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医者のあとをついていき、裏の休憩室的な所まで来た。「赤瀬くん、今日は来てくれてありがとう。先程も言ったが話は花火ちゃんから聞いてるよ。今日は感謝を伝えたくてね。」
「感謝?僕何もしていないですけど。」
「いやいや、そんな事ない。私はね彼女が記憶喪失で病院にやってきたからずっとずっと彼女を診てきたんだ。」
「なるほど。担当医ってやつですね。」
「正確にはかかりつけ医だね。そして彼女の謎の病気について調べるために花火ちゃんには1ヶ月に1度カウンセリングに来てもらっていたんだ。この1ヶ月何があったか。不調はなかったかなど。当たり障りのないことを聞いていた。何が記憶喪失のきっかけになってるか分からないからね。 そして本題なんだが、最近の花火ちゃんはとても笑うようになったんだ。私が彼女のかかりつけ医になってから笑うことはあってもそれは心から笑っていなかった。そうしなきゃならない。そう出なきゃ行けないという一種の脅迫観念に襲われていた。取り繕って笑う花火ちゃんをずっと見てきた。そして3度目の記憶喪失のあと、彼女は笑わなくなった。カウンセリングには来てくれたが話してくれるのは授業と天文学の話だけ。そんな日々がずっと続いた。でも君と出会ってからの彼女は話の中に君の名前が出てくるようになった。初めは話しかけられた程度しか言ってこなかったが、だんだんと君の話だけするようになった。その時の彼女は笑っていたよ。心の底から素直にね。そしてここ最近の彼女はもっと感情豊かになった。それも全部君のおかげだ。赤瀬君。ありがとう。」
「いえ、僕は彼女に何もしてあげられなかった。ただ僕が彼女といたいからそうしたまでです。なんおで感謝される筋合いなんかありません。」
「たとえそれが君の自己満が招いた行動だったとしてもそのおかげで救われた人がいるならいいんじゃないかな。」
「そう、ですかね。」
本当に彼女は救われたのだろうか。いまとなっては知りようがない。いまはそうであったと信じるしかないだろう。
「それで、なにかわかったんですか?」
「ああ、絶対とは言えないが原因らしきものは判明した。解決法はまだないがね。」
「なら教えてください。」
「本当に聞くのかい。一応忠告はしておくよ。」
「お願いします。」
どんなに深刻な状態だってかまわない。知らなきゃどうしようもない。
「わかった。話そう。聞きたくなくなったらいつでも言ってくれ。さて、彼女の病気はいままで何をきっかけにしているのかわからなかった。君も花火ちゃんのお母さんから聞いただろう。初めは過度なストレスが原因なんじゃないのかと考えていた。ストレスにより記憶を失う人はそうまれではない。ただ、彼女の場合はそのストレスの感じ方が人よりも強いのではないかと。心が繊細な人の中には、身の回りの少しのことが大きなストレスになることがある。赤ちゃんの泣き声、日々の通学、挨拶をすることなどのね。でも今回の記憶喪失により、その可能性はゼロではないがかなり低くなった。それ以上に可能性のあることがわかった。」
「それは何ですか。」
「逆だったんだ。」
「逆?」
「そう。ストレスではなく幸福といったほうがわかりやすいか。1つ例を交えて話そう。人間には脳がありそこで物事を記憶している。これをわかりやすくスマートフォンで表そう。人間の脳はメモリだと考える。人々は生きるために必要なことを忘れることはめったにないだろう。歩き方や話し方ほかにも眠ることや食べることなど生きてくうえで必須なことは忘れない。でもそうでないものはどうだろうか。経験したこと、要するに楽しかったことやつらかったことなどは思い出として残るだろう。でも普段の生活をすべて覚えているわけではない。どうでもいいことは覚えていないし、覚えたとしてもすぐ忘れる。本当に記憶したいもののみを思い出として保存するんだ。そして彼女の場合も同じ。どうでもいいことは忘れ、覚えたいものは覚える。でも少しだけ違うところが容量だ。普通の人が256GBだったとして彼女の場合は16GBしかない。それがいっぱいになった時記憶が失われるんだ。ただ失われるのは追加のSDカードだけで本体の内蔵メモリ、生きていくうえで必須の記憶は消えない。だから彼女が覚えたいものが増えると消えてしまう。それが現状の最有力候補だよ。」
「え?それって、忽那さんが覚えたいと思ったことが普段より多かった?」
「そうなる。君と2人過ごした思い出を、彼女が何としても覚えておきたいと思ったからじゃないかと考えている。だがもちろん君が気に病む必要は」
「は?僕が、忽那さんを、殺した?」
開いた口が塞がらない。言葉が出ない。
「違う!そうじゃない!君は」
「僕が、僕のせいで?忽那さんは、きお、くを、僕の、僕のせい?」
僕が忽那さんと思い出を作ろうとしたから、友達なんかになろうとしたから。余計なことをしたせいで。心では助けたいなんて気持ちなかったくせに。ただ君といたいという自分の欲望のせいで。忽那さんを殺した。僕は、僕は。
もう、忽那花火の横には居られない。
医者の呼びかける声が沢山聞こえる。でもなんて言ってるか分からない。何も届いてこない。
バァン!
「まって!どこに行くんだい!」
言わなきゃ。最後に。あの言葉をかけなければ。これでもう、最後だから。
病室のドアを開ける。忽那さんはお母さんと話していた。
「あ、赤瀬くん!何か聞けた?」
「はい。全部。」
「そう。ならわかると思うけど、赤瀬くんが責任を負うことじゃないわ。むしろ原因が分かったし、花火も楽しそうにしてた。だからね、」
慰めるお母さんの言葉を遮り、僕は忽那さんに目を向けた。
「花火。一つだけ言いたいことがあるんだ。聞いてくれる?」
「え?はい。大丈夫です。」
「唐突かもしないけど、きっと君の記憶の中にはよだかの星という話があると思う。それを誰かに読んでもらって、その話に感動していつか本物のよだかの星を見てみたいって思った。そんな記憶。今の君の思い出はきっとそれだけだと思う。君の覚えている忽那花火の最初で最後の記憶。君はそれを忘れないように大切にしてその想いを叶えようとしている。でもね。それは『忽那花火』の思い出であって君の思い出じゃない。思い出なんてこれからたくさん作っていける。だから心配しなくていい。強制するわけではないけど君は君のしたいことを好きなようにできるそんな人生にして欲しい。君は君の人生を歩んで欲しいんだ。これが僕が伝えたいこと。それじゃあ。さよなら。」
「待ってください!」
声を荒らげて僕を呼び止める。こんな大きな声あの夏の日以来だな。
「どうしたの?」
「あなたは私の事をなんでも知ってる!それだけ前の私と仲良くしてくれていたんですよね。なら色々と教えてください!昔の私のことを。何があったか全部。私、知りたいんです。」
「それは、できない。教えてしまったらそれは本当の君ではないから。僕は今の君に生きてほしいんだ。」
「そんなのあなたが辛いだけじゃ!」
「いいんだよ。これで。いいんだ。」
この言葉は嘘じゃないけど全てではない。僕が君から離れる理由は、もう一度君といることを選ばないのは、また君を殺してしまうのが怖いからだ。