テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ある日、竜馬と宗一郎は、ビームスから2トントラックを借りて、フェンス工場まで行った
5メートルはある筒状に巻いてあるフェンスを、三個2トントラックの荷台に乗せる頃には、あまりにも重労働で、二人はそれだけでクタクタになった、竜馬も宗一郎もアンディ・ビームスからこの仕事を引き受けたはいいが、あまり幸先は良くないなと思っていた
今回の現場は、竜馬達の住むイリノイ州の南端にあるワイナリーだった、そこのワイナリーはとんでもなく広大で、紀元前に掘られた井戸から迸り出る地下水を引いたおかげで、広大な果樹園にはたわわに実ったブドウの木がひしめき合い、長くて薄暗いトンネルを作っている
そして、はるか遠くの地平線で、天と地が交わる所では、ひつじの群れが固まり、一枚の絵ハガキのようだ、その横には野ざらしのなんの動物かわからないような骨がうず高く積まれて、隣の放牧地には馬が楽しそうに遊んでいる
草原は緑に輝き、その奥にはハリーポッターに出てきそうな、うっそうとした森が青々と緑を見せていた
宗一郎と竜馬は途方に暮れた、全くの素人二人が、どうやってこの辺り一面に効率よくフェンスを張り巡らす事ができるのだろう、どうやってフェンスを張ったら、貧欲な野生の動物からブドウを守れるというのだろう、いったい作業を終えるのは何日かかるのだろう・・・二人は草原に立ち、風に吹かれ、しばらく言葉をなくした
「と・・・とりあえず・・・長さ測って・・・杭を打ち込んでいく?・・・」
「お・・・・おう・・・・そうだな・・・・」
それから二人は暗くなって現れだした蚊を叩きつぶすまで、作業を黙々と続けた、二人は疲れ果て、汗にまみれで、しつこくつきまとう蚊にうんざりしていた
「かぁ~っ!これいくら報酬が高くても二人じゃキツイぜ!」
「だから報酬が高いんじゃない?」
宗一郎の愚痴に、人の血を吸う昆虫を手で撃退しながら竜馬が答える
「でも・・・それじゃまたビームスさんの工場に戻るかい?お前絶対アイツらと喧嘩するじゃないか!」
「俺は悪くない!ハッパでラリったアイツらが悪いんだ!」
宗一郎は顔をしかめコーラの瓶を煽った
「だったらなんとかこれを成功させようよ!金がいるんだぞ、僕達は」
泥だらけのスニーカーを、パンパンはたいて竜馬が言う
「あ~あ・・・せめてもう一人いたらもっと作業が進むのになぁ~、それに帽子もいるし、手袋もいるぞ!」
竜馬はこんな仕事するヤツなんか大学生で誰もいないよと口を開きかけて・・・ハッと頭の中に電球が光った
竜馬は宗一郎に言った
「いいヤツがいるっっ!!」
. .。 .:・.。.
荒野の中をまっすぐに伸びた一本のハイウェイを、爆音を立てて竜馬の運転する2トントラックが疾走していた
助手席には宗一郎、そして荷台には大きなフェンスの巻きを乗せて・・・そしてそのフェンスの横には・・・竜馬が買ってあげた、サーティワンのミントチョコアイスを食べているセドリックが乗っていた
. .。 .:・.。.
