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今更だけど、蒼にカノジョがいたって事実が、胸を深くえぐってじくじくと痛みをあたえる…。
私以外にも、蒼の手にふれられて、じっと見つめられて、強く抱き締めてもらった女の子がいたんだな…。
そう考えると、胸を切り裂かれるように、たまらなくつらい…。
なぁに…このイヤな気持ち…。
「でも嬉しいな、蒼くんとアカネがまた仲良く話してるの。どうして別れちゃったの?あんなにお似合いだったのに」
「たしか髪をどうとかって、アカネ言ってたよね?」
アカネさんと蒼は困ったように一瞬顔を見合わせた。
「アカネ、髪伸びてイメチェンしたからびっくりしたでしょ?髪伸ばしたら急にモテだしてさ、今じゃ男子バスケのエースと付き合ってんだよ」
「…へぇ、そうなんだ」
アカネさんはするっとポニーテールをほどくと、どこか挑むような口調で蒼に言った。
「言われた通り伸ばしてみたんだけど、どう?蒼くん。カレシも伸ばした方が好きって言ってくれてるんだ」
蒼はちょっとぎこちなく微笑んだ。
「そうだな。似合ってるよ」
その顔が、ふとこっちを見て、目を見張った。
私に気づいた。
「蓮…!?」
蒼の声にアカネさんたちも振り返った。
初めて見たアカネさんは、スポーツをやっている人らしく、明るそうな印象をした綺麗な人だった。
がたっ
咄嗟に私は手に持っていた籠をおいて、店から飛び出した。
なにやってるの、私…。
みっともない…。
けどもう、いろんな感情で胸が壊れそうで…
「蓮っ!」
蒼の手に捕えられていた時には、泣き崩れる寸前だった。
「離してよっ!」
「なに怒ってんだよ」
「怒ってないっ」
「怒ってるだろ」
ドン、と押し付けられたのは、建物の冷たいコンクリート壁だった。
蒼の真剣な眼差しが、街路灯の光を跳ね返して、私を見下ろしている。
「もしかして、嫉妬したのか?」
「…」
絶句する。
胸がズキリと痛む。
図星を突かれた痛みだった。
そう。私は嫉妬していた。
もう別れた人なのに。
蒼とはもうなんともない、昔の人なのに、嫌な気持ちになるの。
胸がじんじん痛んで…腹が立つ。
これが、嫉妬なの…?
いやだ…こんな気持ち…いやだ。
頬に熱い雫が弾けた。
その次の瞬間、同じ頬に温かく柔らかい感触を感じた。
初めて流した嫉妬の涙を優しく吸い取ってくれた唇は、
そのまま、私の唇をそっとふさぐ。
「…可愛い」
「……」
「おまえ、今日何回俺に『可愛い』って言わせれば気がすむわけ?」
「ばか…。ヘンなこと言わないでよ…。こんな嫌なことを考える女、可愛いわけないじゃない…」
「ん…でも、蓮は別」
「……」
「今蓮はきっとすごく嫌な気持ちになってるんだろうな…。けどごめん…。俺はそれが嬉しくて仕方ない」
「…いじわる…!」
「ああそうだよ。だって可愛いから」
いじわるな性格。
でも、そんないじわるな蒼に絆されただけで、
どうすることもできなかった嫉妬をあっさり発散させてしまう私も、
十分嫌な性格なのかもしれない…。
「あいつは…アカネはさ、一年位前に大会で知り合って、コクられたから付き合ったんだ。同じようにバスケ部だったし、性格もサバサバしてて気が合ったし。…なにより、背格好がおまえに似てたから」
「……」
思わず見上げると、『ひどいだろ』とでも言いたげに、蒼は苦笑いを浮かべていた。
私の髪を撫でながら、苦々しげに続ける。
「俺、あいつに本当にひどいことしてしまったんだ。付き合ってた頃、あいつの髪はセミロングだったんだけど、俺はしきりに伸ばしてくれってお願いしたんだよ。邪魔だから嫌って言ってるのに、けっこうしつこく頼んじゃって。それをあいつは不思議に思ってたんだろうな。それに気づかなかったガキな俺は、おまえ覚えてないかもしれないけど…ある日の試合で応援に来てくれた蓮をあいつに紹介したんだよ。その後、突然ひっぱたかれて。直後の試合であいつはミスの連発。その直後、手痛く振られた」
「……」
「きっと、おまえ見て俺の本心に気づいたんだろうな。女ってどうしてああ勘がいいのかなぁ」
「……」
「だから、それからは俺、告られても付き合わないようにしたんだ。そしたらクールとか硬派とか言われるようになるし、うるせぇよ、ってな」
「……」
「あいつのことはずっと気がかりだったんだけど、でも今日会ったら元気だったから安心した。カレシもいるって言ってたし。
これで俺も気兼ねなく本当の恋に打ち込めるかなって」
ふぅ、と蒼はどこかほっとしたような吐息をつくと、
まだ濡れている私の頬をぬぐって手を差しべてくれた。
「もう涙は止まったか?いこっか」
その手にそっと手を重ねると、ぎゅっと握られる。
強く強く。
その強さを感じて、私は心底自分が大馬鹿だと思った。
ごめんね、アカネさん。
ごめんね、蒼。
そう想いを込めて、ぎゅっと蒼の手を握り返した。
その後、『アカネたちはまだ中にいるだろうし気不味いだろ』っていうことで、蒼はそのまま家に帰ってくれた。
テレビでちょうどコメディ映画をやるってことを思い出して、帰りにコンビニでお菓子を買って、家に帰って観て、レンタル屋さんでの嫌な気持ちを忘れるよう笑いまくって、そして、私と蒼は、もうずっと昔からしていたみたいに、いっぱいいっぱい、キスをした。
ねぇ、蒼…。
私ね…、蒼を好きになってから、新しい自分、新しい気持ちを見つけてばかりいる…。
今、私は胸に大きな気持ちを抱えていて、どう扱えばいいのか、困り切っている…。
『好き』
っていう、とても不思議な、大きな気持ち。
今は胸の中に収めているけれども、いざ口に出して解放した時、この『好き』って不思議な気持ちは、この先私にどんな新しい気持ちや未来を与えるんだろう…。
蒼…ごめん、待ってね…。
好きだよ、って…
ちゃんと伝えるから…。
蒼が誰よりも何よりも大好きだよ、って伝えたいから…。
私にもう少しの勇気が湧きあがるまで、もう少し待っていて…。