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鉄板なところで、映画鑑賞でもするか?
という蒼の提案により、私たちは駅前のレンタル屋さんに行くことにした。
手をつないで、夜道を歩いた。
ついこの間コンビニに行った時は不安で仕方なかった暗い道。
けど、蒼と手をつないで歩いたら、なんにも怖く感じない。
「帰りはコンビニよって、お菓子買って帰ろっか」
「そうだな」
「そうだ!家にキャラメルソースあるから、ポップコーンにかけて食べよっか」
「いいねぇ!」
ニコニコと笑顔が絶えない蒼。
そう言えば、こんなにずっと笑っている蒼を見たの、久しぶりかも。
学校にいる時はクールって言われるだけあって、いつも落ち着いた表情をしているから。
くだらない冗談を言ったり、子どもみたいにはしゃいだりする蒼。
なんか、カワイイな…。
もしかして、こんな蒼を見るのって、私だけ、なのかな…?
だったらすごくうれしい。
すごく、胸がくすぐったく感じる…。
映画は、私は結構観るんだけど、蒼はあんまし興味ないらしい。
たしかに蒼って、バスケ始めてからは身体動かして遊びまわってばかりになって、家で遊ぶこと少なくなったもんな。
でも、そんな蒼にも、一応好きでよく見るジャンルがあるらしい…。
「ホラー…!?」
蒼に手を引かれた私は、異様な雰囲気のする棚の間に来て立ち止まった。
ホラーコーナー。
ここだけ、パッケージのせいでくらーく、こわーく感じるんだよねぇ…。
「なに観るー?」
「やだ!ホラーなんか観ないっ」
私はコメディとかアクションが好きなの!
ホラーなんて絶対無理!
パッケージ見るのさえ怖いんだからっ。
「おまえってほんと見かけ倒しだよなー。『こんなの作り物でしょ?』とか言って平然と観てそうなのに」
「見かけは関係ないでしょ!」
「あ、これ、前観たヤツの続編だ。面白そうじゃね?」
「やだぁ!見せないでよぉお」
「あはっはは。なにが怖いんだよ、たいした怖い表紙表紙じゃないじゃん、ほら」
「やだやだっ!もう、いじわるッ!もう私別のとこ見てるっ」
すたすたといつも向かうファンタジーやコメディのコーナーに避難する。
ふぅ…こっちは色鮮やかだ…。
動物やコミカルな女の子の表紙が、怯えて疲れた心を癒してくれる…。
しばらく眺めていると、近くに女の子二人がやってきた。
年は私と同じくらいかな。
溌剌そうな感じで、スポーツをやってそうな感じの女の子たちだ。
違う学校の制服に大きなスポーツバックを下げている。
部活帰りかな?
「ところでアカネどこいったの?」
「元彼いた、って言って、会いに行ってるよ」
「えー元彼?」
「そうそう。K校の、例の彼だよ」
「えー!蒼くん??」
え…?
私は思わず視線をやった。
けど女の子たちは気にしないで興奮げに続けている。
「けっこういいとこまで行ったけど別れちゃったんだよねー。なんだっけ、アカネが振ったんだよね、たしか」
「そうそう。蒼くんほんとイケメンなのにもったいなーい、って散々話したよね。さっきちらっと久しぶりに見たけど、やっぱりイケメンだったよー」
「え、私らも会いにいこうよ」
「えーアカネの邪魔したら怒るよ?」
「大丈夫だよ、アカネから振ったんでしょ?私も蒼くんと話したーい」
きゃっきゃと去っていく女の子たち。
これにしようかな、って手に取っていた、ネコちゃんがニヒルに笑っているパッケージも、もう私の胸を弾ませてくれない…。
元彼…。
そうだよね…。
蒼は私以外の女の子とも付き合っていたことがあるんだよね…。
解かってはいたことだけど…
いざ突きつけられると、その事実は私の胸を暗く重くさせる。
気づけば私は、ホラーコーナーに近づいていた。
さっきの女の子たちと向かい合って、蒼が話していた。
その隣には、すらっとしていて、つやつやの黒髪をポニーテールにした女の子が立っていた。
顔はわからないけど、白いうなじがどこか大人っぽい雰囲気をだしている…。
蒼は笑っていた。
すごく楽しそうに。
「K校今年はインハイ惜しかったねー」
「おまえらんとこは行けたんだろ?さすがだなー」
「ありがとう!今年はアカネが絶好調だったからねー」
「へぇ、すげぇじゃん」
「当然。だって死ぬほど練習したもん」
そっか、あの子たちもバスケ部なんだ。
試合会場とかで知り合ったのかな…。
蒼、バスケの仲間にもああやって笑うんだ。
知らなかったな…。
って、痛いな私…。なにこんなこそこそ覗き見なんかしてるんだろう…。
今蒼は私と付き合ってる。だから気にする必要なんかないんだ。
またDVD選びに戻ればいい。もしくは、私も話に参加したっていい。
なのに…私は意気地なく立ち尽くしたままでいた。