午後も半ばの今、少し肌寒いがよく晴れた日で、草原は濃い緑色のカーペットを敷いたようで、木も草も風に揺れていた
ワイナリーのすぐ隣の絵画のごとき放牧地では、馬が数匹放されていて楽しく駆け回って遊んでいる、セドリックは竜馬の仕事の説明をすぐに理解した
竜馬達はよく働くセドリックのおかげで、計測器で均等に距離を測り、玉汗をかいて木の杭を打ち込み、ようやっとフェンスを張り巡らせれる作業工程に入っていた
「宗一郎、あそこ、曲がってる」
「なんだよ!セドリック!これぐらいいいじゃね~か!」
宗一路はいぶかしげなまなざしをセドリックに向けて睨んだ、もっとも本人はそんなつもりはないのだが、いつも彼の目つきは喧嘩の種になる
しかしセドリックはそんな宗一郎の目つきなどおかまいなしだ、宗一郎のやった雑な仕事が、どうも気に入らないらしい
「ダメ!曲がってる!」
セドリックはブンブン首を振った
「おい!竜馬!言ってやってくれよ!こんな小さなことにこだわってたら、日が暮れちまうぜ!」
竜馬が見てみると、たしかにさっきの杭に打ち付けた地点より、若干網目がずれて上がっているように見える
「・・・セドリック・・・この網目がずれてるのがダメなの?」
竜馬はなるべく穏やかな口調でセドリックに言った
「んだ!」
ブンッとセドリックが子供のように首を振った
「わかった!宗一郎やり直そう!」
「ちょっ!ちょっと待ってくれよ!こんな小さな網目のズレなんか誰も気にしないぜ!せっかくここまで張ったのによ!俺はやらないぞ!」
そう言って宗一郎は木陰にゴロンッと寝っ転がった
「じゃぁいいよ・・・そこで休憩してろよ、セドリック!行こう」
「んだ!」
セドリックが巻きロールのフェンスをかつぎ、竜馬と網目がズレてる地点に向かった
「・・・ったく・・・なんだよ・・・アイツ細け~な!」
「・・・・・」
しばらく宗一郎は綿菓子のような雲を眺めていたがやがて遠くで、作業をしている二人を気にしだした
「わかったよ!クソッ!」
宗一郎は二人の後を追いかけた
. .。 .:・.。.
ホールストリートの住民は、セドリックの体の大きさと、醜い容姿に、誰もが彼を嫌って腫物のように扱うが、竜馬はジャスティンの傍で、子猫のように大人しい彼を見ていたので、彼にみんなと違う印象を抱いていた
確かにセドリックは普通の成人した人間のような知能はないかもしれない、でも心はきっと繊細で、みんながセドリックを凶暴な人間のように思って扱えば、きっと凶暴になってしまうのだろう
ジャスティンはこんな大きなセドリックを、たとえば小さな守ってやらなければならない存在ように扱っていた、するとセドリックは、ジャスティンにはとても素敵な友人になった
そうこうしているうちに、三人はまる三日かけて、最後の柵の入口のドアを取り付けた、広大なブドウの木々をすっぽりフェンスで囲んだ素晴らしいワインセラーが出来上がった
「わーい!わーい!」
セドリックは子供のように喜んで飛び上がった
「なぁ!あいつちょっと気難しいところがあるんじゃね~か?いったいどう扱ったらいいか、わからないぜ」
助手席に座る宗一郎は眉毛を寄せて言う
「扱つかいにくくなんてないよ!大切な友達に接するように接したらいいんだよ」
竜馬は広大なハイウェイを運転しながら、助手席で窓に肘をつている宗一郎に言った、後ろの荷台ではセドリックがいびきをかいて寝ている
「そして決してバカにしないこと」
そう言って宗一郎にウィンクした
. .。 .:・.。.
ある日、ビームスが嬉々として工場で働く竜馬に声をかけてきた
「いやぁ~!なんでもヤッコさん!お前らのフェンスを張る仕事をえらく気に入ったみたいだぜ!まるで機械で張ったみたいで、美しくて丈夫だってなぁ~よくやったな!竜馬!」
高笑いをしながらビームスはバンバン竜馬の背中を叩いた、あまりに強く叩かれたものだから竜馬は少し咳込み、髪についた小麦粉が辺りに舞った
「あ・・・ありがとうございます」
「次の仕事が入って来たがやるか?今度のはワイナリーより報酬がいいぞ」
そう言ってビームスはその場で電卓を叩いて数字を竜馬に見せた、その数字を見た竜馬はたちまち笑顔になって言った
「やりますっ!!」
. .。 .:・.。.
