の人が立っていた。
「先にゼノから聞いていたが…リアム、無事でよかった。体調はどうだ?」
「大丈夫だ。驚いたことに兄上が助けてくれた。解毒薬ももらったから心配ない」
「そうか…」
目の前の男の人が、ホッと息を吐き出して微笑む。そしてそのまま僕の方に視線を移す。
「伯父上、こ…」
「は、はじめまして!フィル・ルナ・イヴァルと言います。お会いできて光栄ですっ…」
リアムが口を開くよりも早く、僕の方から挨拶しなければと慌てて噛んでしまった。
リアムが笑いながら僕の背中を撫でる。
「フィー、違うだろ?おまえはもう、フィル・ルナ・バイロンだ。前に二人で旅をした時には、フィルとしか名を知らなかったから、俺のリアム・ルクス・バイロンのルクスを使った通行証を作ったが」
「あ…そんなこともあったね。ふふっ、懐かしい」
「そうだな」
二人で笑いあっていると、「そろそろ話してもいいかな」と前から声がする。
僕は急いで背筋を伸ばし、リアムが「悪い」と謝った。
「はじめましてフィルさん。私はラシェット・ルクスです。お会いできるのを、とても楽しみにしてましたよ」
「…ありがとうございます。僕もです」
リアムの伯父様…ラシェットさんが、挨拶しながら手を差し出した。
僕がその手を握ると、硬いけどとても温かかった。それにラシェットさんは、リアムとよく似ていると思ったけど、近くで見ると違うかもしれない。柔らかくとても優しい顔をしている。
そう思って見つめていたら、ラシェットさんが、困ったように笑って首を傾けた。
「その美しい瞳で見つめられたら照れてしまうな。私はリアムと似てるかい?」
「え…?あっ、ごめんなさい…」
「いいんだよ。これからは私のことを父のように思ってくれたら嬉し…」
「はあ?何言ってんだよ!伯父上は伯父上だ。フィー、俺の親族のおじさんだと思ってればいい」
リアムがすごい剣幕で僕とラシェットさんの間に入り、すごい圧力で僕を見てきた。
僕は勢いに押されて思わず頷いてしまう。
ラシェットさんが苦笑して、リアムの頭をクシャと撫でた。
「おまえば相変わらず気が短いな。フィルさんの前では気をつけろよ?」
「わかってる…」
「あっ、リアムはいつも優しいですよ。僕の言うことも聞いてくれるし…」
リアムの頭に手を乗せたまま、ラシェットさんが目を大きくしてこちらを見る。
「ほう…?なるほど。おまえは好きな子には優しいんだな。そうかそうか。それを聞いて安心した」
「なにがだよ」
「リアム、よかったな。愛する人がいるということは、幸せだぞ?」
「知ってる」
「うむ。フィーさん、疲れただろう。夕餉までゆっくり休んでおいで。明日はとても良い日にしよう」
「はい、ありがとうございます…っ」
僕はラシェットさんに頭を下げた。
ラシェットさんは僕の頭も撫でると、「さて、礼拝堂の準備を見てこよう」と部屋を出ていった。