それから僕達はたくさんのことをした。予定していた遊園地にも冬休みに行き、カラオケやボーリング、ショッピングなど忽那さんのやってみたいこと、沢山やった。忽那さんと一緒にいればいるほどあの夏の日、君を呼び止めて置いて良かったと思う。心から笑ってくれる忽那さんが見られて本当に幸せだ。ほとんど僕のわがままだったけど、それでいい。それから、僕と忽那さんの素敵な毎日が続いた。そして今日は忽那さんの誕生日2月7日。プレゼントにはめっちゃ悩んだ。何が欲しいのかなんて全く分からなくて数時間ショッピングモールを闊歩したけど、結局無難なものにしといた。これから、家に直接渡しに行くところだ。喜んでくれるといいだけど。「よし、ここか。なんどいっても緊張するな。」
家には何回も行ってるけど一人で行くのは初めてだ。いつも学校帰りだから私服で行くのは慣れない。
インターホンを鳴らす。
「すみません。赤瀬です。」
「あ、赤瀬君。はいっていいよ。開いてる。」
扉を開けて家に入る。
「部屋に来ていいよ。」
忽那さんについていく。なんだかいつも以上に緊張するな。忽那さんが扉に入っていったのに続いて部屋に入る。
「座っていいよ。で、今日は何するの?」
忽那さんには一応誕生日をお祝いするとは伝えていない。今日わざわざ遊ぶ約束をした時点で察されてはいると思うけど。
「今日忽那さんの誕生日でしょ?だからお祝いしたくて。ええと、これ誕生日プレゼント。それと小さいけどケーキを買ってきた。」
「え?誕生日?あ、そうか今日私の誕生日なんだ。ありがとう!すごくうれしい。どうして私の誕生日を知っているの?」
「えっとお母さんに聞いたから、かな。」
「お母さんか。いいそう。」
本当はカラオケに行くときにだした学生証から盗み見たなんて言えない。
「プレゼントあけていい?」
「うん。開けて。いらないものだったらごめん。」
「そんなこといわないで。私はなんでもうれしいから。」
ああ、またやってしまった。この自分を信じず保険をかけとく性格直さなきゃ。
「じゃああけるね。」
忽那さんがプレゼントを開けていく。どんな反応するんだろ。
忽那さんがプレゼントの袋を見続けている。長いな。あれ、あまりにも長いそんなに衝撃的なものだったか?
「忽那さんどうかした?」
忽那さんが突然そのまま倒れる。なにか様子がおかしい。まさか!
すぐさま119に電話し状況を伝えた。
電話して5分後救急車がきて忽那さんを運んで行った。
電話で目を覚ましたという連絡を聞いたのは僕が家に戻って1時間後だった。病院まで自転車を本気で漕ぎ向かう。ここまで本気を出したのはいつぶりだろうか。いや今はそんなのどうでもいい。急がなきゃ。
「すみません!忽那花火さんの病室はどこですか?」
「えっと、忽那さんですね。ならあちらの病室に……」
「ありがとうございます!」
「忽那さん!」
とびらを開け名前を叫ぶ。ここが病院だということも忘れてただ忽那さんを心配するように。
そこにはきょとんとした目でこちらを見る。忽那さんとそのお母さんがいた。
「あ、ええと、」
「この人がさっきいった赤瀬君よ。ほら挨拶して?」
「あの、あ、忽那花火です。こんにちは?赤瀬さん?」
「は?――――あ……」
僕はその場に崩れ落ちた。全身を支える筋肉がまるで機能しなくなり、たつ事が出来なかった。
いやだ。こんなの。いやだ。忽那さんが記憶喪失?そんな。わかっていたはずだ。忽那さんがそういう病気だって。最初に言っていたじゃないか。私を忘れてって。なのに僕は彼女と一緒にいたいからなんて理由で忽那さんを助けるなんて建前で一緒にいた。どうして考えなかったんだ?原因はわからないって言っていたじゃないか。わかっていた。わかっていたじゃないか。わかっていたのに、どこかでこの幸せが一生続くんだって思っていた。物語の主人公のようにご都合主義で何とかなるなんてそんな甘い考えが、僕にはあったんだ。涙がとまらない。だめだ。忽那さんの前でこんな。立ち上がる力もでない。どうすればいい。ぼくはいったいどうすれば。脳裏にあの日の言葉がよぎる。忽那さんが泣き叫んで、でも「自分」を取りもどした日。もうあの日々は戻らない。そんなの、そんなのって。
「だい、じょうぶですか?」
聞きなじんだでもどこか違う声が聞こえてくる。やっぱり忽那さんは優しい。突然泣き崩れた変な人も心配して声をかけてくれる。そうだ。忽那さんの記憶が消えても心の奥の「忽那花火」は消えていないんだ。まだ忽那さんはいる。大丈夫だ。なんとか体を持ちあげ、たつ。
「うん。大丈夫だよ。ありがとう心配してくれて。」
いいんだ。また教えてあげればいい。君の中にあるよだかの星も知らないことを何もかも教えて、そうしてまたふたりで出かければいい。きみと友達になる。助けたいって思ったから。まだ取り戻せる。あきらめちゃいけない。
「花火さん。大丈夫?」
「はい。問題ないです。」
突然病室に医者らしき人が入ってきた。なにか状況がわかったんだろうか。
「あの!なにか状況がわかったんですか?」
「ああ、君が赤瀬君だね。話は聞いているよ。もう状況のほうは伝えてあるんだ」
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