「ほらっ!セドリック!お前の分け前だぞ」
宗一郎に二回分のフェンス張りの報酬が入った封筒を渡されたセドリックは、じっと中身を見た、そして顔を少し、しかめて言った
「いらない」
「はぁ?何でだよ?セドリック?やっぱりお前変わってるな」
「セドリック・・・どうしてお金がいらないの?」
「お金・・・・きたない・・・お金の貸し借り・・ダメ!マミー怒る」
「そうか!それじゃ俺が―」
そう手を出した宗一郎の手を竜馬がパシンと叩く
「・・・マミーがお金の貸し借りはダメって言ったの?」
「んだ!お金!もらう!よくない」
「でも・・・これは君が働いて稼いだ正当な報酬なんだ、マミーにそう言ってごらん、竜馬と仕事をしてセドリックが稼いだって」
「でも・・・・」
彼は下を向いて両手の人差し指を突き合わせてもじもじした、どうしたらいいのか考えているように見える、少ししかない彼のブラウンの短髪が、フワフワ風に揺れている
「マミーもきっと喜ぶぞ!」
「ほらっ、もし怒られた時のために僕達ここで待ってるからさ、そのお金、マミーに見せに行ってきなよ」
普通の家三件分はあるセドリックの大きな丸太小屋ロゴハウスの家の前に、竜馬達はトラックを止めて話し込む、そう言われて安心したのか、セドリックがまるで危険物資でも持つかのように、親指と人指し指で現金が入った封筒を摘み、家の中に入っていった
「マミーって怖いのかな?」
宗一郎が言った
「きっと幼児のような心のセドリックが、何か外で金銭トラブルを起こさないように、彼のお母さんが厳しくしつけているんじゃないかな?・・・よくわかんないけど・・・」
セドリックのカントリー調の丸太小屋の奥の・・・藍色に染まる空を二人で見る、家の屋根の煙突の煙と美味しそうな夕食の匂いが二人の所にも漂ってくる
グ~・・・「・・腹減ったな・・・」
グ~・・・「ああ・・・」
しばらくするとセドリックが頬を染めて二人の所に駆けてきた
「お~いい・・・竜馬ぁ~!宗一郎~!マミーが晩御飯食べて行けって!」
「やった!!」
「やった!!」
竜馬と宗一郎は唇を舐めて微笑んだ
. .。 .:・.。・
宗一郎が夢中になって手づかみでスパイシーな鶏手羽を歯でこそげ落としている、竜馬は三切れ目の熱々のオムレツを平らげた、 そのオムレツにはチーズだけではなく、ベーコンとアスパラ、野生のマッシュルームも入っており、シカゴ玉ねぎが風味を添えていて、いくらでも食べれそうだった
アメリカに来て、二人はこれほどおいしい料理を食べたこともないし、こんなにしつこいほど料理を褒めることもなかった
籠に入っている焼きたてのロールパンはフワフワで、ガーリックバターがよく効いていた、延々食べられると竜馬は思った、二人のせいで籠のパンはみるみる無くなった、甘いの、酸っぱいの、辛いのと 一通りテーブルにはアメリカン料理が所狭しと並んでいた
「さぁさぁ!出来立てのビーフストロガノフはいかが? 」
セドリックのマミーが大鍋をテーブルにドンと置いて言った、さすがはセドリックのマミーだ、竜馬の三倍はあるだろう腰を揺らしていそいそと美味しい食べ物を、竜馬達にふるまってくれている
食べるのに忙しくてしゃべれない竜馬と宗一郎は、口に料理をかきこみながら、無言で皿をマミーに突き出し「 欲しい」という意思を示した
「こんなに美味い飯は初めてだ!!セドリックはこんなのを毎日食ってるのか?羨ましいよ!マミー! 」
セドリックの髪色とそっくりなマミーが、宗一郎の称賛に顔を輝かせ、クスクス笑いながらローストビーフを薄くカットして マッシュルームを添えて、二人の皿に盛ってやった、それをフォークで突き刺して二人がまた口に入れると、あまりの美味しさに二人は体を震わせた
さらにあと二つの大鍋がコンロの火にかかっている、セドリック・マミーのメニューはまだまだ続きそうだ
#地雷系
尾津嘉寿夫 ーおづかずおー
1,294
クラリス
2,220
リリア💙🤍
207
#いじめ
名瀬口にぼし
279
コメント
1件
よかった……もう、ほっこりしました。竜馬と宗一郎、そしてセドリックの三人が力を合わせてフェンスを張り、最後はマミーの絶品料理に舌鼓を打つ。身体がきしむほど働いた後の、あの温かい食卓が目に浮かぶようでした。 特に、額は汗ばみながら、網目のズレにこだわるセドリックに「やり直そう」と優しく言った竜馬の姿が印象的でした。本人に知能がどうこうじゃなくて、心をまっすぐに認めてくれる人がそばにいる――その大切さを思い出させてくれる、素敵なエピソードでした。 星キラリさん、今日も心がぽかぽかになりました。ありがとうございます。