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—消えた理由—
まだ空が白くなる前に、目が覚めた。
「……」
隣に、エリオットがいる。
規則正しい呼吸。
無防備な寝顔。
(……やめときゃよかった)
何回目か分からない後悔が、静かに落ちる。
視線を逸らす。
触れたら終わる気がした。
「……くそ」
小さく吐き捨てる。
分かってた。
最初から。
あいつは――
“こっち側”じゃない。
ピザを焼いて、笑って、客と軽口叩いて。
そういう場所にいるやつだ。
(巻き込むなよ)
自分に言い聞かせる。
なのに。
昨夜の感触が、まだ残ってる。
指先も、呼吸も、声も。
全部。
「……無理だろ」
小さく笑う。
笑えないのに。
***
ポケットからコインを取り出す。
いつものやつ。
迷った時、決めるためのもの。
でも今回は――
「……決まってるか」
投げるまでもない。
結果なんて、最初からひとつだ。
“離れる”
それしかない。
「……」
ベッドの端に、コインを置く。
あえて。
持っていかない。
(これでいい)
あいつなら、意味に気づく。
気づいて――
「……来るなよ」
小さく呟く。
願いみたいに。
***
部屋を出る。
ドアが閉まる音が、やけに大きい。
振り返らない。
振り返ったら、終わる。
***
外に出た瞬間。
空気が変わる。
夜の冷たさじゃない。
“現実”の匂い。
視線を感じる。
遠く、車の中。
(……いるな)
舌打ちが漏れる。
黒塗りの車。
昨日から、ずっと。
(しつこいな)
ポケットに手を入れる。
武器の感触。
いつも通り。
いつも通りなのに。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
頭の中に浮かぶのは、あいつの顔。
ピザ屋のカウンター越しに笑ってたやつ。
何も知らないままの顔。
(あれでいい)
あのままでいい。
巻き込むな。
壊すな。
「……」
コインを置いてきた理由。
それは――
“区切り”だ。
あれを見れば分かる。
終わりだって。
あいつは賢いから、踏み込まない。
踏み込ませない。
それでいい。
「……それでいいんだよ」
呟く。
自分に言い聞かせるみたいに。
でも。
ゆゆゆゆ
3,330
#doublefedora
足が、少しだけ止まる。
ほんの一瞬だけ。
(……来たら)
もし。
あいつが、あのコインを持って。
ここまで来たら。
「……」
喉が詰まる。
(その時は)
考えるのをやめる。
そんなの――
決められるわけがない。
「……チッ」
舌打ちして、歩き出す。